今日一日、予定外のことが多かったが、最低限の畑仕事をすませると、日が傾き始めた。
サラは後片付けをエリオットに任せると、ハンナと手をつないで、家路につく。
「ねえ、サラ。今日の晩ごはんは何?」
「今日はね。お米を炊いて、エリオットが取ってくれた、イノシシ肉を焼くわよ。あと、野菜スープね」
「サラにしては、ふつうだね」
「それって、どういう意味? 私は普通よ」
「ふつうじゃないよ。いつも特別だよ。初めて見る物ばかりで、美味しいよ。ハンナ、サラのごはん、大好きだよ」
「本当! 嬉しい! もーう、ハンナちゃんは可愛いのだから」
サラは思わず、ちいさなハンナを抱き上げてぎゅっとする。
子供特有の暖かさと柔らかさが、サラの幸福度を倍増させる。
「今日はみんないっぱい働いたから、いっぱいご飯も作るわよ」
「やった! サラ、だーいすき」
サラの言葉に通り、三人では食べきれないほどのご飯、塩と胡椒で焼いた、食べやすいように薄く切ったイノシシ肉をお皿に山盛り、そしてたくさんの野菜を煮込んだスープが食卓に並んだ。
『いただきます』の声が重なり、食事が始まる。
腹ペコ父娘がお肉を取り合い、ご飯をほおばり、スープで一服ついたころ、エリオットが芝居かかった声で言った。
「さあ、シェフよ、料理の説明を聞こうか。骨料理はどこに行った?」
「はいはい、骨料理は、ご飯と野菜スープよ。骨から取ったスープでお肉と一緒にお米を煮て、野菜スープは豚肉の時に使った味噌を入れたイノ骨味噌スープよ。だからこれは、エリオットは捕ってくれたイノシシまみれのご飯よ」
「ほう、イノシシまみれか……サラって、ネーミングセンスがないな」
エリオットは、イノシシ料理を美味しそうに食べながらも、やれやれと言った表情で言った。
ただの料理好きにネーミングセンスを問われても困ると、サラが反論しようと口を開こうとした時、お肉を飲み込んだハンナが、文句を言う。
「サラは、料理を作る人。ハンナは食べる人。だから、料理に名前を付けるのはパパの仕事!」
「え!?」
「だから、サラは、料理を作る人。ハンナは食べる人なの。だから、サラにネーミングセンスなんて求めちゃだけなの。なにもしてない、パパが名前を付けるのよ」
「う……」
ハンナの言葉に気圧されて、エリオットは黙り込んだ。そんなエリオットにサラが助け舟を出した。
「ハンナちゃん、エリオットがイノシシを捕ってくれたから、私が料理にできたのよ。だからエリオットが何もしていないなんて言わないで」
「そ、そうだぞ。パパがイノシシを仕留めたから、ハンナも今、サラの美味しい料理が食べられるのだぞ」
「うーん、そうだね……ありがとう、パパ」
「わかればいい。パパは出来る男だからな」
「さすが、パパ。頼りになる! そんな頼りになるパパに、お肉をどうぞ」
そう言ってサラは、エリオットの皿にお肉を一枚乗せた。まるで何もしてないと言ったことを謝るように。
父娘のほほえましいやり取りを見ながら、サラは明日の予定を話し始めた。
「ねえ、明日は二人で畑仕事をしてもらってもいい?」
「いいけど、なにか用事があるのか?」
「明日は村に行って来ようと思うの」
「村か……買い出しだったら手伝うぞ」
エリオットはスープを口に含みながら言うと、ハンナも一緒に村に行くと言い出した。
しかし、それをサラはきっぱりと断る。
「せっかく、エリオットが大きなイノシシを捕ってくれたから、皮とお肉の一部を村に持っていこうと思うっているのよ」
「そうか、じゃあ、荷物が多くなるな。俺も一緒に行こう」
「だ、大丈夫よ。ペコを連れて行くから」
「ペコが行くなら、ハンナも行く! そして、村で美味しい物を買ってもらう!」
ハンナはその小さな手を大きく上げて、主張をした。
ハンナと一緒に買いものは楽しいだろう。しかし、サラは首を横に振った。
「ハンナちゃんも、エリオットと畑仕事をお願いね」
「えー、やだ!」
「今度連れて行ってあげるから、我慢してね」
「ぶー!」
ハンナは唇を尖らせながら、エリオットの皿から肉をかすめ取った。
「それは俺の……」
「パパ、嫌い」