「ボクが、どうしたいか? だって! 決まっているだ……ろ……う? ボクは何がしたいんだ?」
エリオットの問いに、ロックは自問自答し始めた。
ハンナが話しかけるも、それを無視して考え続けるロックを見て、ハンナはサラにお願いする。
「ねえ、サラ。話が長くなりそうだから、ぜいたく焼きりんごを作ろうよ」
「そうね、芯をくりぬいた林檎に蜂蜜とバターを詰めて、蓋をしているから、焼きましょう」
「やった!」
林檎を厚手の金属の鍋、ダッチオーブンに入れると、火にかける。
太陽は沈みかかり、涼しい風の中に、焚火の暖かさが混ざる。
三人はゆっくりと林檎が焼けるのを待つ。
その間にサラはコーヒーを入れる。エリオットとサラとロックの分を。そして、ハンナには蜂蜜入りのホットミルクを作った。
日は沈み、静かな夜。
サラは椅子に腰かけ、ハンナを膝の上に乗せ、火の具合を見る。
エリオットはその隣の椅子で、小川のせせらぎと虫の音に耳を傾けていた。
「そろそろかしら」
サラはダッチオーブンの蓋を取ると、ほんのりと甘い香りが顔を出す。
しおしおになった皮に、蓋にしていたヘタの部分から、甘みがこぼれる。
「サラ、サラ、美味しいそう! 早く取って!」
「慌てないの。慌てるとイタズラ妖精のパックが、お皿をひっくり返しちゃうわよ。はい、熱いから気を付けてね」
サラは林檎をひとつ、皿に取るとナイフで切り分ける。
すると中からバターと蜂蜜が溶け出し、林檎に絡みつく。
柔らかく、林檎の甘酸っぱく、バターのコクと蜂蜜の甘さが口で温かく踊る。
「美味しい! やっぱり、びんぼう焼きりんごとは違うね。パパ」
「そうだな。さすが、サラだな、この甘さがコーヒーにもよく合う」
エリオットもハンナも笑顔でデザートを食べているのを、大満足で見守ったあと、サラは焼き林檎の乗った皿を持って、ロックのそばにきた。
「貴方が何をしたくてやって来たのかはよくわからないけど、今日はこれを食べて帰ってちょうだい」
本当は二度と来ないでと思っているが、座り込んで静かに自問自答している男が可哀想になり、サラはそこまで言えなかった。
ロックは素直に焼き林檎を受け取ると、口に運んだ。
すると先ほどまで、死んでいたかのようなロックは生き返ったように叫んだ。
「美味い! これは美味い」
「あ、ありがとう」
「これは君が作ったのか」
「ええ、そうよ」
「これはとても美味い」
焼き林檎などサラにとっては特別な料理ではない。バーべーキューの時の定番として良くやるものだ。それでもこんなに美味しいと言ってもらえれば、嬉しくもなる。
そして、それはハンナも同じのようだった。
「うちのサラの料理は、どれもおいしいんだからね」
「そうなのか……なあ、どうして君は美味い料理を作るのだ?」
「どうしてって、美味しい方がみんな、嬉しいじゃない」
「嬉しいから……そうか、わかったぞ。ボクが何をしたいのか!」
ロックの言葉に、サラ達三人は驚いた。まだ、その話が続いていたのかと。焼き林檎を作っている時間でも、結果が出なかったのだから、すでに諦めているものだと思っていた。
すでにデザートを食べ終え、食器を片付け始めたサラは言った。
「それはよかったわね。でも、今日はもう遅いから帰ってちょうだい」
「ちょっと待て、すぐ終わる」
「じゃあ、片付けをしているから、どうぞお好きに話して」
「ボクは賞賛されたい! 褒められたい! 讃えられたい!」
「はいはい、わかった。わかったから、帰ってね」
サラはロックが何を言おうと、まともに聞く気はなかった。それでも、何か意味がある結論に達したのかと林檎の種ほどの興味はあったが、あまりにも幼稚なロックの言葉にサラは全く話を聞く気を無くしていた。
しかし、その言葉になぜかエリオットが反応した。
「詳しく、聞かせてもらおうか」