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輝石で作られた腕を持つ鬼神
魅娜波
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年09月12日
公開日
67,211文字
完結
他人の道具として生きてきた男が、人の闇と因縁を断ち切る


人には言えない過去を持つギッシュ・キルロールとヴァネッサ。
ひょんな出会いをきっかけに同居を開始する。
片腕を無くしたギッシュは、その経緯を話して聞かせる。
生きることに絶望しきったギッシュと、目の前で大事な人を奪われたヴァネッサ。
互いの傷を知り、なにを話すのか。

他サイトで公開済みの作品に加筆しております。


表紙は馬瀬曽波子さんに描いていただき、ご本人に許可を取って載せています。
ありがとうございます。

突然の訪問者

 時は現代。舞台は架空の日本の首都、東響とうきょう。〝冷酷な鬼神きじん〟という一見怖い通り名が囁かれていて、その実態を知る者は誰もいなかった――。



 季節は春の初めごろ。普通の二階建ての一軒家の前で一人の女が立ち止まった。セミロングの茶髪で、ごく普通の顔立ちをしている、小柄な、どこにでもいる普通の女だ。目の色は緑。白のシャツに青のロングスカート。黒のヒールを履いている。身長は一五〇センチくらいだ。彼女はヴァネッサ。ここに住んでいるという変わり者に会いにきたのだ。緊張して震えている指先で、チャイムを鳴らした。

 しばらくしてドアが開いた。

「なんの用だ?」

 不機嫌そうに顔を歪めている男が、顔を出した。

「あのっ! 〝冷酷な鬼神〟について、聞きたいことがあるんです……」

「記者か?」

「一般人ですっ!」

「そうか。悪いが帰ってくれ」

 男は話を遮るように、ドアを閉めた。

 ヴァネッサはドアを見つめて、仕方なく帰った。



 翌日の夜、ヴァネッサはチャイムを鳴らした。

 何度鳴らしても応答がなかった。

 またにしようと思って、ヴァネッサが道に視線を向けると、男がいた。

「こんな時間に出歩くんじゃねぇよ。中で話を聞く。さっさと入れ」

 男は言いながら、ドアをさらに開けた。

「お邪魔します」

 遠慮がちに中に入ると、思ったより広い玄関で、ヴァネッサは驚いた。ポカンとしていると、不機嫌そうに顔を歪めた男が睨んできた。

「すみませんっ!」

 ヴァネッサは慌てて階段を駆け上がった。


 二階に上がると、男が椅子に座っていた。ヴァネッサは男の顔を見て、つい見惚れてしまった。

 黒髪はショートで無造作というか、自然に見えた。端正でシャープな顔立ちをしている。切れ長で吊り上がった目をしているため、目つきが悪い。左目がダークパープルで、右目がグレーのオッドアイ。一八〇センチはあろうかという長身。肌は白い。グレーのシャツとズボンを身につけていて、黒の靴下をはいている。肌をなぜか徹底的に隠しているように思え、ヴァネッサは内心で疑問に思った。家の中にいるというのに、黒の革手袋を嵌めている。

「話はなんだ?」

 低い声で現実に引き戻されたヴァネッサは、空いている椅子に座った。

「もしかしてあなたが〝冷酷な鬼神〟なんですか?」

「……そうだ。お前は誰だ?」

「私はヴァネッサ、と申します。近くに住んでいて、ある日噂を聞いたんです」

「どんな?」

 鋭い視線が、ヴァネッサに向けられる。

「ここが〝冷酷な鬼神〟に会える場所だと聞いたんです」

 その視線にドキッとしたヴァネッサが言った。

「それで、きてみたわけか」

「はい」

「俺は、ギッシュ・キルロール。殺してほしい者がいるなら、内容を聞くが?」

 ギッシュは名乗った。

「そういうわけではないんです」

「は? なら、なにをしにきたんだ?」

 ギッシュが美しい顔を歪め、尋ねた。

「どんな人なのか、知りたくて……」

「聞きたいこと、あるんだろ? 答えるから、言ってみろ」

「えっと、日本人ではないですよね? オッドアイなんて珍しいですし」

「こんな変わった目の色をしているが、一応日本人だ。生まれも育ちもな」

「そうなんですね」

「話はここまでだ。送っていくから、少し待っていろ」

 ギッシュは椅子から立ち上がると、背もたれに引っかけていた黒のフードつきのコートを手に、右側の部屋へ入った。


 ギッシュは左の奥にあるクローゼットの前にいき、隠し棚から黒い日本刀を取り出した。

 革手袋を外し、右腰に日本刀を装備して、コートを羽織り、革手袋を嵌めた。


「待たせたな。いくか」

「はい!」

 二人は家を出た。


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