「はい。あなたは独りで痛みを抱えてる。でも、いろんな方々からの協力がある。だから、裏稼業ができてるんですよね?」
「……そうだな。彼らには感謝している」
「もう少し、素直になった方がいいですよ?」
「余計なお世話だ」
そんな会話を交わす二人の顔には、笑みが浮かんでいた。
「もう一人。紹介したい奴がいる。そろそろくるころだ。出迎え、頼む」
ヴァネッサがうなずくと同時にチャイムが鳴った。
「はい」
ドアを開けると、人懐こそうな笑みを浮かべた長身の男がいた。
「初めまして。キヅチって言うんだけど、ギッシュ、いる?」
「いますよ、どうぞ」
「お邪魔しまーす」
軽い口調を聞きながらヴァネッサは、この人はいったいなにに関わっているのだろうと、疑問に思った。
「キヅチさんがお見えです」
「よう、彼女にはなにも話してないわけか」
「今から話す」
「じゃ、聞かせてもらおうじゃん。あ、ここ座っていい?」
ギッシュの正面の椅子を見つけて、キヅチが尋ねた。
「どうぞ。私はこっちに座りますから」
ヴァネッサはソファに座った。
「こいつは〝回収屋〟の元締めだ」
「〝回収屋〟ですか?」
ヴァネッサが首をかしげた。
「俺が殺した人間の骸だけでなく、血糊なんかもすべて回収し、まるでそこで殺しがなかったかのように。警察の目も欺ける」
「えっ!?」
ヴァネッサは驚いてキヅチを見つめた。
「こっちがやってるのは、骸の回収と、殺した形跡の抹消。骸はばらばらにしてマニア達に売り渡す。金はマニア達から巻き上げてるから、実質はただ働き。でも、骸の状態がすこぶるいいから、オマケしてる。闇のビジネスパートナーってやつさ」
キヅチが笑いながら説明した。
「裏の顔を持つ人には、まったく見えないんですけれど」
「らしくない、とはよく言われてるから大丈夫」
「え?」
ヴァネッサにはなにが〝大丈夫〟なのかさっぱり分からなかった。
「で? なんでギッシュは、彼女と同居してるわけ?」
「オーダーに集中するためだ」
「あくまでも、心は許してないわけね」
「もういいだろ。さっさと帰れ」
ギッシュは睨みつけながら言った。
「はいはい。こいつのこと、よろしく」
キヅチはヴァネッサの返事を待たずに、さっさと出ていってしまった。
「なんだか……イメージと違いすぎて、びっくりしてしまったんですが」
「あいつは、そういう奴だ」
「ギッシュさん」
ヴァネッサは真っ直ぐにギッシュを見つめた。
「ん?」
「ボロボロでも、自分に向き合えなくても、私なんかに心を許せなくても、構いません。私はただ、あなたに生きてほしいんです」
「……そうか。その言葉、憶えておく」
去り際にぼそっと言うと、ギッシュは自室に入った。
「生きてほしい、か」
ギッシュはベッドに寝転がって、先ほど言われた言葉を転がした。
――まるで、生きることを諦めるな、というふうに聞こえるな。
自嘲するような笑みを浮かべて思った。
――俺はもう、心が死んでいるというのに。自陣を犠牲にする。そうしていなければ、生きている実感ができない。本当に、大事なモノを犠牲にしてしまったんだな。
その横顔は、ぞくりとするほど冷たく、暗かった。