目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
死を軽んじる者《1》

 それから二週間後、トサにオーダー再開してもいいと言われて帰宅していた。

「あのっ! 〝冷酷な鬼神〟に会いたいんですけれど!」

 その途中で、一人の女に声をかけられた。

「俺だが、誰を殺してほしいんだ?」

「ここを根城にしてる〝ヴィッカ〟の創設者、田辺たなべ

「理由は?」

「死を軽んじてるからです。なにもかもが自分の思いどおりになると思ってるんです。言うとおりに動かない者がいれば、自分の手で殺しています。罪深いことをしているという自覚もないので、せいぜい駒が減ったと思うだけなんです」

「最低な男だな。それで、金はどれくらい用意できるんだ?」

 ギッシュは冷たく言い放ちながら尋ねた。

「ここに」

 紙袋の中身を確認した。

「二百万、か」

「引き受けてくれるってことですか?」

「その前に、ひとつ聞きたい。オーダーをして二度と後悔しないか? それとヴィッカを全滅させるぞ?」

「全滅!? 殺してほしいのは一人なんですが!」

「甘いこと、言ってんじゃねぇよ」

 ギッシュは女をギロリと睨みつけた。

「ひっ!」

 女は怯え出した。

「俺の仕事は命を奪うこと。全員殺さなければ、意味がない。口封じも兼ねている。どうしても、全員殺すことが嫌なら、自分の手でそいつを殺せ。他のあてはない。……どうするかは、お前が決めろ」

 ギッシュは氷のような冷たい声で告げた。

「自分じゃできない! 全員の命を引き換えにしてでも、自由になりたいんですっ!」

 女は感情任せに叫んだ。

「貴様も命を軽んじているな。惨劇を目にして、それでも生きたいと思えるのか。見ものだな」

 ギッシュは吐き捨てて立ち去り、いったん帰った。オーダーの内容だけヴァネッサに告げ、そそくさと家を出ていった。


「ここか」

 目の前にそびえ立つ三階建てのビルを見上げて、ギッシュは歩き続けた。

 手始めに見張りの者一人の心臓を刺し貫いた。

「なんで殺してるんだよ!」

 様子を見ていたもう一人が声を上げた。

「貴様に言うことではない。ひとつ、聞く。ヴィッカの息がかかった者達は全員、このビルにいるんだよな?」

「だったら、なんだ!」

「余計な手間が省けた」

「な、にっ!」

 男は心臓を刺し貫かれ、こと切れた。

 ギッシュは骸から刀を引き抜き、地面に突き立てた。

 手袋を仕舞い、フードを外すと刀を手に中に入った。

 中に入ると武装した男達が振り返った。

「誰だ?」

「答える気はない」

 ギッシュは左手に構えた刀を持ち上げた。

「見張りはどうした!」

「殺した」

「てめぇ!」

 男達はその一言で、殺気を放って剣を構えた。

「さっさとかかってこい」

 ギッシュが言うと、右側から剣が迫ってきた。

 右腕で弾き返すと、男が驚いた顔をした。

「なんなんだよ!」

 男は怯え出したが、ギッシュは背後から心臓を刺し貫いた。

 骸を蹴って刀から引き抜くと、男達の波に向かって歩き出した。

「おらああっ!」

 ギッシュはその声で振り返ると、右腕を振り抜いた。

 剣が曲がり、頬を殴打された男は近くの壁に激突した。

 男が立ち上がったと分かるや、ギッシュは距離を詰めて刀を繰り出した。

 首を刎ねられた男はその場で骸と化した。

「敵は一人だ! この数でかかれば簡単に倒せる!」

「あ?」

 ギッシュは美しい顔を歪めて、叫んだ男を睨みつけた。

「ひいっ!」

 斬りかかろうとしていた男が、たじろいだ。

 ギッシュは無言で男の心臓に刀を突き刺した。

 骸を刀から引き抜くと、その場に捨て置いた。

「こんな数で、俺を殺せると? 舐められたもんだな」

 ギッシュは言い放つと、左腕を剣で刺された。

 右手で剣を抜いてから、斬撃を繰り出した。

 心臓をざっくりと斬りつけられ、男はその場で死んだ。

 左手に刀、右手に剣を構えたギッシュが、男達に突っ込んでいく。

 ギッシュは咄嗟に、右腕で顔を庇った。

 奥からマシンガンを手にした男が、無差別に発砲してきたからだ。

 弾丸の雨がやむまで、ギッシュは一歩も引かなかった。

「なんだ! お前はっ!」

 引き金から指を離した男が叫んだ。

「誰でもよかろう」

 ギッシュは目にも留まらぬ速さで、マシンガンを持っている男との距離を詰め、両腕を斬り落とした。

「なっ! があああああっ!」

 ごとりとマシンガンが落ち、男は激しい痛みに叫んだ。

「貴様はそれなりに厄介だからな。先に殺しておく」

 ギッシュは言いながら、男の心臓に剣を突き刺した。

 剣を突き刺したまま捨て、マシンガンを拾うと、男達に狙いを定めて弾が無くなるまで発砲し続けた。

 次々に男達が倒れていくのを見ながら、ギッシュは半分ほどの男達を殺すと、弾切れのマシンガンを捨てた。

「たった一人なのに、なんで圧されてるんだ!」

「弱いだけじゃなく、頭の回転も鈍いのか」

 ギッシュが嘲笑った。

「なんだと!」

「貴様らと俺とでは、死地を潜り抜けてきた〝質〟が違うんだよ。目の前で誰かを殺し、誰かが死んでいくのを見続けて。気が触れてもおかしくない」

「じゃあなんで! 平然としてるんだよ!」

「心と右腕を捨てたからだ」

 ギッシュは冷たく男を睨みつけた。

「心だと!」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?