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第19話 リトルレディとじぇんとるまん

 ブラッディソーセージを茹でた後、サラとハンナが畑に戻ってくると、イノシシを解体し終えられていた。


「もう、終わったな? 手際が良いわね」

「まあ、内臓と皮の部分が終わっていたから、あとは力仕事だろう」

「それにしても、これだけの大物をこんなにさばけるなんて、すごいわよ。エリオットがいれば、罠猟もできるわね……あっ」


 そう言って、サラは口を閉じた。

 それはまるで、エリオットにずっとここにいて欲しいと言っているようだと、サラは気が付いたのだ。

 エリオットとハンナは、ただの旅人。ひと月もすれば、またどこかに行ってしまうだろう。

 それを止める権利はサラにはない。自分の立場をわきまえなければいけない。

 そんなサラの気持ちに気が付かないように、エリオットは肉を運ぶ準備をしながら言った。


「そうだな。今回はたまたまイノシシだったが、鹿やウサギでも捌けるぞ。それよりも、お昼はさっきのソーセージか?」

「そうね、せっかくなので、使いましょうかねって、ちょっと待って、これも持って帰るわよ」

「え、なんでだ? 食べるところも使い道もないだろう」


 エリオットは、骨から肉を切り取り、綺麗に並べられた骨を指さした。

 それもサラは、持って帰ると言っているのだ。ただ重いだけの無用の長物を、だ。

エリオットも骨をそのままにするつもりはなかった。動物を呼び寄せる危険性があるから、午後にでも穴を掘って埋めるつもりだった。


「動物が寄ってくるのを懸念しているのなら、午後には埋めておくぞ」

「捨てるなんて、なんてもったいないことを言っているのよ。この骨も料理に使うのよ」

「骨料理だと! そんなものが存在するのか?」

「うーん、骨料理と言えば、骨料理だけど……まあ、出来てからのお楽しみね」

「サラに、そう言われれば仕方がないな」


 エリオットは口では仕方がないと言いながら、サラが出してくれる骨料理に期待をして、口元が緩む。

 そんなエリオットを見て、ハンナはにやにやして言った。


「パパって、サラによわーい」

「ハンナだって、サラの料理が楽しみだろう」

「楽しみーーー」

「じゃあ、ハンナも運ぶのを手伝ってくれ」

「……わかった」

「ハンナも、サラによわーい」

「ぶー、パパの意地悪」


 エリオットの言葉にハンナは、焼きたての白パンのような頬をぶっくらと膨らませた。

 その可愛らしさにサラは、思わず笑みがこぼれる。


「二人のために美味しい料理、頑張って作るよ」

「やったー」


 三人は手分けして、肉と骨と皮を家に持ち帰ると、サラはまず、まだ肉が少しついている骨を焼き始めた。

 それを見たエリオットは肉と皮を片付けながら、ワクワクして言った。


「イノシシの骨って焼いたら食べられるのか?」

「食べられるわけがないでしょう。これは骨に付いた肉を焼いているの」


 そう言って、サラは焼けた肉を骨からこそぎ取ると、切り落とした肉を皿に取りおく。

 それに塩コショウとともに軽くオリーブオイルを振る。次に切り目を入れた大き目のコッペパンに刻んだ玉ねぎ、焼いたブラッディソーセージ、骨からはぎ取った焼き肉を入れた。

 それをハンナとエリオットに渡した。


「ご期待の骨料理は作るのは時間がかかるから、今日のお昼はブラッディソーセージのホットドッグね。ハンナちゃんには食べやすいように切っておいたからね」

「ほお、生臭いかと思ったが、意外と臭みは無いな。柔らかいが、パンと焼き肉の歯ごたえがあるから、気にはならないな。ハンナは大丈夫か? 半分食べてやろうか?」


 エリオットがぺろりとホットドッグを平らげると、まだ半分残っているハンナのホットドックをじっと見た。

 ハンナはホットドックの乗ったお皿を、エリオットから遠ざけながら、ホットドックを一生懸命もぐもぐする。


「パパの食いしん坊。これはハンナのなの」

「いやいや、別にパパはハンナのご飯を取ろうって考えているわけじゃないぞ、ハンナが食べられないなら、しかたなく俺が食べてやろうって言っているだけで、どうしても食べたいってわけじゃないぞ」

「え、美味しくなかったの? 私も作るのは初めてだったから、ごめんなさい」


 二人のやり取りを聞いていたサラが、不安そうにエリオットを見ていた。

 そんなサラを見て、エリオットは慌てて言い訳をする。


「いや、美味しくないわけじゃない、逆だ。美味しかったよ。おかわりが欲しいくらいに」

「じゃあ、私の分をあげるわよ」


 そう言って、サラはまだ手を付けていない半分を差し出す。

 サラがそんなことをすると思っていなかったエリオットは、戸惑った結果、おどけて言った。


「いや、レディの物を取るほど、俺は落ちぶれちゃいないぜ」

「パパ、娘の物を取るのは“じぇんとるまん”としては良いの?」

「悪かったよ、リトルレディ」

「ふふふ、夜は多目に作るから、今は我慢してね」


 サラは自分が初めて作った料理を美味しいと言われて、自然と笑みがこぼれた。

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