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第15話 大人の事情


 隣国の王位継承にまつわる【闇の真相】を知ることになった夜。



 衝撃的ではあったが、そのおかげで流失していたセレスタイン王家にまつわる宝飾品を回収できたことは良かった。



 が、しかし──



 その回収品があまりに大量で、「ありえない……」とヴィクトルはがっくりと肩を落とし、宝石眼を使い過ぎたリリアンローゼは、疲れ目で3日ほど頭痛がした。



 さらには、リリアンローゼ以上の疲れ目になったのは、第二王子オーレリアンだった。



 オスロン家に下賜された〖翠玉の耳飾り〗が一対だったという事実に、空中分解してしまった『オスロン男爵・女王の恋人説』の再調査を余儀なくされる。



 これにより、ふたたび数日間、書庫に篭るはめになり、改めて当時の記録や業務日誌を調べる過程で、ついに知らない方がよっぽど良かった【真実】にたどりついてしまった。



 ここで、軍議用の円卓から、やつれた顔をあげた国王カール。



「つづけてくれ」



 それを皮切りに、眉間をさするオーレリアンからの報告がはじまる。



 結論から述べると、やはりウルリカ女王陛下は、恋多き女性だった。それも、半端なく。女王に即位する前も、即位したあとも、婚姻したあとも。



 書庫の片隅からは、ウルリカ女王の側近だったとある貴族の子息が、家族に宛てた手紙が、何重にも布を巻かれた状態で発見された。



 その手紙には、『ウルリカ女王陛下は、色欲の女王である』と明言され、はっきりと『僕、狙われています』と綴られていた。



 その次の手紙には、



『僕、奪われました。陛下からお褒めの言葉と99番目の恋人の証として、藍玉の耳飾りの片方を下賜されました……』



 涙で滲んだ一文が綴られていた。



 同様の手紙は、その後30通ほど発見された。どれも、厚手の布でグルグル巻きにされ、開封するまでにかなりの時間を要した。



 ここ三世代にわたり、複数の王配や側妃を持つことのない王家で育ったオーレリアンは、読みたくもない手紙を読むしかなく、しっかりと幻滅した。



 高祖母のスキャンダラスな恋愛遍歴が明らかとなり、がっくりと肩を落とした現国王と第二王子に、追い打ちとなる報告があがってきたのは、その直後だった。



 宝物殿所有の宝飾品の再鑑定結果で、ウルリカ女王が所有していた宝石類の半数が模造品にすり替えられており、当時、組織的な隠蔽工作が為された可能性があること。



 宝飾品のすり替えは、女王の個人所有分に限らず、それ以前の王族が所有する宝石類にも、すり替えられた形跡があることがわかった。



 杜撰ずさんな管理としかいいようがない状況と、多くの恋人たちに王家の宝飾品をバラ撒いていた女王。



 王家の名誉も威厳も、へったくれもない。



 これらの事実に、国王カールは3日間寝込み、書庫から解放されたオーレリアンは、赤裸々で奔放な女王の褥事情を夢にみて、数日間うなされていたという。



 女王の恋愛遍歴が、子孫に与えた代償は、なかなかのものだった。




 ◇  ◇  ◇  ◇




 2週間後。



 王都にある宝石店での日常が戻ってきたリリアンローゼは、3階の寝室で虹色に輝く〖ファントム・オパール〗を月光に照らしていた。



 先日の闇オークションで、幸運にも手に入れることができた宝石である。



 太陽光よりも月光の方が多彩な遊色効果が生まれる特殊な天然オパールで、膨大な魔力を蓄積できる守護石として、とんでもない価格で取引されている。



「それがまさか、人工石の扱いで出品されているなんて……」



 独特の虹彩を放ち、個体によってまるで色合いの違う輝石であることから、「鑑定士泣かせ」とも呼ばれているが、とんでもない掘り出し物だった。



 面倒な依頼ではあったが、通常の数倍の報酬と〖ファントム・オパール〗を手に入れることができたので、リリアンローゼとしては満足している。



 ただしその後、厄介事がひとつ増えてしまった。



「こんばんは」



 明るい月光を背に、寝室の窓枠に足をかけて侵入してきたのは、【黒狼】のギルドマスター。



 これまでは尾行したり、店の裏手に居座ったりする程度だったのが、夜の闇にまぎれて、堂々と遊びにくるようになってしまった。



「ダーリン、いい夜だね」



 今夜のギルドマスターは、性懲りもなく『招待状』を持参していた。



「お願いがあるんだ。週末、俺といっしょに仮面舞踏会に参加してくれないかな」



「どこの?」



「カラディナ皇国」



「遠いわね」



「たしかに。でも、参加して損はないと思うよ。その夜、舞踏会で開かれる競売に、スイートハニーが欲しがっていた〖セラフィム・ルビー〗が出品されるらしい」



「行くわ」



 そこに「失礼します」と、冷えたサングリアを運んできたメルケルがやってきて、



「また、来たんですか。ギルマスターは暇ですね」



 嫌味を云ったあとで、話しはオスロン家の再興について。



 リリアンローゼの父であるエリク伯爵の働きかけにより、オスロン家が男爵位を再授与される可能性が高くなった。



「ジーナ嬢は昨日、正式にエレオノーラ様の侍女となりました。本日さっそく、奥様に同行してベルナルド侯爵の御茶会に参加しております」



 先日、念願だった離婚請求が神殿に受理され、晴れてベルナルド女侯爵が誕生した。



 御祝にと用意していた日長石サンストーンは、母エレオノーラが届けてくれた。






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