「さっきから、黙って聞いていれば、サラに対して失礼じゃないか?」
「君にそんなことを言う権利はないのではないか? お兄さん。君がちゃんとしていれば、君たちがこんな村にやって来ることもなかったんじゃないか?」
「何を言っている。俺はサラの兄ではない」
「じゃあ、この人とどういった関係だ。まあ、ボクは心の広い男だ。遊びの男の一人や二人許容してやろう」
「ふー、お前は話の通じない男だな。そんなので、友人はいるのか?」
エリオットはあきれ顔で、ロックに聞いた。
エリオットにとって、その質問は、ちょっとした疑問だった。
しかし、それはロックにとって地雷だった。
その言葉を聞いたとたん、ロックは顔を真っ赤にしてエリオットに詰め寄った。
「友人がなんだ! そもそも友人と言うものは同じレベルにあって、初めて成立するものだ。ボクのような優秀な人間に合う者なんてそう簡単にいやしない。いたとしても、性格がゆがんでいる、性根が腐っている。つまり友人になんてなりえないんだ!」
ロックは一気にまくりたてると、肩で息をし始めた。
そんなロックを見てエリオットは憐みを込めて言った。
「そうか、周りについていけなかったのか……可哀想に」
「何を言っているんだ、ボ・ク・に、周りが付いてこれないんだ! これでも、ボクは首席卒業だぞ。大体、孤高の天才には友人なんて不要なんだ!」
必死で言い訳をするロックを、静かに見守るエリオットはゆっくり口を開いた。
「そうか……動機ややり方は気に入らないが、サラに目を付けたのは評価できる。君とならいい友人に慣れると思ったのだがな……」
「え、ほんとうに……」
「しかし、君は孤高が良いと言うのか、残念だ……本当に残念だ」
「え、あ……」
エリオットは芝居かかった手振りで残念そうに言った。
それに対してロックは、自分で友人など不要だと言ってしまったプライドが邪魔をして、どうしていいか分からず、下を向いた。
そんなロックの袖を引っ張る者がいた。
「ねえ、お兄さん、お友達が欲しいの? ハンナがお友達になってあげようか?」
ロックはそこに小さな天使の姿を見た。
すべての人を笑顔にさせる微笑み。天使の輪が光る艶やかな髪。マシュマロのような柔らかな肌。
「おお、我が友よ!」
「何が我が友よ! 年の差を考えなさい!」
膝をついて小さなハンナの手を握ろうとしたロックを押しのけると、サラはかばうようにハンナを抱き寄せ、ロックを睨みつけた。
そして、ハンナに言って聞かせた。
「誰にでも優しくすることはとても大事だし、ハンナちゃんは素敵よ。でもね、相手をよく見て。この男は、貴族だと言うだけで、会ったこともない私に求婚してきたような男よ。そのうち、ハンナちゃんにも求婚してくるわよ。だから、この男に近寄っちゃだめ!」
「え、でも、このおじさん、捨てられた子犬みたいな瞳をしてて可哀想だよ」
ハンナの言葉にサラは危機感を覚えた。
この子は、将来ダメ男ホイホイになりそうだ。可愛らしくて、優しすぎて、しっかり者。弱っている相手を放っておけない。将来苦労するに違いない。そう考えたサラはハンナのために心を鬼にする。
「ねえ、ハンナちゃん。うちにはもう、ペコがいるでしょう。だから、これ以上は飼えないの。可哀想だけど、元居たところに帰してきなさい」
「えーハンナが、おじさんもペコもお世話するから、飼っちゃだめ?」
ハンナはそう言って、極上のうるうる瞳で訴える。
サラの心はグラグラと揺れ動いた。
「途中で投げ出さずに、ちゃんとお世話できる?」
「うん!」
「ちょっと待て、二人とも!」
ここまで、あぜんと三人の話を聞いていたエリオットが、口を挟んだ。
「なんの話をしているのだ! この男はペットじゃないのだぞ。こいつは自信過剰で、貴族になりたいだけでサラに求婚を申し込みに来た、首席卒業でぼっちの村長の息子だぞ!」
エリオットは自分で言いながら、ロックと言う男がどういう男か分からなくなり、ロックをまじまじと見つめた。
身長はサラよりも少し低く、運動をしたことがなさそうな細いインテリタイプ。神経質そうで一言で言えばめんどうくさそうな男だった。
「なあ、ロック。あんたは何がしたいのだ? サラと結婚するかどうかは別として、貴族になった後、お前はどうしたいんだ?」