「さあ―――！　全てのファン、そしてエデンズブリンガーに贈る祭典！　エデンズフォーム・ディザスターズ世界大会“ラグナロク”！　その決勝戦もついに大・詰め・だァ―――ッ！」

　感極まったＭＣがマイクを握り、大音声を響かせる。

　空気がひりひりと灼けるような緊張感。それを強く受け止めながら、ＭＣは汗ばんだ手に力を込めた。

「絶対無敵のチャンピオン、シェーンハイトに挑戦状を突きつけし古豪、オールドボーイ！　彼の猛攻は凌がれ続け……今、事実上のファイナルターン！

　彼の最後の攻撃は、このまま女王を傷つけられず終わるのか!?　それとも一矢報いて見せるのか!?　どっちなんだ、オールドボ―――イ！　……おおっと!?」

　広大なスタジアムの明かりが徐々に落ちていく。

　夜の訪れにも似た照明の変化が観客たちをどよめかせ、声のボリュームを無意識的に絞らせ始めた。

　ＭＣさえ何が起こったのかと言葉を潜める。ざわつきの最後のひとつが消えたところで、老いた男の言葉が響いた。

「ヘイ、ヘイヘイヘイヘイ、ギャラリー連中！　お前ら、今こう思ってやがんだろ？　オールドボーイは所詮口だけ、結局女王は倒せねえって。このまま負けちまうのか、ってな！」

　ジャーラッ！　勇ましいギターサウンドが響き、スタジアムに火花が散った。それは突然落とされた照明に困惑していた観客たちに、微かな興奮の火を熾す。

　大型モニターに映るは、“OLD BOY：Hazard Counter 19”の文字だ。

「オレのハザードカウンターは確かに１９。あと一撃だ、あと一撃でジ・エンド！　ここまで続いた攻勢は、確かに全部凌がれた！　憎ったらしい最強女王め！　見ろよ、当たり前って顔で澄ましてやがる！」

　ジャーラッ！　二度目のギターサウンドで、ステージ上にスポットライトが灯された。そこに立つのは、優美な白いドレスを纏い、ティアラを頭に乗せた女性だ。

　胸の下で腕を組み、どこか不機嫌そうな表情をした彼女は目を細める。

　三度目、四度目。ギターの音がだんだんと間隔を短くしていく。

「だがな、ここまでが布石に過ぎないとしたら、どうだ？　今このターンまでの全てが、この時のためにあったとしたら！　見せてやるぜ、最後の攻勢！　聞き届けてみろ、オレのシャウトを！　これがオレの……魂だァァァッ！」

　最後の大きなギターの音に呼応して、２本の火柱が闇を裂く。

　ボウッ！　と勢いよく吹き上がる赤に照らされたのは、鈍色の巨体。全身にトゲを備えた五つ首の機械竜がデスヴォイスを吐き散らかした。

　その足元でエレキギターをかき鳴らす、たくましい老人。アメリカ国旗のバンダナを頭に巻いて、荒く顎髭を蓄えた彼は、工場を思わせるステージの上で叫ぶ。

「行くぜクライマックス！　こいつが俺の新たな切り札、お前を倒すための秘策！

　吠え猛る鋼の暴威、“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”だァァァァァッ！」

　全方位から大きな歓声が沸き上がった。

　３６０度に観客席。大型スタジアムの中心で、老人はギターサウンドを鋭く響かせてみせる。

　ティアラの女性は無表情のまま五つ首の機械竜を真っ直ぐ見据えた。歓声も興奮も、すべてを憐れむように、冷たく。

　すり鉢状になったスタジアムの底は、ふたつの全く違う景色に分かたれている。

　片方は、工場とライブステージを合わせたような世界。

　もう片方は、吹雪く銀世界と白亜の城壁。

　景色の境界付近には鋼鉄纏う異形が佇み、楽器を手にして攻め込む時を待っている。対して、ティアラを着けた女性の背後には、白いヴェールを纏った巨大な機械の天使が１体いるのみ。

