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恨み《4》

 その一言で頭にきた阪野は、左手に握った鎌の角度を変えて斬りつけてきた。

 ギッシュは、左腕に傷を負うも、不敵な笑みを崩さなかった。

「これくらい、大した傷ではない」

 鮮血が滴り落ちるのを見ながら、言い放った。

「なら、もっと深手を負わせるだけです!」

 阪野は両手の鎌をいったん引き、投げつけてきた。

 投げられた鎌を、右腕と刀で防いだ。

 その様子を見て、顔を歪めた阪野。再度鎌を手にして、突っ込んできた。

「まったく。どいつもこいつも」

 ギッシュは鎌で腹を刺されながらも、溜息混じりに言った。

「なんです!?」

「無敵でないと分かるや、殺せるなんて思うんじゃねぇよ。傷が増えたって、枷にはならない」

「そんなっ!」

 その言葉を受けた阪野は、衝撃を受けた。

 ――痛みが枷にならないのなら、どうやってこの男の体力を削ればいいのだろう?

 考えたが、阪野に答えは出せなかった。

「敵を前に、なにを考えている? 隙でしかないんだよ」

 ギッシュは言いながら、腹を突き刺して抉った。

「ぐううううっ!」

 刀が無造作に引き抜かれると、阪野は数歩後退した。

 鮮血がポタポタと滴り落ちる。

「苦痛を味わいながら、死んでくれ」

 ギッシュは吐き捨てると、阪野に向かって刀を振り下ろした。

 胸から腹にかけてざっくりと斬り裂いた。

「ぐああああっ! はあ、はあ。まだ、動けますよ!」

 阪野が叫んで、荒い息を吐いた。鎌を握り直すと、突っ込んできた。

 その切っ先はギッシュの左胸を深く抉った。無造作に鎌が引き抜かれた。

「ほう。その痛みでまだ動けるのか」

 口端から鮮血を滴らせながら、ギッシュが低い声で言った。

「狙いが外れましたが。これで、最後ですっ!」

 渾身の一撃が振り下ろされた。

 ギッシュはその攻撃を右胸と腹に受けた。

「体力の限界……というわけか。ならば、こちらも攻撃せねば」

 ギッシュは言いながら、阪野の右腕を斬り落とした。

「ぎゃあああっ!」

「痛いだろう? それくらい叫ぶのが普通なのだとしたら。俺は相当特殊なんだろうな」

 ギッシュが呟いた。

 その間、阪野は激しい痛みにのたうち回っていた。

 冷めた目でその様子を見つつ、ギッシュは左腕を斬り落とした。

「あああああっ! これ以上は!」

 阪野が叫んだ。

「楽になりたいか。バカバカしい。ただ終わるだけなのにな」

 ギッシュは言いながら、両脚を斬り落とし、喉を突き刺した。

 悲鳴がぴたりとやんだ。

 激しい痛みに、阪野は泣いていた。もうやめてと言わんばかりに、首を横に振っている。

「まだだ」

 ギッシュは腹を斬り裂いた。

 夥しい鮮血が、地面を汚した。

「苦しいだろう、痛いだろう。願ったところで、なにも叶えられやしないんだ」

 ギッシュは言いながら、阪野の心臓を刺し貫いた。

 派手に鮮血が飛び散った。

 無造作に刀を引き抜くと、骸がどさりと倒れた。

 ギッシュが振り返ると、そこには一人の男がいた。

「次は貴様か」

「神無月だ。少しは骨のある奴みたいだな」

 短剣を手にした神無月が言った。

「全員殺す。俺は罪を犯してもなお、生きなければならない」

 ギッシュは低い声で言った。

「やめてくれよ。あんたには、ここで死んでもらう」

「できるものなら、やってみろ」

 ギッシュは口端を吊り上げて嗤った。

「おらああっ!」

 短剣を繰り出してきた神無月だったが、ギッシュの右腕に防がれた。

 舌打ちをすると、腹に狙いを定めて突きを繰り出してきた。

 それを躱さずに受け止めると、思わずギッシュの口端が吊り上がる。

「なにがおかしい?」

「この程度の痛みで、弱ったと思っている貴様らが、バカらしいと思っただけだ」

「このっ! あんたはいったい何者だ!」

 神無月は怒りに任せて、傷を抉った。

 鮮血を吐き出したギッシュだったが、冷笑が消えることはなかった。

「はっ、人間だよ。ただ、人を殺すことしかできないがな」

 ギッシュは言いながら右手で、短剣の柄を手ごと握った。

 慌てて離そうとした神無月だが、力では敵わず、されるがままだった。

 一息で短剣を抜き切ると、ふうっと息を吐き出した。

「こんな、こんなのが、人間だと!? 人間離れしているじゃないか!」

「かもしれないが、なにをそんなに動揺している?」

 ギッシュは冷笑したまま尋ねた。

「あんたなんか、人間じゃない! こんな奴が人間だなんて、誰も信じやしない!」

「なにを言い出すかと思えば。誰にどう思われても、構わない。他人のことなんか、どうでもいい。……戦意より、恐怖の方が上かもな」

 ギッシュは神無月に、視線を向けたまま言った。

「くっ! 殺せないならせめて……!」

 震える身体に鞭を打った神無月は、鮮血の滴る短剣を握ると、左胸に突き刺した。

「ひとつでも多く、傷をつくることにしたか。はは、バカな奴」

 ギッシュは口端から鮮血を滴らせながら、ぞっとするほどの冷笑を浮かべた。

「うるさい! これで、どうだ!」

 短剣を引き抜くと、今度は右胸を刺した。

「いくつ傷を増やそうが、なにも変わらんぞ?」

 ギッシュは鮮血を吐き出しながら、低い声で言った。

「なにをしたって、無駄なのか!?」

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