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第22話 サラは村長の家に行く

 翌朝、三人で畑に向かい、ペコの食事をしている間、サラは荷台に毛皮などを乗せ、村へ行く準備をした。

 そんなサラにエリオットが声をかける。


「本当に一緒に行かなくて大丈夫か?」

「大丈夫よ。二人がウチに来る前も一人で行っていたから」

「……そうか、じゃあ、畑の方は任せておけ」

「ええ、お願いね。お昼までには帰ってくるからね。それじゃあ、ハンナちゃん、ペコ連れて行くね」


 昨日の夜はずっと不機嫌だったが、今はいつも通りのハンナにサラが声をかける。

 するとマリーゴールドのような笑顔で、答えた。


「サラ、早く帰って来てね」

「ええ、じゃあ、お利口で待っていてね」


 そう言ってサラは、ハンナの頭を撫でると、ペコの手綱を引いて村へと向かって歩き始めた。

 エリオットはその背中を見送った後、サラに頼まれた牛舎の掃除を終えたころ、ハンナの姿が見えないことに気が付いたのだった。


~*~*~


 サラは、重い足取りで村に向かっていた。

 サラは用事があるとき以外は、村に近寄らないようにしている。一人暮らしの時は村に行って人と接することができる楽しみがあった。たとえそこに悪意があったとしても。

 しかし、ここ数日、ハンナとエリオットとの楽しい日々を過ごしたからこそ、余計に村へ行く足が重かった。

 サラは村人にとってよそ者で、元貴族で、犯罪人である。仲良くするメリットがない。

 しかしサラにとっては生活をするため、村の人々とかかわりを絶つわけにはいかない。

 例えばイノシシの皮は、そのままでは何の役にも立たない。革職人になめしてもらわなければならない。そして、取りすぎた肉も今のところ、家に置いておいても腐らせるだけだ。村に行って他の物に交換してもらわなければならない。

 大物の獲物が取れたのだ、普段村に貢献していないサラが、村に貢献する絶好のチャンスなのだ。これで、村人たちの態度が軟化してくれることを期待している。

 そのため、何よりもまず、サラは村長の家へと向かった。

 その家は大きく、そして古い家だった

 そのドアの前で、サラは大きく深呼吸をすると、大きくノックと声を出した。


「村長さん、村はずれのサラです」


 そう言ってしばらくすると、ゆっくりとドアが開かれた。すると、中から年老いた背の低い女性が出てきた。

 村長の妻だった。彼女はサラを見ると、嫌悪感を隠そうともせず、言った。


「ああ、あんたかい。何の用だ?」

「実は、昨日、大きなイノシシが捕れまして、村のみなさんへお裾分けをしたいと思い、村長に相談に来ました」


 そう言って、ペコに引かせてきたイノシシ肉を見せた。

 それはどんなに人が多くても、数家族でも食べきれる量ではない。

 その肉を見た瞬間、村長の妻は大慌てで家の奥へと引っ込んだ後、村長を連れて再度現れた。どうやら村長は昼寝をしていたようで、目をこすりながら現われた。

 せっかくの昼寝を邪魔されて、いつもより不機嫌そうな村長は、妻から何も話を聞いていないように、文句を言ってきた。


「なんだ、あんたか。今は村の連中も忙しいから、お宅の手伝いなんぞ、できないぞ。そんなことより、そろそろあんたも村のために働いてもらいたいものだな」

「はい、私もそう思って、これをお持ちしました」


 サラはそう言って、先ほどと同じように持って来たイノシシ肉を見せた。

 イノシシの肉はこの村にとって、大事な食料である。

 それを見て、村長は驚きの声を上げた。


「どうしたんだ、これは!」

「昨日、私の畑にやって来たイノシシです。とれたての新鮮な肉ですよ。私たちでは食べきらないので、ぜひいつもお世話になっている村の方々にお分けしようと思い、持ってきました」

「女ひとりで、どうやって、こんな大物を……ああ、そう言えば、流れ者の親子があんたの所にいるらしいな」


 まだ、エリオットたちがやって来て数日にも関わらず、すでに村長が知っていることに、これが村の中の情報網かと、サラが驚いていると、村長は言葉を続けた。


「お前さんが、村はずれでどんな商売をしているかは知らないが、村の男たち相手に商売するのは止めてもらおう。村の風紀が乱れる」

「商売って、どういうことですか」

「そうだろう、まさか、昨日今日会った男を家に泊めておいて、何もなかったなんて言わないだろう。それとも、淋しいその身体を慰めるためだけに、子持ちの男を連れ込んだのか? ふん、男も男だ、子供を連れて、何をしているのだか」

「そんなことはしません。農作業を手伝ってもらったお礼に宿を貸しただけです! エリオットとハンナのことを悪く言わないでください!」


 サラは思わず声を荒げた。

 自分が村から良く思われていないことは分かっていた。しかし、関係のないエリオットたちのことを言われて、頭に血が上ってしまった。

 いつもは特に言い返さないサラが、大きな声を出したことに、村長が驚いた。しかし、所詮は背が高いだけの女性。村長は鼻を鳴らして、言い返した。


「なんだか知らんが、元お貴族様の犯罪者なんぞの施しを受けるつもりはないね。その肉をもってとっとと帰りな! このままじゃ腐らせて、どうしても困るって言うのなら、そこに置いて帰れ」


 村長の言葉に、サラは久しぶりにふつふつと負の感情が込み上げてくる。悔しさと怒りと悲しみの入り混じた感情。それの感情は、あのジェラール王子の体調不良の原因を作った微生物を生み出そうとしていた。

 村長からすれば、これまで税を搾り取られている『貴族』と言う者への憂さ晴らし。犯罪者でよそ者の女から、食料を施すと言われたようでプライドを傷つけられたのかもしれない。

 しかし、あまりにもひどい言葉ではないか。

 サラは自分の足元に、涙が落ちているのを見つめていた。


「でかい図体で、そんなところに突っ立っていられたら邪魔だ」


 そう言って、サラを押そうとする村長のすぐそばに小石が投げられた。


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