　興奮したＭＣが実況席からステージを見下ろし、唾を飛ばす。

「出たぁぁぁぁッ！　これこそ古強者オールドボーイが語りし、対無敗の女王シェーンハイト用レギオン、“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”！　会場を揺らすシャウトはまさに！　玉座を震わす凶兆の響きィ！

　ついにチャンピオンの座が奪われるのか―――ッ!?　会場はそれぞれのファンのコールで満たされています！」

“シェーンハイト！　シェーンハイト！　シェーンハイト！　シェーンハイト！”

“やっちまえ、オールドボーイ！　お前のロックを見せてくれ―――ッ！”

　興奮した観客たちが飛び跳ね、声を枯らして応援グッズを振り回す。

　ここはまるで火山の火口だ。熱狂が籠もり、沸騰し、噴火寸前。

　挑戦的なマイクパフォーマンスと裏腹に、シェーンハイトは沈黙を保つ。

　火花散らすが如きピッキングを披露し、オールドボーイは喉を鳴らした。

「こいつがお前の絶対防御を打ち砕くぜ！　“サウザウンド・ビート・デーモン”のレギオンスキル発動ォ！　他のレギオン１体に、カウンター３つにつき１回！　追加攻撃権を与える！」

　オールドボーイの配下である、何本もの腕を生やした悪魔のドラマーがスティックを振るう。

　けたたましいクラッシュシンバルの連打が生み出す空気の波紋が、五つ首の機械竜の体に吸収された。

「お次は“ストロング・ベース・オーガ”のレギオンスキルだ！　ウィスパー・オブ・ザ・グラウンド・デス！」

　悪魔ドラマーの隣で、大鬼が戦斧と見紛うベースギターを爪弾き始めた。

　臓腑の底を熱したハンマーで殴るが如き、凶悪なアンサンブルがステージを満たし、割れんばかりの歓声を乗せてスタジアムに轟いていく。

　世界を揺るがすリズムが、見る者たちの心拍音をも支配する。

「こいつの攻撃権を放棄して、別の１体に追加の攻撃権とパワーを付与する！　対象は当然、“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”！」

　鋼の巨竜が焦れた唸り声を上げ、鉄柱の如き足を振り下ろしてリズムに乗った。

　地震を思わせる重低音に揺さぶられ、オールドボーイのステージがそこかしこから蒸気を吹き出す。

　ファンたちも負けじと声を張り上げる。だが、シェーンハイトがただひとり纏う冷ややかさには、会場の誰も気が付かない。唾を飛ばすＭＣも含めて。

「なんと壮絶！　これで“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”は合計で８回の攻撃が可能だがしかぁぁぁぁぁし！　それでは足りないッ！

　シェーンハイトのエースレギオン、“極光のエタニティオン”は不死身の守護神！　パワー負けするたび、シェーンハイトにダメージが入るというデメリットはあるものの……シェーンハイトのハザードカウンターは未だゼロ！

　オールドボーイが勝利するためには、このターンで２０回！　エタニティオンに勝利せねばならない！　８回だけでは足りないぞォ―――ッ!?　どーするッ！」

「どうするもこうするもねえ。２０回も必要ねえんだ！　行くぜ相棒ッ！」

　ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ。熱狂を一時的に鎮めるかのような単調なメロディ。だが、意図は真逆だ。オールドボーイは観客を焦らしている。

　老いて益々切れ味を増す彼のメタルは、さっきまで声の限り叫んでいた観客たちをうずうずさせた。

　熱狂を押さえつけ、そして再度爆発させる。

「“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”のレギオンスキル発動ォ！　ラスト・エミッション・フェイタル・シャウト！」

　オールドボーイのギターに合わせて、五つ首の機械竜がついに咆哮を放った。

　同時に鈍色の体が不吉な赤色に変化していき、禍々しい陽炎をまき散らす。胸部のエネルギー炉心を解放した機械竜の号砲に、観客たちは再び燃え滾った。

「“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”、第１のスキルッ！　相手レギオンを攻撃した後、相手のハザードカウンターを＋３する！　そして第２のスキル、オレのハザードカウンターの数×５００ポイント、パワーアップする！」

