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第24話 サラとハンナのごめんなさい

 もしかして、エリオットは村長にお金を渡すつもりだろうか? 旅をしているのなら、それなりの路銀を持っているだろう。しかし、それはエリオットとハンナの旅の資金である。こんなことのために使う物ではない。

 もしもそうであれば、後でエリオットにお金を渡さないと……

 サラがそんなことを考えていると、ハンナが目の前に立っていた。


「どうしたの?」

「ごめんなさい」

「どうして、ハンナちゃんが謝るの?」

「だって、だって、ハンナが悪いことをしたから……」


 そう言いながらハンナは涙をいっぱいに溜めて、両手で自分の服をぎゅっと握っていた。

 サラは静かに、優しく、暖かく包み込むようにハンナを抱きしめた。


「ごめんね」

「なんで、サラが謝るの?」

「だって、私がちゃんとしていれば、こんなことにならなかったから」

「サラは悪くないよ。サラの言うことを聞かなかったハンナが悪いの。ごめんね。あーん」


 ハンナはサラの胸の中で泣き始めた。

 ハンナを抱きしめながら、サラは何度も何度も『ハンナちゃんは悪くない。ごめんね』と繰り返すしかなかった。

 しばらくして、ハンナが泣きつかれて眠ったころ、エリオットが村長とともに戻って来た。

 エリオットは、サラの腕の中で眠るハンナを見て、言った。


「重いだろうから、俺が抱っこしよう」

「いいえ、大丈夫よ。それより、話しは終わったの?」

「ああ、終わった。それで、だ。こちらとして詫びのしるしとして、その肉を村長に渡したいのだけど良いか?」

「元々そのつもりで持って来たから、それは構わないわよ」

「そうか、悪いな」


 エリオットはそう言うと、村長の方を向いた。


「それでは、村長。約束通り、これを渡すから、これまでのことは水に流して、仲良くやりましょう」

「はい、分かりました。それでは私はこれで失礼させていただきます」


 これまでの態度とは打って変わって、村長はエリオットに気を使っているようだった。

 そのあまりの変わり具合に、サラは驚いたが、今は胸の中で眠るハンナを連れて家に帰りたい気持ちでいっぱいで、それどころではなかった。

 そのため、本当はこのあと革職人の所に行くつもりだったのだが、まっすぐ家に戻ることにした。

 ハンナを抱っこしたサラは、ペコの手綱を握るエリオットにお礼を言う。


「ありがとう、エリオット。あなたが来てくれて助かったわ」

「お礼を言われるようなことはしてないよ。それよりも二人に何もなくてよかった」

「でも、なぜあそこに来たの?」

「ああ、サラが村に向かってから、少ししてハンナがいなくなったことに気が付いた。こいつのことだから、こっそり君について行ったのだと推測が付いたのだ。それで追いかけてきたのだけど、村のどこに行ったのか分からなくてね。まあ、肉と皮を持って行ったのだから、肉屋か革職人の所だろうと考えたのだけれども、どちらも俺は場所を知らない。だからとりあえず、村長の家で教えてもらおうかと思って行ったのだ。どちらにしろ、村長には挨拶をしなければならないと思っていたからね」

「そうなのね……あ、そう言えば、あなた、今回の件で村長にお金を渡したのじゃないの?」

「お金……ああ、俺が村長に賄賂を渡したかって? 違うよ」

「じゃあ、あの時、何を見せていたの?」

「それは、これさ」


 そう言って、村長に見せた時のように、エリオットは胸から封筒を取り出した。

 それを見て、サラは不思議そうに訊ねた。


「それは何?」

「これは、ここの領主の紹介状だ」

「領主の紹介状? なんでそんなものをあなたが持っているの?」

「ほら、少し前に貴族の幼馴染がいるって言っただろう、悪ガキ仲間の。あいつのツテで、旅先の領主に紹介状を書いてもらっているのだ。子連れの旅人なんて、怪しいだろう。だから、ちょくちょくトラブルになってね。それをあいつに手紙で言ったら、そう言うことをしてくれるようになったのだよ。本当は、ここに来て真っ先に村長の所に行くべきだったのだけど、村についてすぐ、ハンナがどこかに行ったから、挨拶が今になったのだ」


 行商人など初めは村々に対し、すでに信頼のある行商人の元で一緒に旅をし、人となりを知ってもらってから、独り立ちをする。そうでなければ、封鎖的な村人の信頼など得られない。だから、行商人でもない、流れの騎士見習のエリオットは、村人からすれば警戒の対象。早く、村から出て行ってくれないかと思っているはずだ。それは、明確な悪意に代わる可能性もある。それを防ぐために、その土地の領主の紹介状など、かなりの効力を発揮するだろう。

 しかし、ただの騎士見習に領主が紹介状を書くことなど、普通はあり得ない。

 だからエリオットの幼馴染と言うのはどれだけの地位の貴族なのだろうか? そもそも、エリオットの話では、その幼馴染は家長でもない。

 サラは、不思議に思いながらも、実際にエリオットは紹介状を持ち、村長はそれを本物と認めたようだった。


「まあ、これでサラも、表向きは村人から悪意を向けられることはないと思うから安心してくれ」


 そう言って、エリオットはさわやかな笑顔を見せた。

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