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恨み《6》

「なかなか重いな。だが」

 ギッシュは不敵に嗤うと、右腕を横に振り抜いた。続いてがら空きの腹に刀を突き立てた。

「ぐっ!」

 ギッシュは刀をさらに深く刺し込んだ。

 漣の顔がきつく歪む。

 背中まで刺し貫いたのが分かると、ギッシュは刀を引き抜いた。

「まだ俺に向かってくる……か。この程度では、闘志が消えんわけか」

 ギッシュは溜息を吐き、困ったような顔をした。

「当然じゃ!」

「強がりにしか見えん」

 ギッシュはふらついている漣を、冷ややかな目で睨みつけた。

「傷ひとつつけられずに、死ぬわけにはいかぬ!」

 漣は叫ぶと、狙い澄ました突きを繰り出してきた。

 刀は右脇腹を刺し貫いた。

 口端から鮮血が滴り落ちる中、ギッシュが冷笑を浮かべた。

「どれだけ人を殺してきたと、痛みを受けてきたと思っている? こんなの、枷にはならない。これから先、どれだけの強者が出てこようと、敵ならば殺すだけだ。情けなどかける気もない。そんな情、とっくの昔に斬り捨てた」

 ギッシュが言いながら、柄に手をかけて、反発してきた力を押し返し、刀を引き抜いた。

「お主はいったい、何者じゃ!」

 顔を歪めながら漣が叫んだ。

「何者か? そんなこと、どうでもいい」

 ギッシュは吐き捨てた。

「こんなところで、なにもできずに殺されるわけにはいかぬ! お主さえ殺せればいいのだ!」

 漣は叫び、斬りつけてきた。

 胸から腹にかけ、斜めに斬りつけられた。

「俺がすべての元凶、と言いたげだな」

 傷が増えても動じず、低い声で言った。

「お主が生きている。それが許せんだけだ!」

「それで俺の心を殺したつもりなら……甘いな」

 ギッシュは冷たい声で言い、斬撃を放った。それは躱されてしまった。

 狙いを定め、刀を振り抜こうとしたが、漣の刀に防がれた。

 鍔迫り合いの状態になりながらも、一歩も引かず、ほんの少し力を抜いた。

 疲れたのかと思った漣はチャンスだと思い、押し切ろうとしてきた。

 ギッシュは右腕で刀を受け止め、空いた左手の刀をくるりと持ち替え、右肩を刺し貫いた。

「ぐああああっ! 死ぬ気は……なしか」

 無造作に刀を引き抜くと、よろよろと後ずさった。漣は刺された右肩を押さえ、睨みつけてきた。

「ああ。貴様らの死を背負ってでも、生きなきゃいけないんでな」

 ギッシュは言い放つと、鮮血の滴る刀を振り上げた。

「無念……!」

 それが漣の最期の言葉だった。

 心臓を刺し貫き、刀を引き抜く。

 鮮血を殺ぎ落とし、鞘に仕舞った。

 静まり返った公園を一瞥し、ギッシュは顔を歪めた。

「こりゃあ、酷いな」

 無造作に転がる骸の数々を見ながら、溜息を吐いた。

 公園の名前をメールすると、歩き出そうとしてその場に片膝をついた。

 しばらく動きを止めてから、ゆっくりと立ち上がった。外れていたフードを被り直す。

 ふらつきながら公園を出ていった。



 トサのクリニックに着いたのは、午前十時ごろだった。

「手当てを……頼む」

 言いながら、ギッシュがドアを開けた。

「っ……!」

 トサはギッシュを見て言葉を失った。

 着ているグレーのシャツが、鮮血で真っ赤に染まっていたからだ。

「大分、手間取った」

「それ以上喋っちゃダメ! ほら、早く奥へ!」

 ギッシュはゆっくりと確実に、奥の部屋に向かって歩き出した。

 なんとか辿り着いたのを見送ったトサは、必要なものをかき集めた。

 ドアを蹴破る勢いで中に入ると、丸椅子にコートを脱いで座っているギッシュがいた。意識を保っているのがやっとだというのは、見れば分かった。血を流しすぎたのかもしれない。

「服は切っちゃうからね? じゃないと治療できないし」

 ギッシュは焦点の合わない目をしていた。

 ――早く血を止めないと、意識を失うかもしれない。

 そんなことを思いつつ、トサは服を切り、血だらけの上半身を見て、言葉を失った。

 トサはせっせと、手を動かしながら、固まった血を落としていく。こびりついているものだけでも落としてから、胸と腹と脇腹、背中にガーゼをあてる。左腕の斬り傷と、深い刺し傷にもガーゼをあて、上半身を覆うように包帯を巻きつけた。端をきゅっと縛った。

 左腕にも包帯を巻きつけると、端をきゅっと縛った。

「ん……」

 ギッシュは呟くと、刀を杖代わりにしてゆらりと立ち上がった。

「歩ける?」

「意地でも歩く」

「全治二月だからね。治るまで、オーダーを受けないように!」

 ギッシュがうなずくのを見て、トサは見送った。



 フラフラしながら、なんとか家の前に辿り着くと、玄関で靴を脱ぎ、ばたりと倒れてしまった。

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