　五つ首の付け根、胸元のリアクターが臨界駆動。禍々しいエネルギーの光を竜の全身に行きわたらせる。

　過剰なエネルギーは大地に赤黒い波紋となって広がり、火山噴火のように勢いよく天を貫いた。

　“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”：パワー３５００→１３０００

　荒れ狂う力の嵐が観客席にまで襲い掛かる。ＭＣは突風に負けじと身を乗り出し、表示された鋼の竜のカード情報に驚愕。それをマイクに打ち付ける。

「な、なぁぁぁんとなんとぉぉぉ！　脅威のパワー１３０００！　前人未踏の超火力！　王座の守護神、エタニティオンが小人のようだぁぁぁ！」

　爆発的な強化を得た“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”の大きさは、もはや怪獣映画を思わせるほど。

　金属同士の擦れ合う音が、ドームの吹き抜けをはみ出した首が、身長数メートルもあるはずのエタニティオンを睥睨する。

　オールドボーイはまだ止まらない。極限まで強化し、彼が持ちうる最大最強の力を結集していく。

「さらにレリックカード、“スーパークリティカルコンダクター”により、パワー３０００以上のレギオンが攻撃するたびカウンターを＋１！　これで“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”は、１回攻撃するたびに、お前のカウンターを４つ増やす！」

　にやりと笑って見せるオールドボーイに対して、沈黙を保っていたシェーンハイトがようやく口を開いた。

「なるほど。“極光のエタニティオン”は、不死である代わり、バトルに負けるたび私のハザードカウンターを１つ増やす。それも含め……１回につき５点のダメージか」

「そうだ！　それが８回続く！　算数はできるよな!?」

「ああ、合計で４０点。私が２回吹き飛ぶな」

　無敵の女王、その鉄面皮がひび割れた。

　忌まわしさと皮肉の混じった苦い笑みが頬に浮かぶ。

　クールビューティともてはやされた無敵の女王は、抑えきれない笑顔で叫んだ。

「随分な力の入れようだ！　オーバーキルにも程があるぞ、ご老体！」

「バカを言え！　ここまでやってこそだろうがよ、そうだろ女王！」

「ハッ！」

　シェーンハイトの笑顔が凶悪に歪む。その仮面の裏側で、彼女は瞳を陰らせる。

　―――そうまでして勝ちたいか。だがすまないな、叶えられん。

　喧噪を遠ざける孤高の暗闇が、彼女に冷や水を浴びせかけて来た。

　一方で、胸の高鳴りは収まらない。古豪が熾した心の炎は、氷の女王を衝き動かした。

　強化は終わり。沸騰しきった熱気も限界。オールドボーイが攻勢に出る。

「バトルだ！　覚悟はもう出来てるな!?」

「愚問が過ぎるぞ！　かかって来い、老いぼれ！　この鉄壁は破らせん！」

　離れたふたりの視線が交わる。

　煮えたぎる闘争心と敵愾心、そこにほんの少しの敬意を込めて。

　オールドボーイは、攻撃を宣言した。

「“グランドゥーム・メタル・ドラゴン”の攻撃！　ニュークリア・ブラスト・オールスタ―――ズ！」

　機械竜の五つ首が凶悪な真紅の輝きを口に溜め、一気に吐き出した。

　耳障りなハウリング・ノイズと共に降り注いでくる五重の光線。シェーンハイトの側に浮遊する機械の天使は、臆することなく片手を突き出し、円形のオーロラを張って迎え撃つ。

