「絶望したか?」
「た、助けてくれっ! まだ死にたくない! 〝冷酷な鬼神〟に殺されそうなんだ!」
男は大声を出したが、助けはこない。
「……気はすんだか?」
「ななな、なんで、助けがこない……?」
「〝冷酷な鬼神〟と言ったからだ。まだ言わなきゃ、誰かきたかもしれないが。貴様の一声が、人払いの役目を果たした。俺にとっては、好都合だ」
冷たくギッシュが言い放った。
「そんな……」
男の顔が青ざめた。
「じっくり殺してやるよ」
ギッシュは言いながら刀を構えると、突きを繰り出し、右腕を刺し貫いた。
「ぐううううっ!」
叫ぶ男を見ながら、刀を動かして傷を抉った。
男がまた叫んだが、無視して刀を引き抜いた。
男が数歩後ずさり、脂汗が頬を伝った。
「大丈夫ですか!」
ドアを何度も叩き、安否を確認する声が響いた。
ギッシュはすかさず、男の首に刃を押し当て、囁いた。
「大丈夫だと言え」
「大丈夫ですので!」
「ならいいのだけれど」
安心しきったように言い、その場から離れた。
「まったく。俺の算段が狂いそうだな。さっさと殺してやる」
「ままま、待ってくれ! あんたはなんで、こんなことをしてる!」
「俺はただ、この国の闇を滅したい」
ギッシュはそう言うと、男の首を刎ねた。
生首がごろんと転がった。
外に出て、近くの人気のない公園に向かった。後ろから誰かがついてきているのを知りながら。
「あ?」
振り返ると、大勢の男達にギッシュは不快そうに顔を歪めた。
「〝冷酷な鬼神〟ことギッシュ・キルロール! 大人しく縛につけ!」
「こいつら〝番人〟か……。誰が貴様らを呼んだ?」
「説明してやろう。このマンションの管理人さんがな、通報してくれたんだよ。お前の異名も口にしたから、こうして
「見て見ぬフリをしていればよかったものを。手間が増えるじゃねぇか」
ギッシュが吐き捨てた。
番人とは警察の裏組織の名称である。一般的な警察と違い、殺しも平気で行う連中。咎人の前にあらわれ、国の抑止力として動いている。簡単に言えば、ギッシュと敵対する組織だ。
「こちらの求めに応じる気はあるか?」
「ない」
ギッシュは即答した。
「ならば、殺せっ!」
その声で男達がいっせいに剣を構えた。
「まったく。どれだけいても、俺は殺すだけだぞ?」
ギッシュは襲い掛かってきた男の首を、刎ねながら言った。
周囲を男達に囲まれても、ギッシュは一人ずつ殺し始めた。
それを十五分ほど繰り返していると、骸がゴロゴロと転がった。
「人数ではこちらが有利なのに!」
リーダーが焦りを滲ませた。
「相手は〝冷酷な鬼神〟だよ? こんな雑魚に務まる相手じゃあない」
そこへ武器を持った五人の人間が姿を見せた。そのうちの先頭にいた男が言った。
ギッシュもその姿を目にしていたが、目の前の雑魚の相手に忙しかった。
「あなた方は! なぜここに!? あの方はわたしに指示を一任されたはずでは?」
「そうだが、相手があいつじゃあ、ただの戦闘員では無理だとの判断だ。あれでは、奴に命をくれてやっているだけだ。雑魚どもを退かせろ。あいつの相手はこちらが引き受ける」
「ですがっ! あなた達が死んでしまっては困るのではないですか!」
「心配か? 呆れたぞ。代わりは幾らでもいるだろうが。時間稼ぎはしてやるから、さっさと連中を連れて戻れ」
茫然としているリーダーを放置し、男が声を張り上げた。
「無駄死にしたくなかったら、そこを退け!」
雑魚達はその声を聞き、いっせいに退いた。
「なんだ、貴様らは?」
雑魚の波が引いたことに気づいたギッシュが、警戒心をあらわに言い放った。
「あんたを殺しにきたんだよ」
「ほう。たった一人殺すのに、五人も手練れがいるのか。くくっ」
その言葉を受け、男は怒りをあらわにした。
「あんたはこの国の闇を目にしながら、それを壊す側に回った。そんなことをしたって、あんたの過去は消えやしない」
「そうだな。
「それを知ってどうするつもりだ。ここにいる全員を倒しても、代わりは幾らでもいる」
「貴様、まさか」
「なんでこんなに察しがいいんだよ。〝番人〟はあんたが潰した国お抱えの部隊の、システムを使ってる。ちょっと
「面倒なことをしてくれたじゃねぇか」
ギッシュは顔を歪めて言った。
「それはこっちの台詞だ。なんでこんなにしぶとく生きてんだよ」
「話はここまでだ。誰から地獄に送ってやろうか」
「怪我してねぇのかよ。それは……返り血か」
男が溜息を吐いた。
「そう簡単には死にませんよ、我ら五名は」
鎌を持った男が一歩進み出た。
「敵ならば殺す。それだけのこと」
ギッシュは冷たく嗤うと、フードを脱いだ。
「美しいですね。あんな残忍なことをした者とは、とうてい思えませんよ。
「さっさと始めるぞ」
ギッシュは冷たく言い放った。
「では先手をいただきます」
言いながら阪野は、右手の鎌を振り下ろしてきた。
ギッシュはそれを刀で受けた。硬い音が響いた。
「この程度か。軽い軽い」
ギッシュが嗤った。
「これならどうです!」