それから二週間後、トサにオーダー再開してもいいと言われて帰宅していた。
「あのっ! 〝冷酷な鬼神〟に会いたいんですけれど!」
その途中で、一人の女に声をかけられた。
「俺だが、誰を殺してほしいんだ?」
「ここを根城にしてる〝ヴィッカ〟の創設者、
「理由は?」
「死を軽んじてるからです。なにもかもが自分の思いどおりになると思ってるんです。言うとおりに動かない者がいれば、自分の手で殺しています。罪深いことをしているという自覚もないので、せいぜい駒が減ったと思うだけなんです」
「最低な男だな。それで、金はどれくらい用意できるんだ?」
ギッシュは冷たく言い放ちながら尋ねた。
「ここに」
紙袋の中身を確認した。
「二百万、か」
「引き受けてくれるってことですか?」
「その前に、ひとつ聞きたい。オーダーをして二度と後悔しないか? それとヴィッカを全滅させるぞ?」
「全滅!? 殺してほしいのは一人なんですが!」
「甘いこと、言ってんじゃねぇよ」
ギッシュは女をギロリと睨みつけた。
「ひっ!」
女は怯え出した。
「俺の仕事は命を奪うこと。全員殺さなければ、意味がない。口封じも兼ねている。どうしても、全員殺すことが嫌なら、自分の手でそいつを殺せ。他のあてはない。……どうするかは、お前が決めろ」
ギッシュは氷のような冷たい声で告げた。
「自分じゃできない! 全員の命を引き換えにしてでも、自由になりたいんですっ!」
女は感情任せに叫んだ。
「貴様も命を軽んじているな。惨劇を目にして、それでも生きたいと思えるのか。見ものだな」
ギッシュは吐き捨てて立ち去り、いったん帰った。オーダーの内容だけヴァネッサに告げ、そそくさと家を出ていった。
「ここか」
目の前に
手始めに見張りの者一人の心臓を刺し貫いた。
「なんで殺してるんだよ!」
様子を見ていたもう一人が声を上げた。
「貴様に言うことではない。ひとつ、聞く。ヴィッカの息がかかった者達は全員、このビルにいるんだよな?」
「だったら、なんだ!」
「余計な手間が省けた」
「な、にっ!」
男は心臓を刺し貫かれ、こと切れた。
ギッシュは骸から刀を引き抜き、地面に突き立てた。
手袋を仕舞い、フードを外すと刀を手に中に入った。
中に入ると武装した男達が振り返った。
「誰だ?」
「答える気はない」
ギッシュは左手に構えた刀を持ち上げた。
「見張りはどうした!」
「殺した」
「てめぇ!」
男達はその一言で、殺気を放って剣を構えた。
「さっさとかかってこい」
ギッシュが言うと、右側から剣が迫ってきた。
右腕で弾き返すと、男が驚いた顔をした。
「なんなんだよ!」
男は怯え出したが、ギッシュは背後から心臓を刺し貫いた。
骸を蹴って刀から引き抜くと、男達の波に向かって歩き出した。
「おらああっ!」
ギッシュはその声で振り返ると、右腕を振り抜いた。
剣が曲がり、頬を殴打された男は近くの壁に激突した。
男が立ち上がったと分かるや、ギッシュは距離を詰めて刀を繰り出した。
首を刎ねられた男はその場で骸と化した。
「敵は一人だ! この数でかかれば簡単に倒せる!」
「あ?」
ギッシュは美しい顔を歪めて、叫んだ男を睨みつけた。
「ひいっ!」
斬りかかろうとしていた男が、たじろいだ。
ギッシュは無言で男の心臓に刀を突き刺した。
骸を刀から引き抜くと、その場に捨て置いた。
「こんな数で、俺を殺せると? 舐められたもんだな」
ギッシュは言い放つと、左腕を剣で刺された。
右手で剣を抜いてから、斬撃を繰り出した。
心臓をざっくりと斬りつけられ、男はその場で死んだ。
左手に刀、右手に剣を構えたギッシュが、男達に突っ込んでいく。
ギッシュは咄嗟に、右腕で顔を庇った。
奥からマシンガンを手にした男が、無差別に発砲してきたからだ。
弾丸の雨がやむまで、ギッシュは一歩も引かなかった。
「なんだ! お前はっ!」
引き金から指を離した男が叫んだ。
「誰でもよかろう」
ギッシュは目にも留まらぬ速さで、マシンガンを持っている男との距離を詰め、両腕を斬り落とした。
「なっ! があああああっ!」
ごとりとマシンガンが落ち、男は激しい痛みに叫んだ。
「貴様はそれなりに厄介だからな。先に殺しておく」
ギッシュは言いながら、男の心臓に剣を突き刺した。
剣を突き刺したまま捨て、マシンガンを拾うと、男達に狙いを定めて弾が無くなるまで発砲し続けた。
次々に男達が倒れていくのを見ながら、ギッシュは半分ほどの男達を殺すと、弾切れのマシンガンを捨てた。
「たった一人なのに、なんで圧されてるんだ!」
「弱いだけじゃなく、頭の回転も鈍いのか」
ギッシュが嘲笑った。
「なんだと!」
「貴様らと俺とでは、死地を潜り抜けてきた〝質〟が違うんだよ。目の前で誰かを殺し、誰かが死んでいくのを見続けて。気が触れてもおかしくない」
「じゃあなんで! 平然としてるんだよ!」
「心と右腕を捨てたからだ」
ギッシュは冷たく男を睨みつけた。
「心だと!」