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第5話 ハンナとエリオットの畑仕事

「痛っ!」

「大丈夫ですか!?」


 エリオットは流れるような動きで、サラを抱きかかえると椅子に座らせた。

 サラは痛みよりも、その筋肉で太い腕に抱きあげられたことにドキドキし、思わず言葉を失った。

(昔、ダンスの時に抱きしめられたジェラールの腕なんて、頼りないことこの上ない。それに比べればエリオットの腕の筋肉は、胸の筋肉は、なんと安定感がある。安心感がある。それも、女性としては背の高い私を抱えてである。思わず、身体をゆだねてしまいそうになりそうになるくらい。しかし……)

 サラは自分を制して、エリオットから離れながら礼を言う。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。ちょっとひねっただけだと思いますから、少しすれば痛みも引くでしょう」

「いえ、調子に乗った俺たちが悪かった」

「ごめんなさい」


 エリオットがサラを優しく椅子に座らせ、手首の様子を見ている間、ハンナが冷たく濡らしたタオルを持ってきた。

 その顔は先ほどとは打って変わって、怒られた子猫のようにしゅんとした表情と、サラを気遣う不安な感情を混ぜたような顔をしていた。

 思わず、そんな顔をするハンナにキュンとしかけて、我に返る。


「大丈夫よ。久しぶりにお腹の底から笑っちゃったから、驚いちゃったのよ。それに普段から農作業をしているから、これくらい平気よ」

「いや、無理はいけない。こういうのは、初めが大事だ。よく冷やして、安静にしていなさい」

「でも、午後の仕事が残っているから」

「それなら、俺が代わりにやろう。食事の恩もある。ぜひ、手伝わせて欲しい」


 エリオットはそう言って、力こぶを作って、ニカッ歯を見せて笑った。ほどよく日焼けしたその笑顔に白い歯が輝いて見えた。

 男味あふれる整った顔。夜会に出れば、言い寄る女性は後を絶たないだろう。だからこそ、若いうちから結婚しているのかもしれない。でも、ハンナは、ママはいないと言っていた。死別したのだろうか? しかし、他人のことを詮索することはよくないことだと思い直したサラは、エリオットの申し出に答えた。


「申し出はありがたいのですが、そこまでしていただく必要はないですよ。しばらく、ひとりだったので、私の料理を食べてくれただけでも、嬉しかったですし……あ、イタタ」


 サラは思わず痛めた方の手をテーブルに付き、立ち上がろうとして声を上げた。

 そんなサラを、あきれ顔のエリオットが止めた。


「こう見えても、力仕事には自信があるのですね。もしも、不安であれば、一緒について来て、見ていてください」

「こう見えてって、見たまま、力仕事が得意なのはわかりますが……」

「ハンナもお手伝いする! ハンナ、パパの操縦上手なんだから!」

「それに、いただいた料理は作り方だけじゃなく、野菜自体も美味しかった。その作り方も興味があるのだ」


 こうして、ハンナとエリオットの押しに負けて、サラは畑仕事を手伝ってもらうことにした。

 サラの畑は、自宅から歩いて少し行った所にある。

 その畑を見てエリオットは、驚きの声をあげた。


「思ったより、広いな。女性一人でここまでするのは大変だっただろう。」

「ええ。でも、まだ土地があまりよくないから、豆や芋を中心に植えているの。だから、広くしておかないと、収穫量が見込めないの……」


エリオットが言ったように、その畑の大きさはサラ一人で切り盛りするには十分すぎるほどの大きさだった。それもそのはず。ここに来たサラは、さっそく洋服や貴金属類を売り、牝牛を一頭購入したのだ。

 その牛の力を借り、畑を耕し、広げていったのだった。まずは質よりも量。贅沢は言っていられない。そんな思いで、サラは必死に育てた作物たちだった。

 畑を一通り見たエリオットは、近くの小屋につながれている牛に草を与えながら、嬉しそうな声を上げた。


「ほう、立派な牛だな」

「エリオットさん、そんなことも分かるの? うちの自慢の牛のペコよ」


 エリオットの言葉に、サラは驚いた。

 どこかの騎士のような風貌をしているため、馬の良し悪しは分かっても、牛のことは分からないだろうと思い込んでした。


「そりゃ、本職ほどじゃないが、これでもあっちこっち旅をしながら、色々な物を見てきたからな。あと、エリオットで良いよ」

「そう、じゃあ私のこともサラでお願いします」

「分かった、サラ。それで俺は何をすればいい?」


 そう言われて、サラはふと考えた。収穫は午前中に終えた。午後は雑草抜きをして、雑草と落ち葉を牛の糞を溜めている堆肥置き場に集めて、力を使い発酵させて堆肥を作ろうと考えていた。しかし、よく考えればこれだけ力強い男性がいるのに、雑草抜きをさせるのはもったいない。ましてや、発酵の力を使っているところを見せるわけにはいかない。力を使うと、なぜかほんのり光を放ち、異能の力を使っているのが分かってしまう。

 ならば……

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