　歓声よりも遥かに巨大な大爆轟が、スタジアムを揺るがした。

　黒い煙がステージの半分を覆い隠す。水を打ったような沈黙が、スタジアムを圧迫する。誰もが緊張の表情で事態を見守る。

　煙の中には何があるのか？　オールドボーイは、そこに絶対の王座を誇っていた女王が膝を突く光景があると確信していた。

　―――勝った。やっと……だ。

　―――こんな老いぼれでも、花ァ咲かせられたか？

　世界最強のプレイヤー。“極光のエタニティオン”のみを戦友とする孤高の女王。長きにわたる研鑽の末、ついにそれを打ち倒したのだと。老いてなお世界の上に立つ男がいると知らしめることができたのだと。

　オールドボーイは老いた肺に空気を取り込む。今はこの静けさが心地よい。称賛の津波が押し寄せる前の、引き潮が。

　だが、刹那。ただひとり勝利を確信していたオールドボーイの眼球に、一筋の光が突き刺さった。サングラス越しにもわかる、虹色の極光。

「なんだ……!?」

　観客とＭＣが同時にどよめく。

　彼らが息を呑んで見つめる中、黒い煙から四方八方に光が伸びて、やがて煙幕は打ち払われた。

　白亜の城は変わらずそびえ、純白の輝きに染まった“極光のエタニティオン”は変わらずの―――否、先ほど以上の神々しい威光を身に纏う。

　楽園の空にかかる虹の色と、穢れ無き純白。機械の天使は新たな力を与えられたと、誰もが一目で理解した。

　何より、ＭＡＸまで溜まったはずのシェーンハイトのハザードカウンターは……ゼロのまま！

「なん……だと!?　どうしてゼロのまま変わってねえ！」

「痴れ者が。誓願せいがんカードを使用したのだ！」

　シェーンハイトが言い放ち、腕を振った。１枚のカードの情報がオールドボーイの目の前に展開される。

　誓願……使い捨てのサポートカード。最後まで隠していたのか。

「誓願成就、“忘れられざる救いの祈りロスト・ライト・ブレッシング”！　このターン、ダメージを受ける代わりに、デッキの上から同じ数だけカードを捨てる！」

　シェーンハイトは勢いよく会場のモニターを指差した。

　対戦者ふたりのバストアップと、対戦にまつわる多くの情報が表示されたそれの一部分、“ＤＥＣＫ：０”の一文が拡大される。

　シェーンハイト―――山札デッキ枚数、残り０枚。

「私はデッキを４０枚捨て、ダメージをゼロにした！」

「な……にぃぃぃぃぃっ!?」

　瞠目するオールドボーイとは逆に、シェーンハイトのファンがそろって大声を上げた。確定していたはずの敗北をひっくり返し、完璧に防御しきったチャンピオンに、惜しみない称賛が贈られる。

