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恨み《5》

「ああ、そうだ。……少し、怪我をしすぎたな」

 ギッシュは呟くと、右手で男の頭を殴った。

 吹っ飛ばされた神無月は地面を転がり、気を失っているのか、起き上がる気配はない。

「気を失ったまま、死なせるのは癪に障るが、仕方がない」

 ギッシュは言いながら、神無月の首を刎ねた。


「なんでそんな顔してるの? 痛いんでしょう?」

 近くまできた男が首をかしげた。

「ああ? 痛いが顔に出さないのが、そんなにも不思議なのか」

 ギッシュは不機嫌そうに顔を歪めた。

「あ、霜崎って言うんだー。さっさと始めようか!」

 霜崎は言うやいなや、薙刀を振り下ろしてきた。

 ギッシュはそれを右腕で受け止めた。

 霜崎は顔を歪めた。

 渾身の力で振り下ろしているのに、跳ね返そうとしてきているのが分かったからだ。

 力を込めたものの押し切られてしまい、薙刀が上へ跳ね上がった。

 慌てて元に戻そうとした霜崎を見ながら、ギッシュは懐に潜り込んで、刀を薙いだ。

 互いに顔を歪めた。ギッシュは傷が浅かったことに、霜崎は懐にまで入り込まれたことに。

「そのわりに身軽なんだな。咄嗟に身体を引いただろ」

「なんで分かるかな」

 ギッシュの言葉に、霜崎は溜息を吐いた。

「どれだけの人間を、殺してきたと思ってんだ」

 ギッシュは呆れながら言った。

「不死身じゃないのって思っちゃう。だって、どれだけ怪我しても、痛そうな顔しないじゃん」

「俺は無敵じゃないし、人間離れしているわけでもないぞ?」

 ギッシュは鼻で嗤いながら言った。

「やっぱり強いね」

 霜崎が笑いながら言った。

「そうか。貴様らなんぞに、命をくれてやるつもりはない」

「残念ー。こうするのはどうかなっ!」

 霜崎は言うと薙刀を薙いだ。

 ギッシュは刀でそれを受け止めた。

「無駄だぞ」

「でも、敵を目の前にして、逃げ出すような人間じゃないんだよ」

「はっ。逃げようが、殺すまで貴様の前に、立ちはだかるぞ」

「命を奪うことについては、なにも思わないのかな」

「今さらそれについて考えたところで意味はない。俺は命を奪うことでしか、生きられなくなってしまった」

 ギッシュは吐き捨てた。

「誰も幸せにならないのにね。殺さなければ先に進めないってのも、どうかと思うけど」

「さっさと死んでくれ」

 ギッシュは言い放つと、受け止めていた薙刀を弾き返し、首を刎ねた。

 生首がごろんと地面を転がった。


 ギッシュはそれを見ながら、顔を歪めた。身体を見下ろすと、鮮血の量が多く、上半身は赤く染まり、ズボンも赤くなっていた。

「あと二人……。どこからくる?」

 ギッシュは呟きながら、周囲を見回した。


「誰も奇襲なんか仕掛けないさ」

 その声を聞いて、左に視線を向けると、一人の男が立っていた。

愛宕あたごって言うんだ。さて、どう殺そうか?」

 愛宕は剣を抜きながら言った。

「それはこっちの台詞だ」

 ギッシュは溜息を吐き、刀を構えた。

 二人同時に動き出し、刀と剣がぶつかり合う音が響いた。

 それを繰り返すこと十回。互いに一歩も引かない状態に変化が起きる。

 剣が腹を刺し貫いたのだ。

「ぐっ!」

 ギッシュは鮮血を吐き出しながら、剣を見下ろす。

 よく見れば刃の部分になにかが塗られていた。

「なんだ、気づいちゃったのか。これは毒だよ。解毒剤は作らなかったから。治りが遅くなるかもね」

「その程度なら問題ない」

「え?」

 愛宕が首をかしげた。

「同じことを二度も言わせるな」

 ギッシュは言いながら、愛宕の手ごと柄をぎっちりとつかんだ。細く息を吐き出すと、ゆっくりと剣を抜き始めた。

「はあっ!?」

 愛宕はもがき始めたが、ギッシュの強い力には逆らえなかった。

 しばらくして、剣がずるりと抜け、ギッシュが手を離した。

「邪魔なものはさっさと取り除くに限る」

 ギッシュは低い声で言った。

「同じ人間だとは思えないや」

 愛宕は溜息混じりに言うと、突きを繰り出した。

 それを左腕に受けたギッシュ。剣が刺し込まれても、表情に変化はない。

「勝手に言っていろ」

 ギッシュが後ろに飛びのくと、刺さっていた剣が抜けた。

「ねえ、本当にここで死ぬつもりはないの?」

「ない。俺は生きると決めた」

「ふうん。そんなにボロボロなのに。なんで諦めないのかな」

 愛宕は不思議そうな顔をした。

「さあな。さて、次はどう動く?」

 ギッシュは不敵な笑みを崩さなかった。

「その余裕そうな顔、消してやりたいね!」

 愛宕は言うと、剣を斜め上から振り下ろしてきた。

 右腕で受け止め、左手に構えた刀で突きを繰り出した。

「ぐっ!」

 愛宕は激しい痛みに顔を歪めた。

 ギッシュは無造作に刀を引き抜き、喉に切っ先を突きつけた。

「殺すんだろ。あの人には敵わないさ。なんせ、番人の中で〝最強〟とうたわれる人だからな」

「どんな強者であろうとも、全員殺すだけだ」

 ギッシュは吐き捨てながら、愛宕の首を刎ねた。



「ほう。わしら相手にここまでやるか」

 ギッシュが振り返ると、一人の老人と目が合った。

「最後は貴様だな」

 老人が刀を抜いた。それだけで雰囲気が一変した。

 ギッシュは目を細めた。

「この構えで動じなかったのは、お主が初めてだ」

「雰囲気が変わっただけだろうが」

 ギッシュは溜息混じりに吐き捨てた。

さざなみ、参る!」

 ギッシュは突っ込んできた漣の刀を、右腕で受け止めた。

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