「ああ、そうだ。……少し、怪我をしすぎたな」
ギッシュは呟くと、右手で男の頭を殴った。
吹っ飛ばされた神無月は地面を転がり、気を失っているのか、起き上がる気配はない。
「気を失ったまま、死なせるのは癪に障るが、仕方がない」
ギッシュは言いながら、神無月の首を刎ねた。
「なんでそんな顔してるの? 痛いんでしょう?」
近くまできた男が首をかしげた。
「ああ? 痛いが顔に出さないのが、そんなにも不思議なのか」
ギッシュは不機嫌そうに顔を歪めた。
「あ、霜崎って言うんだー。さっさと始めようか!」
霜崎は言うやいなや、薙刀を振り下ろしてきた。
ギッシュはそれを右腕で受け止めた。
霜崎は顔を歪めた。
渾身の力で振り下ろしているのに、跳ね返そうとしてきているのが分かったからだ。
力を込めたものの押し切られてしまい、薙刀が上へ跳ね上がった。
慌てて元に戻そうとした霜崎を見ながら、ギッシュは懐に潜り込んで、刀を薙いだ。
互いに顔を歪めた。ギッシュは傷が浅かったことに、霜崎は懐にまで入り込まれたことに。
「そのわりに身軽なんだな。咄嗟に身体を引いただろ」
「なんで分かるかな」
ギッシュの言葉に、霜崎は溜息を吐いた。
「どれだけの人間を、殺してきたと思ってんだ」
ギッシュは呆れながら言った。
「不死身じゃないのって思っちゃう。だって、どれだけ怪我しても、痛そうな顔しないじゃん」
「俺は無敵じゃないし、人間離れしているわけでもないぞ?」
ギッシュは鼻で嗤いながら言った。
「やっぱり強いね」
霜崎が笑いながら言った。
「そうか。貴様らなんぞに、命をくれてやるつもりはない」
「残念ー。こうするのはどうかなっ!」
霜崎は言うと薙刀を薙いだ。
ギッシュは刀でそれを受け止めた。
「無駄だぞ」
「でも、敵を目の前にして、逃げ出すような人間じゃないんだよ」
「はっ。逃げようが、殺すまで貴様の前に、立ちはだかるぞ」
「命を奪うことについては、なにも思わないのかな」
「今さらそれについて考えたところで意味はない。俺は命を奪うことでしか、生きられなくなってしまった」
ギッシュは吐き捨てた。
「誰も幸せにならないのにね。殺さなければ先に進めないってのも、どうかと思うけど」
「さっさと死んでくれ」
ギッシュは言い放つと、受け止めていた薙刀を弾き返し、首を刎ねた。
生首がごろんと地面を転がった。
ギッシュはそれを見ながら、顔を歪めた。身体を見下ろすと、鮮血の量が多く、上半身は赤く染まり、ズボンも赤くなっていた。
「あと二人……。どこからくる?」
ギッシュは呟きながら、周囲を見回した。
「誰も奇襲なんか仕掛けないさ」
その声を聞いて、左に視線を向けると、一人の男が立っていた。
「
愛宕は剣を抜きながら言った。
「それはこっちの台詞だ」
ギッシュは溜息を吐き、刀を構えた。
二人同時に動き出し、刀と剣がぶつかり合う音が響いた。
それを繰り返すこと十回。互いに一歩も引かない状態に変化が起きる。
剣が腹を刺し貫いたのだ。
「ぐっ!」
ギッシュは鮮血を吐き出しながら、剣を見下ろす。
よく見れば刃の部分になにかが塗られていた。
「なんだ、気づいちゃったのか。これは毒だよ。解毒剤は作らなかったから。治りが遅くなるかもね」
「その程度なら問題ない」
「え?」
愛宕が首をかしげた。
「同じことを二度も言わせるな」
ギッシュは言いながら、愛宕の手ごと柄をぎっちりとつかんだ。細く息を吐き出すと、ゆっくりと剣を抜き始めた。
「はあっ!?」
愛宕はもがき始めたが、ギッシュの強い力には逆らえなかった。
しばらくして、剣がずるりと抜け、ギッシュが手を離した。
「邪魔なものはさっさと取り除くに限る」
ギッシュは低い声で言った。
「同じ人間だとは思えないや」
愛宕は溜息混じりに言うと、突きを繰り出した。
それを左腕に受けたギッシュ。剣が刺し込まれても、表情に変化はない。
「勝手に言っていろ」
ギッシュが後ろに飛びのくと、刺さっていた剣が抜けた。
「ねえ、本当にここで死ぬつもりはないの?」
「ない。俺は生きると決めた」
「ふうん。そんなにボロボロなのに。なんで諦めないのかな」
愛宕は不思議そうな顔をした。
「さあな。さて、次はどう動く?」
ギッシュは不敵な笑みを崩さなかった。
「その余裕そうな顔、消してやりたいね!」
愛宕は言うと、剣を斜め上から振り下ろしてきた。
右腕で受け止め、左手に構えた刀で突きを繰り出した。
「ぐっ!」
愛宕は激しい痛みに顔を歪めた。
ギッシュは無造作に刀を引き抜き、喉に切っ先を突きつけた。
「殺すんだろ。あの人には敵わないさ。なんせ、番人の中で〝最強〟と
「どんな強者であろうとも、全員殺すだけだ」
ギッシュは吐き捨てながら、愛宕の首を刎ねた。
「ほう。わしら相手にここまでやるか」
ギッシュが振り返ると、一人の老人と目が合った。
「最後は貴様だな」
老人が刀を抜いた。それだけで雰囲気が一変した。
ギッシュは目を細めた。
「この構えで動じなかったのは、お主が初めてだ」
「雰囲気が変わっただけだろうが」
ギッシュは溜息混じりに吐き捨てた。
「
ギッシュは突っ込んできた漣の刀を、右腕で受け止めた。