　オールドボーイもまた、心臓を殴られたかのような衝撃とともに、崇敬を抑えられずにいた。

　―――オレの全力を、生涯を賭けて磨いた攻撃を、凌ぎきるたァ！

　―――無敵の女王ここにあり、ってか！

　舌を巻くオールドボーイの前で、シェーンハイトは長い髪を後ろに払う。

　その肌はしっとりとしていて、艶めかしくきらめいていた。

「見事だ、オールドボーイ。このカードを使ったのは貴様が初めてだよ。その実力を認めよう。だが、しかし」

　ターンチェンジ。最後に残されたカードをドローしたシェーンハイトは、無慈悲に言い放つ。

「貴様の夢もここまでだ。老いを振り切る夢追い人よ、ここがお前の終着点デッドエンドだ！」

　手を掲げ、エタニティオンを示したシェーンハイトは、相手の老人を見据えた。

　試合前のインタビューで、彼は言った。ここでひと花咲かせてやると。栄光をつかむ瞬間を見せつけてやる、と。

　―――済まないが、ご老体。ここは貴様が思うような舞台ではない。

　―――これは私からの、せめてもの敬意。そして眩き夢への手向けだ。

「“極光のエタニティオン”の攻撃！」

　機械の天使が両腕を広げ、幾重にも重なるオーロラの輪を背後に生み出す。

　唖然としたオールドボーイの頭上で、空が純白に輝き始める。

　雪のように舞う白い羽根。それが描く渦の中心を貫いて、巨大な光の柱がオールドボーイへと垂直に落下した。

「天使の慈悲をその身に刻め！　メモリー・オブ・シェナエ―――ル！」

「う……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！」

　悔しさに叫ぶオールドボーイが、眩い光に叩き伏せられた。

　大きく凹んだ鋼のステージがバキバキと音を立てて崩壊し、鋼鉄の悪魔たちが耳障りな絶叫を上げて光の中へと消えていく。

　最後に白い爆発が巻き起こった後、勝利を告げるファンファーレが鳴り響いた。

「き、決まったァ―――ッ！　エデンズ世界大会“ラグナロク”決勝戦！　恐るべきオールドボーイの全力攻勢を凌ぎ切り、勝利を収めたのは……絶対の聖域に立つ女王！　決して触れられざる光輝！　シェーンハイト――――――ッ！」

　うおおおおおおおおおお！　大歓声が噴火した。

　シェーンハイトのファンも、オールドボーイのファンも、全員が一体となって激しい戦いを繰り広げた決闘者たちに賞賛を送る。

　決闘は終わりを迎え、白亜の城と砕け散った工場が消滅していく。

　シェーンハイトは万雷の拍手と賞賛に背を向け、フェードアウトする白亜の城壁へと歩いて行った。

　城壁は消え去って、暗い控室への道が露わとなる。無敗の女王は、ファンに手を振ることも無く、薄暗がりへと姿を隠す。

　その道中で、シェーンハイトは足を止めた。

　暗がりの奥から、乾いた拍手の音がする。手を叩きながら現れた相手を見て、シェーンハイトは口元を引き結んだ。

　男の声が彼女を賞賛する。

「連勝記録更新、おめでとう。流石と言わざるを得んな」

「……白々しいぞ」

　トゲのある口調で告げると、男は手を叩くのをやめた。

　銀髪を短く借り上げ、チャコールグレーのダブルスーツを着こなした中年男性だ。短く整えられた髭ひげとシャープな面立ちが、彼の品格を伺わせる。

　薄い笑みを浮かべた男が、不愉快そうに息を吐く。

「そのような口の利き方をすべきではない。仮にもお前の伴侶だというに」

「黙れ。不仲の夫婦など、今時珍しくもなかろう。そもそも貴様は……」

「そこまでだ。誰に聞かれているかわからんぞ」

「…………」

　シェーンハイトは、つかつかと男の隣を通り過ぎようとする。

　彼女とすれ違いざまに男は問いを投げかけた。

「それで、いつまで勝ち続けるつもりだ？　現役チャンピオンに長く居座られ続けては、観客が飽きてしまう。お前の戦法は代わり映えがせん。新陳代謝が要る」

「いつまでだと？　いつまでも、だ」

　シェーンハイトは、男を横目で睨みつけた。

「貴様が呆ぼけて全てを忘れ、世界があの子を思い出すまで。私が栓をし続ける。私こそがボトルネックだ。これ以上は進ませない」

「それに意味があるとでも？」

「ないなら、何故わざわざ小言を言いに来る？」

　男は表情を消し、顎髭を擦りながら疑惑の目を向ける。

「なぜ、そこまでして阻もうとするのかね。この計画は、あの娘この願いでもあるのだぞ」

「決まっている。それが私にできる……あの娘こへの償いだからだ」

「償いか」

　見た目の倍以上も年齢を重ねたような口調で、男が言った。

「星輝せいかは、お前にそんなものを求めていたか？　よく思い出してみろ」

　目尻の皺に彩られたアッシュグレーの瞳を、シェーンハイトは臆さず見返す。

　そしてそれ以上は何も言わず、男に背を向けて立ち去って行った。

「無駄なことを。時は止まらん。巻き戻りもせん。お前は無敵かもしれないが、同時に無力でもあるのだぞ」

　シェーンハイトは足を速めて控室へと戻っていく。

　背後の声を振り切るように。