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すべてを斬り捨て悪魔となった者《3》

「はい。あなたは独りで痛みを抱えてる。でも、いろんな方々からの協力がある。だから、裏稼業ができてるんですよね?」

「……そうだな。彼らには感謝している」

「もう少し、素直になった方がいいですよ?」

「余計なお世話だ」

 そんな会話を交わす二人の顔には、笑みが浮かんでいた。



「もう一人。紹介したい奴がいる。そろそろくるころだ。出迎え、頼む」

 ヴァネッサがうなずくと同時にチャイムが鳴った。

「はい」

 ドアを開けると、人懐こそうな笑みを浮かべた長身の男がいた。

「初めまして。キヅチって言うんだけど、ギッシュ、いる?」

「いますよ、どうぞ」

「お邪魔しまーす」

 軽い口調を聞きながらヴァネッサは、この人はいったいなにに関わっているのだろうと、疑問に思った。

「キヅチさんがお見えです」

「よう、彼女にはなにも話してないわけか」

「今から話す」

「じゃ、聞かせてもらおうじゃん。あ、ここ座っていい?」

 ギッシュの正面の椅子を見つけて、キヅチが尋ねた。

「どうぞ。私はこっちに座りますから」

 ヴァネッサはソファに座った。

「こいつは〝回収屋〟の元締めだ」

「〝回収屋〟ですか?」

 ヴァネッサが首をかしげた。

「俺が殺した人間の骸だけでなく、血糊なんかもすべて回収し、まるでそこで殺しがなかったかのように。警察の目も欺ける」

「えっ!?」

 ヴァネッサは驚いてキヅチを見つめた。

「こっちがやってるのは、骸の回収と、殺した形跡の抹消。骸はばらばらにしてマニア達に売り渡す。金はマニア達から巻き上げてるから、実質はただ働き。でも、骸の状態がすこぶるいいから、オマケしてる。闇のビジネスパートナーってやつさ」

 キヅチが笑いながら説明した。

「裏の顔を持つ人には、まったく見えないんですけれど」

「らしくない、とはよく言われてるから大丈夫」

「え?」

 ヴァネッサにはなにが〝大丈夫〟なのかさっぱり分からなかった。

「で? なんでギッシュは、彼女と同居してるわけ?」

「オーダーに集中するためだ」

「あくまでも、心は許してないわけね」

「もういいだろ。さっさと帰れ」

 ギッシュは睨みつけながら言った。

「はいはい。こいつのこと、よろしく」

 キヅチはヴァネッサの返事を待たずに、さっさと出ていってしまった。



「なんだか……イメージと違いすぎて、びっくりしてしまったんですが」

「あいつは、そういう奴だ」

「ギッシュさん」

 ヴァネッサは真っ直ぐにギッシュを見つめた。

「ん?」

「ボロボロでも、自分に向き合えなくても、私なんかに心を許せなくても、構いません。私はただ、あなたに生きてほしいんです」

「……そうか。その言葉、憶えておく」

 去り際にぼそっと言うと、ギッシュは自室に入った。


「生きてほしい、か」

 ギッシュはベッドに寝転がって、先ほど言われた言葉を転がした。

 ――まるで、生きることを諦めるな、というふうに聞こえるな。

 自嘲するような笑みを浮かべて思った。

 ――俺はもう、心が死んでいるというのに。自陣を犠牲にする。そうしていなければ、生きている実感ができない。本当に、大事なモノを犠牲にしてしまったんだな。

 その横顔は、ぞくりとするほど冷たく、暗かった。

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