背が高く、筋肉質な身体が仕立ての良い服の上からでも分かる男性だった。日に焼けた顔はきりりとしているその男性は、ドアを開けると同時に叫んだ。
「すまない、ここらで、小さな女の子を見なかったか!?」
そんな男性を見て、ハンナが嬉しそうな声を上げた。
「あ、パパ! ハンナね、ママを見つけたよ!」
「え! ママ!!!」
「ママだと!?」
その言葉にサラとハンナのパパは、同時に素っ頓狂な声を上げたのだった。
そして二人は顔を見合わせて、お互いにどういうことか、説明を求めるように黙ってしまった。
先に正気を取り戻したのは、ハンナの言葉に慣れているハンナのパパだった。
「ハンナがお世話になりました。俺はエリオットと言います。ハンナの言うことは気にしなくてください。よくおかしなことを言う子なので」
「あ、サラです。すみません。ハンナちゃんを勝手に連れてきて……あ、誘拐するつもりじゃないんです。ハンナちゃんが道に倒れていて、お腹が空いたって言うから、一緒にご飯を食べていたんです」
礼儀正しく、落ち着いた声で話すエリオットに対して、後ろめたいことがあるサラは早口で言い訳を並べ立てた。
あまりに必死に言い訳する様子を見て、思わずエリオットは吹き出してしまった。
「ははは、大丈夫ですよ。ハンナは、こう見えて人を見る目はあるんですよ。特に危ない人間には絶対に懐かないので」
「そう、ハンナ、見る目があるんだから! あ、そうだ! パパ、サラってすごいんだよ。今まで見たこともない料理をいっぱい作れるんだよ」
「見たこともない料理?」
「あ、良ければ、召し上がりますか?」
サラは、ハンナを勝手に連れてきた後ろめたさから、先ほどの料理を全てテーブルに並べた。
エリオットは見慣れない食べ物に一瞬躊躇したが、ハンナが興味津々で見ているのに気が付き、思い切って口に運んだ。
「……うまい」
ハンナと一緒にエリオットの動向を見守っていたサラは、ハンナとハイタッチした。
先ほどまで、エリオットの立場だったハンナは、まるで自分がサラと一緒に料理を作ったかのような喜びようだった。それを見て、サラも事前と笑みがこぼれる。
そんな二人を見て、エリオットは驚きの声を上げた。
「おいおい、ハンナ。いつの間にそんなに仲良くなったんだ? さっき会ったところだろう」
それもそうだろう。いくら、サラがお世話好きで、子供好きとは言え、ほんのさっき会ったハンナと、ずっと一緒にいるように楽しそうにしているのは、父親のエリオットから見て、異常な状況だろう。
しかし、そんなエリオットの疑問に答えるべく、ハンナは人差し指をメトロノームのように左右に振って、答えた。
「パパは分かってないな~、人の仲は時間じゃないのよ」
ハンナは大人びた様子で、エリオットをたしなめる。
どうやらエリオットはそんなハンナに慣れた雰囲気で、ふんと鼻を鳴らした後、その男らしい顔をニヤリとゆがませて尋ねた。
「時間じゃなければ、なんだ? 聞かせてもらおうか、ハンナ先生」
「よく聞きなさい、パパ生徒。それはズバリ……」
二人のやり取りに、思わず見入るサラを置き去りにして、ハンナは続けた。
「
「ソウル?」
「そう、ハンナとサラは、魂の深い所でつながっているの! そう! 本物の親子以上にね!」
ハンナはそのひまわりのような可愛らしい顔でどや顔を決めたまま、エリオットに指さして断言した。
そんなハンナに対し、大きくため息をついたエリオットは、ハンナの焼きたてパンのような頬を引っ張った。
「また、おまえはそんな訳の分からないことを言って、サラさんを困らせないの」
「こましゃせてないしょん」
頬を引っ張られながら反論するハンナを見て、サラは思わず大きな声で笑ってしまった。
(こんな大きな声を上げて笑うのはいつ以来だろうか? 五年間に妹のアリスが躓いて、私の誕生日ケーキに顔をうずめた時以来かもしれない)
サラがそんなことを考えながら、笑いを押えて顔を上げると、ハンナとエリオットが不思議そうな顔でサラを見ていた。
「あ、笑ってしまって、ごめんなさい。ハンナちゃんの顔が面白くって」
「よし!」
「うん!」
エリオットとハンナは心を一つにして、変顔をし始めた。
「ぷっ! はははは、止めてよ。あはは、お腹痛い……」
サラが笑うのが楽しくて二人はずっと、変顔を続ける。
お腹を抱えて笑うサラは文字通り、笑い転げて椅子から落ちると、手首を押えながら、痛みを訴えた。