「あ?」
ギッシュは顔を歪めた。
「そんなものつけられてさ、生きるのなんて嫌にならないか?」
「うるせぇんだよ。俺のすべてを、知ったふうな口を叩くな。もう少し、付き合ってやるよ」
ギッシュは吐き捨てると、男に刀を突きつけた。
「へぇ。なら、もう少し弱らせねぇとな!」
男が言いながら、短剣を投げてきた。
右胸に受けたギッシュは、右の口端から鮮血を滴らせるも、不敵に嗤った。
続いて、剣で腹を刺し貫かれた。
鮮血がポタポタとアスファルトを汚していく。
「これで少しは弱ったか?」
「まさか」
ギッシュは言うと、右手で腹に突き刺さっている剣の柄を握って、一息に抜いた。
続いて、右胸に刺さっている短剣を引き抜き、鮮血に染まったそれらを、投げ捨てた。
男はなにも言えずに固まっている。
目の前でなにが起こったのか、理解が追いつかないのかもしれなかった。
「これくらいの痛み、右腕を失ったときに比べたら、大したことはない。さて、反撃といくか」
ギッシュは呟くと、刀を握り直した。
短剣を手にしていた男に視線を向けると、大量の鮮血を肩から流し、その場で死んでいた。
――こいつはどう殺そうか。絶叫というものは何度聞いても慣れないが、一思いに殺すのは、なんだか
ギッシュは思いながら、男に突っ込んだ。
男は慌てて武器を拾って、突きを繰り出してきた。
それを左胸と腹で受け止め、ギッシュは右腕を斬り落とした。
「ぐああああああっ! うう、動け、動けよお!」
夜の静けさを破るように、男の絶叫が響いた。
「動くわけがないだろう」
ギッシュは溜息を吐いて、右脚を突き刺した。
男が叫んだ。
「人というのは、痛みに弱い。それは本当のようだな」
「おおお、お前だって、人間だろうがあああ!」
「俺はな、人の成りをした〝なにか〟だよ。これだけ傷ついているのに、他人事だからな」
ギッシュは言うと刀を引き抜いて、左脚を斬り落とした。
男がまた叫んだ。
「そんなに叫ぶほど痛いのか。黙れよ」
叫んでいる男の喉を突き刺して、刀を引き抜いた。
うるさかった絶叫が、ぱたりと止んだ。
声が出ないことに気づいて、男の顔は青を通り越して、白くなっている。
「もう終いにしてやる」
ギッシュは言いながら、男の心臓を刺し貫いた。
どさりと骸が倒れた。
「……時間をかけすぎたか」
ギッシュは呟きながら、刀の鮮血を
左手にスマートフォンを持つと、骸の現在地を送った。
ギッシュは方向転換をして、歩き始めた。
それからしばらくして、なにかを殴る鈍い音を聞いたギッシュ。
その音が響く路地裏を覗き込むと、一人の少年が三人の青年達に殴られていた。
刀を振るえるくらいは広そうだった。
青年達が気づくように、ギッシュは右手で、壁を何度か殴る。
その音に気づいた三人の青年が振り返る。
「ああ?」
「なんだよ?」
「何故、貴様らは少年を殴っている?」
ギッシュは不機嫌そうな三人を睨む。
「あ? あんたなんかに理由言うわけねぇだろ。なぁ?」
会話の最中というのに、少年を殴る手は止まらない。
「まったく。貴様らにはこうしないと手を止めてくれそうにねぇか」
ギッシュは呟くと、嫌な笑みを浮かべていた青年の首を刎ねた。
生首がごろんとアスファルトの上に落ちる。
その音に気づいた青年二人が振り返る。
次の瞬間、目を剥いた。
「えええええ!」
「こいつ! こいつ、動かねぇよ!?」
「動くわけがないだろう。首を斬り落としたのだから」
動揺している青年二人を、サルヴァは冷ややかに睨みつける。
「ななな、なんで殺してんだよ!?」
「理由くらいは教えてやる。貴様らが生きる価値もない屑だからだ」
「はあ?」
「人殺しに言われたくねぇよ!」
「勝手に言っていろ。その少年を死にそうになるまで殴っておいて、咎めなし? そんなわけないだろう」
ギッシュは溜息混じりに言い放つ。
「これは! ストレス発散なんだよ! 死にたくないから見逃し……」
男が言いながら命乞いをしてきたが、台詞を遮るように、刀を振るった。
心臓を刺し貫かれた男は、涙を流しながら死んだ。
「ストレス発散で他人を殴ることが、そもそも間違ってんだよ。自分のストレスも上手く解消できない馬鹿は死んで当然」
怒りを滲ませて、ギッシュは怯えている男に近づいていく。鮮血の滴る刀をちらつかせて。
「ひいいいっ! くるなくるなあ! ……なに、その手?」
ギッシュは忌々しげに顔を歪める。
「ひっ!」
纏う空気が変わったのが分かったのだろう。男はさらに怯える。
「生きられもしないほど殴っておいて、命乞いか。貴様らの行動はまったく理解できん。死ぬのはまだ先、などと思っていたのか? 迫ってきた突然の死の恐怖に怯えているのか? どちらにせよ、貴様ら三人は死んで当然の罪を犯している」
ギッシュは饒舌に語ると、右手を額に当てて溜息を零す。
その様子を見た男は口を開けてぽかんとしていた。
――見惚れるというのは……最も大きな隙だな。
「はっ!」
攻撃を受ける寸前で我に返った男は、蹴りを繰り出してくる。