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恨み《3》

 おののく男の眼前に、刀を向けた。

「絶望したか?」

「た、助けてくれっ! まだ死にたくない! 〝冷酷な鬼神〟に殺されそうなんだ!」

 男は大声を出したが、助けはこない。

「……気はすんだか?」

「ななな、なんで、助けがこない……?」

「〝冷酷な鬼神〟と言ったからだ。まだ言わなきゃ、誰かきたかもしれないが。貴様の一声が、人払いの役目を果たした。俺にとっては、好都合だ」

 冷たくギッシュが言い放った。

「そんな……」

 男の顔が青ざめた。

「じっくり殺してやるよ」

 ギッシュは言いながら刀を構えると、突きを繰り出し、右腕を刺し貫いた。

「ぐううううっ!」

 叫ぶ男を見ながら、刀を動かして傷を抉った。

 男がまた叫んだが、無視して刀を引き抜いた。

 男が数歩後ずさり、脂汗が頬を伝った。


「大丈夫ですか!」

 ドアを何度も叩き、安否を確認する声が響いた。

 ギッシュはすかさず、男の首に刃を押し当て、囁いた。

「大丈夫だと言え」

「大丈夫ですので!」

「ならいいのだけれど」

 安心しきったように言い、その場から離れた。

「まったく。俺の算段が狂いそうだな。さっさと殺してやる」

「ままま、待ってくれ! あんたはなんで、こんなことをしてる!」

「俺はただ、この国の闇を滅したい」

 ギッシュはそう言うと、男の首を刎ねた。

 生首がごろんと転がった。


 外に出て、近くの人気のない公園に向かった。後ろから誰かがついてきているのを知りながら。

「あ?」

 振り返ると、大勢の男達にギッシュは不快そうに顔を歪めた。

「〝冷酷な鬼神〟ことギッシュ・キルロール! 大人しく縛につけ!」

「こいつら〝番人〟か……。誰が貴様らを呼んだ?」

「説明してやろう。このマンションの管理人さんがな、通報してくれたんだよ。お前の異名も口にしたから、こうして出張でばったんだよ」

「見て見ぬフリをしていればよかったものを。手間が増えるじゃねぇか」

 ギッシュが吐き捨てた。

 番人とは警察の裏組織の名称である。一般的な警察と違い、殺しも平気で行う連中。咎人の前にあらわれ、国の抑止力として動いている。簡単に言えば、ギッシュと敵対する組織だ。

「こちらの求めに応じる気はあるか?」

「ない」

 ギッシュは即答した。

「ならば、殺せっ!」

 その声で男達がいっせいに剣を構えた。

「まったく。どれだけいても、俺は殺すだけだぞ?」

 ギッシュは襲い掛かってきた男の首を、刎ねながら言った。

 周囲を男達に囲まれても、ギッシュは一人ずつ殺し始めた。

 それを十五分ほど繰り返していると、骸がゴロゴロと転がった。

「人数ではこちらが有利なのに!」

 リーダーが焦りを滲ませた。

「相手は〝冷酷な鬼神〟だよ? こんな雑魚に務まる相手じゃあない」

 そこへ武器を持った五人の人間が姿を見せた。そのうちの先頭にいた男が言った。

 ギッシュもその姿を目にしていたが、目の前の雑魚の相手に忙しかった。

「あなた方は! なぜここに!? あの方はわたしに指示を一任されたはずでは?」

「そうだが、相手があいつじゃあ、ただの戦闘員では無理だとの判断だ。あれでは、奴に命をくれてやっているだけだ。雑魚どもを退かせろ。あいつの相手はこちらが引き受ける」

「ですがっ! あなた達が死んでしまっては困るのではないですか!」

「心配か? 呆れたぞ。代わりは幾らでもいるだろうが。時間稼ぎはしてやるから、さっさと連中を連れて戻れ」

 茫然としているリーダーを放置し、男が声を張り上げた。

「無駄死にしたくなかったら、そこを退け!」

 雑魚達はその声を聞き、いっせいに退いた。

「なんだ、貴様らは?」

 雑魚の波が引いたことに気づいたギッシュが、警戒心をあらわに言い放った。

「あんたを殺しにきたんだよ」

「ほう。たった一人殺すのに、五人も手練れがいるのか。くくっ」

 その言葉を受け、男は怒りをあらわにした。

「あんたはこの国の闇を目にしながら、それを壊す側に回った。そんなことをしたって、あんたの過去は消えやしない」

「そうだな。たわむれに聞くが〝番人〟という組織ができた経緯は?」

「それを知ってどうするつもりだ。ここにいる全員を倒しても、代わりは幾らでもいる」

「貴様、まさか」

「なんでこんなに察しがいいんだよ。〝番人〟はあんたが潰した国お抱えの部隊の、システムを使ってる。ちょっといじってるけどな。強者は次から次へと出てくるぞ。あんた独りでは潰せないくらいの、力をつけたからな」

「面倒なことをしてくれたじゃねぇか」

 ギッシュは顔を歪めて言った。

「それはこっちの台詞だ。なんでこんなにしぶとく生きてんだよ」

「話はここまでだ。誰から地獄に送ってやろうか」

「怪我してねぇのかよ。それは……返り血か」

 男が溜息を吐いた。



「そう簡単には死にませんよ、我ら五名は」

 鎌を持った男が一歩進み出た。

「敵ならば殺す。それだけのこと」

 ギッシュは冷たく嗤うと、フードを脱いだ。

「美しいですね。あんな残忍なことをした者とは、とうてい思えませんよ。阪野さかの、と申します」

「さっさと始めるぞ」

 ギッシュは冷たく言い放った。

「では先手をいただきます」

 言いながら阪野は、右手の鎌を振り下ろしてきた。

 ギッシュはそれを刀で受けた。硬い音が響いた。

「この程度か。軽い軽い」

 ギッシュが嗤った。

「これならどうです!」

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