昼食の片づけを終えたサラは早速、エリオットに指令を出す。
「エリオット、鍋に入るサイズに骨を折ってくれない」
「ああ、それは別にかまわないけど、部位とか大きさはどうでも良いのか?」
「ええ、いいわよ。折った骨は、どんどんこの鍋に入れてちょうだい」
水を半分ほど張った大鍋を指さした。
それを見て、焼いた後に煮るのか、やはり骨は簡単には食べることは出来ないのだなとエリオットは思いながら、黙々と骨を斧で折るとどんどんと鍋に入れていく。
サラは鍋に火をつけ、煮立てていく。
「ハンナちゃん、沸騰してきたら教えてね」
「サラはどうするの?」
「野菜を切るのよ」
「野菜と一緒に骨を食べるの?」
「違うけど、違わないかも。でも、今から切るのは食べるための野菜じゃないのよ。臭み消しよ」
そう言いながら、サラはネギやセロリ、ショウガなどを切り始めた。
サラが作ろうとしているものは、イノシシの骨を煮込んだスープ、つまりはとんこつスープである。それにはうま味とともに臭さもある。それを消すために野菜を入れる。
骨を全て鍋に入れ終えたエリオットは、鍋を混ぜるサラに興味深そうに聞いた。
「これは、どれくらいで、出来上がるのだ?」
「そうね、今入れている薪がなくなるくらいかしらね」
「結構、時間がかかるな」
「ええ、じっくりと煮込むのよ」
「じゃあ、その間、俺はもうひと働き行って来るか」
そう言って、エリオットが畑に戻ろうとすると、ハンナも一緒に出掛けた。
一人鍋の前に立つサラは、チャンスとばかりに、薪を減らし弱火にすると、ふた塊の肉を持って地下室に駆け込む。肉自体は大量にある。少しくらい減っても気が付かないだろう。今回の肉は実験も兼ねている。
「一つは青カビ、もう一つは白カビね」
サラは発酵令嬢の力を使うと、身体が淡い光に包まれる。すると、ぽつぽつと肉の表面にカビが発生し始めると、一気に肉を覆いつくした。
「やっぱり、ここで力を使う方が気兼ねしなくていいわね。さあ、もう一つ」
こうしてもう一つの肉には白カビを付けると、二つの肉を離して部屋の端につるした。
カビによる長期熟成。
それは、傷みやすく、長期保管の効かない生肉を保存する方法。
ただ、肉を保管するだけであれば、塩漬けをし、干し肉にする方法があるが、味と硬さに大きな問題がある。どちらかと言うと、成人男性が非常食として食べるものだ。それが長期保存をしても味が落ちないどころか、美味しくなるのであれば、これ以上の事は無い。
期待いっぱいのサラは、カビに覆われた肉をうっとりと見た。
「ふう、とりあえず、これでしばらく熟成ね。これでうまくいけば、お肉の長期保存ができるわ」
とりあえず、やりたかったことをして満足げに地下室から出たサラは、鼻歌を歌いながら、鍋に向かった。
鍋の中のイノシシの骨のスープ。
さて、これを使って、どうしようかと考えていた。まず思いつくのが、塩で味を調整して、野菜と肉のスープにするのだが、初めて食べるには癖があるかもしれない。
「そうだ。あれが良いかも。だったら、スープを取り分けて、冷ましておいてっと」
サラは下ごしらえを終えると、エリオットたちがいる畑へと向かった。