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隠しきれなかった秘密《5》

 ギッシュは苦笑しながら、右手を動かした。

 しばらく窓を開けていると、誰かの声がしたのでその方を眺める。

 骸を片づけているのを見て、あの連中かと思いながら見守る。

 間近で見るのは初めてだったため、無言でその様子を眺める。

 ――裏で死ぬ奴らは、俺が殺した奴だけではないってことだろうが。

 そんなことを思いながら、ギッシュは窓を閉めた。



 しばらくして、物音に気づいて武装して表に出たギッシュ。

 そこにはひとつの骸が転がっていた。

「ははは! やった、やったぞ! こんな僕でもできた!」

 鮮血で全身真っ赤に染まっている男が歓喜している。

 それですべてを察したギッシュは、冷ややかな目で男を見つめる。

「はあ……」

 ギッシュは盛大な溜息を吐く。

「あ?」

 それに気づいた男が首をかしげる。

「その様子だと、そいつを殺すために、すべてをかなぐり捨ててきたのだろう? やっとの思いで、達成できたことを喜ぶのか。呆れてものも言えん」

 冷ややかな声でギッシュは吐き捨てる。

「これにすべてを懸けて達成することのなにが悪い!?」

 わけが分からないという顔をする男が叫ぶ。

「まったく。復讐に気を取られて、己の手を汚し、人の道に外れたことにも気づかない愚か者だとは……。貴様、人殺しだぞ?」

 ギッシュはあえて、なんの飾りもない言葉を告げる。

「人殺しなんてこの世にたくさんいる! それが一人増えたところでなんだって言うんだ! 復讐を企てた時点で、僕は死んでるようなもの! 後悔なんかしてない!」

「狂った貴様は俺が殺してやるよ。その歓喜による興奮も、いつまで持つかな?」

 冷然と嗤うギッシュに初めて恐怖を覚えた男は、震える手でナイフを握る。

「おらあああっ! ……なんでっ!?」

 繰り出されたナイフを右手で防ぐ。

 がきんっ! という硬い音と弾かれたことに驚愕する男。

 斬りつけた手袋から覗くのは、赤銅色の義手。

「右腕にはなにをしても無駄だ」

 ギッシュはコートを脱ぎ捨て、右腕を隠してる袖を斬り落とす。

「なっ!」

 男はあらわれた義手を目にして、驚きを隠せないようだった。

「そんな顔、見飽きている」

 ギッシュは冷ややかに言い放つ。

「そんなものつけられてまで、生きてる奴なんているんだな」

「はっ。俺にはなにを言っても無駄だぞ。大体なにを言うかは想像がつく」

 ギッシュは一切動じない。

「なんでもいいや。とにかく、邪魔をするなら消えてくれっ!」

 男は叫びながら、ナイフを振り下ろしてくる。

 それを躱し、ギッシュは右手の拳を叩き込む。

 遠慮のない一撃だったため、それをまともに喰らった男は、激しい痛みに呻く。

「他人の痛みを一切考えなかった結果だよ。貴様にはなにもかもが足りない。そもそも、壊れているからな」

 ギッシュは非常に冷たい目で、男を見下ろす。

「壊れてなんか!」

「他人の命を奪っておいて、歓喜するなど、どこからどう見ても壊れている」

 ギッシュは言いながら、刀を心臓に突き刺した。

「壊れてるのは、お前の……方だっ!」

 それが男の最期の言葉だった。

「死にゆく者が。なにを言っても俺には届かねぇよ」

 ギッシュは返り血に塗れた上着とズボンを一瞥し、コートを羽織った。

 骸の現在位置を知らせると、何事もなかったかのように歩き出した。



 そのころ、ヴァネッサは……。

 身を布団から起こし、伸びをした。

 凝りを解しながら、天井を見上げる。

 分からないことがなによりも怖いことかもしれない。あの人はなんであんなにも寂しそうに見えるの?

 昨日のギッシュの様子を見たヴァネッサは思う。

 なんでもいいから、知るところから始めないと。

 何も分からないよりかはマシ。

 ヴァネッサは着替えをして荷造りをしたキャリーケースを持って、なんの思い入れのない部屋を出た。

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