ブラッディソーセージを茹でた後、サラとハンナが畑に戻ってくると、イノシシを解体し終えられていた。
「もう、終わったな? 手際が良いわね」
「まあ、内臓と皮の部分が終わっていたから、あとは力仕事だろう」
「それにしても、これだけの大物をこんなにさばけるなんて、すごいわよ。エリオットがいれば、罠猟もできるわね……あっ」
そう言って、サラは口を閉じた。
それはまるで、エリオットにずっとここにいて欲しいと言っているようだと、サラは気が付いたのだ。
エリオットとハンナは、ただの旅人。ひと月もすれば、またどこかに行ってしまうだろう。
それを止める権利はサラにはない。自分の立場をわきまえなければいけない。
そんなサラの気持ちに気が付かないように、エリオットは肉を運ぶ準備をしながら言った。
「そうだな。今回はたまたまイノシシだったが、鹿やウサギでも捌けるぞ。それよりも、お昼はさっきのソーセージか?」
「そうね、せっかくなので、使いましょうかねって、ちょっと待って、これも持って帰るわよ」
「え、なんでだ? 食べるところも使い道もないだろう」
エリオットは、骨から肉を切り取り、綺麗に並べられた骨を指さした。
それもサラは、持って帰ると言っているのだ。ただ重いだけの無用の長物を、だ。
エリオットも骨をそのままにするつもりはなかった。動物を呼び寄せる危険性があるから、午後にでも穴を掘って埋めるつもりだった。
「動物が寄ってくるのを懸念しているのなら、午後には埋めておくぞ」
「捨てるなんて、なんてもったいないことを言っているのよ。この骨も料理に使うのよ」
「骨料理だと! そんなものが存在するのか?」
「うーん、骨料理と言えば、骨料理だけど……まあ、出来てからのお楽しみね」
「サラに、そう言われれば仕方がないな」
エリオットは口では仕方がないと言いながら、サラが出してくれる骨料理に期待をして、口元が緩む。
そんなエリオットを見て、ハンナはにやにやして言った。
「パパって、サラによわーい」
「ハンナだって、サラの料理が楽しみだろう」
「楽しみーーー」
「じゃあ、ハンナも運ぶのを手伝ってくれ」
「……わかった」
「ハンナも、サラによわーい」
「ぶー、パパの意地悪」
エリオットの言葉にハンナは、焼きたての白パンのような頬をぶっくらと膨らませた。
その可愛らしさにサラは、思わず笑みがこぼれる。
「二人のために美味しい料理、頑張って作るよ」
「やったー」
三人は手分けして、肉と骨と皮を家に持ち帰ると、サラはまず、まだ肉が少しついている骨を焼き始めた。
それを見たエリオットは肉と皮を片付けながら、ワクワクして言った。
「イノシシの骨って焼いたら食べられるのか?」
「食べられるわけがないでしょう。これは骨に付いた肉を焼いているの」
そう言って、サラは焼けた肉を骨からこそぎ取ると、切り落とした肉を皿に取りおく。
それに塩コショウとともに軽くオリーブオイルを振る。次に切り目を入れた大き目のコッペパンに刻んだ玉ねぎ、焼いたブラッディソーセージ、骨からはぎ取った焼き肉を入れた。
それをハンナとエリオットに渡した。
「ご期待の骨料理は作るのは時間がかかるから、今日のお昼はブラッディソーセージのホットドッグね。ハンナちゃんには食べやすいように切っておいたからね」
「ほお、生臭いかと思ったが、意外と臭みは無いな。柔らかいが、パンと焼き肉の歯ごたえがあるから、気にはならないな。ハンナは大丈夫か? 半分食べてやろうか?」
エリオットがぺろりとホットドッグを平らげると、まだ半分残っているハンナのホットドックをじっと見た。
ハンナはホットドックの乗ったお皿を、エリオットから遠ざけながら、ホットドックを一生懸命もぐもぐする。
「パパの食いしん坊。これはハンナのなの」
「いやいや、別にパパはハンナのご飯を取ろうって考えているわけじゃないぞ、ハンナが食べられないなら、しかたなく俺が食べてやろうって言っているだけで、どうしても食べたいってわけじゃないぞ」
「え、美味しくなかったの? 私も作るのは初めてだったから、ごめんなさい」
二人のやり取りを聞いていたサラが、不安そうにエリオットを見ていた。
そんなサラを見て、エリオットは慌てて言い訳をする。
「いや、美味しくないわけじゃない、逆だ。美味しかったよ。おかわりが欲しいくらいに」
「じゃあ、私の分をあげるわよ」
そう言って、サラはまだ手を付けていない半分を差し出す。
サラがそんなことをすると思っていなかったエリオットは、戸惑った結果、おどけて言った。
「いや、レディの物を取るほど、俺は落ちぶれちゃいないぜ」
「パパ、娘の物を取るのは“じぇんとるまん”としては良いの?」
「悪かったよ、リトルレディ」
「ふふふ、夜は多目に作るから、今は我慢してね」
サラは自分が初めて作った料理を美味しいと言われて、自然と笑みがこぼれた。