時は現代。舞台は架空の日本の首都、
季節は春の初めごろ。普通の二階建ての一軒家の前で一人の女が立ち止まった。セミロングの茶髪で、ごく普通の顔立ちをしている、小柄な、どこにでもいる普通の女だ。目の色は緑。白のシャツに青のロングスカート。黒のヒールを履いている。身長は一五〇センチくらいだ。彼女はヴァネッサ。ここに住んでいるという変わり者に会いにきたのだ。緊張して震えている指先で、チャイムを鳴らした。
しばらくしてドアが開いた。
「なんの用だ?」
不機嫌そうに顔を歪めている男が、顔を出した。
「あのっ! 〝冷酷な鬼神〟について、聞きたいことがあるんです……」
「記者か?」
「一般人ですっ!」
「そうか。悪いが帰ってくれ」
男は話を遮るように、ドアを閉めた。
ヴァネッサはドアを見つめて、仕方なく帰った。
翌日の夜、ヴァネッサはチャイムを鳴らした。
何度鳴らしても応答がなかった。
またにしようと思って、ヴァネッサが道に視線を向けると、男がいた。
「こんな時間に出歩くんじゃねぇよ。中で話を聞く。さっさと入れ」
男は言いながら、ドアをさらに開けた。
「お邪魔します」
遠慮がちに中に入ると、思ったより広い玄関で、ヴァネッサは驚いた。ポカンとしていると、不機嫌そうに顔を歪めた男が睨んできた。
「すみませんっ!」
ヴァネッサは慌てて階段を駆け上がった。
二階に上がると、男が椅子に座っていた。ヴァネッサは男の顔を見て、つい見惚れてしまった。
黒髪はショートで無造作というか、自然に見えた。端正でシャープな顔立ちをしている。切れ長で吊り上がった目をしているため、目つきが悪い。左目がダークパープルで、右目がグレーのオッドアイ。一八〇センチはあろうかという長身。肌は白い。グレーのシャツとズボンを身につけていて、黒の靴下をはいている。肌をなぜか徹底的に隠しているように思え、ヴァネッサは内心で疑問に思った。家の中にいるというのに、黒の革手袋を嵌めている。
「話はなんだ?」
低い声で現実に引き戻されたヴァネッサは、空いている椅子に座った。
「もしかしてあなたが〝冷酷な鬼神〟なんですか?」
「……そうだ。お前は誰だ?」
「私はヴァネッサ、と申します。近くに住んでいて、ある日噂を聞いたんです」
「どんな?」
鋭い視線が、ヴァネッサに向けられる。
「ここが〝冷酷な鬼神〟に会える場所だと聞いたんです」
その視線にドキッとしたヴァネッサが言った。
「それで、きてみたわけか」
「はい」
「俺は、ギッシュ・キルロール。殺してほしい者がいるなら、内容を聞くが?」
ギッシュは名乗った。
「そういうわけではないんです」
「は? なら、なにをしにきたんだ?」
ギッシュが美しい顔を歪め、尋ねた。
「どんな人なのか、知りたくて……」
「聞きたいこと、あるんだろ? 答えるから、言ってみろ」
「えっと、日本人ではないですよね? オッドアイなんて珍しいですし」
「こんな変わった目の色をしているが、一応日本人だ。生まれも育ちもな」
「そうなんですね」
「話はここまでだ。送っていくから、少し待っていろ」
ギッシュは椅子から立ち上がると、背もたれに引っかけていた黒のフードつきのコートを手に、右側の部屋へ入った。
ギッシュは左の奥にあるクローゼットの前にいき、隠し棚から黒い日本刀を取り出した。
革手袋を外し、右腰に日本刀を装備して、コートを羽織り、革手袋を嵌めた。
「待たせたな。いくか」
「はい!」
二人は家を出た。