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王都殺人事件〖女王の耳飾り〗 愛と名誉とその代償
藤原ライカ
ミステリーサスペンス
2024年09月12日
公開日
33,950文字
連載中
宝石に隠された200年前の愛について、伯爵令嬢は知った。否、知るべきではなかった。それは大人事情。
セレスタイン王国の王都セレスにて、連続殺人事件が起きた。
騎士団による捜査がつづくなか、国王カールに呼び出されたエリク伯爵家の令嬢リリアンローゼは、事件と王家をつなぐ事実を知らされ、王令による極秘の調査依頼を受ける。

真相の解明に向け、相棒のダークエルフと動きだしたリリアンローゼの前に、冒険者ギルド【黒狼】のギルドマスターが現れる。
神出鬼没なマスターに尾行されたり、助けられたり、ときに甘い言葉で誘惑されたりしながら、リリアンローゼは『女王の耳飾り』に秘められた真相に迫る。

花の都で起きた血なまぐさい事件と王家に伝わる宝石をめぐるロマンスミステリー。

第1話 殺人事件



「サイコパスでも現れたのかしら?」



 今朝の新聞を開きながら、伯爵令嬢リリアンローゼ・エリクはつぶやいた。



 王都での連続殺人事件を報じる記事に夢中になり、朝食に手をつけないお嬢様に、家令兼侍女兼護衛として仕えるダークエルフのメルケルは、冷めたお茶を魔法で温め直した。



「フルーツだけでも召し上がってください。そろそろ準備をしていただかないと、依頼者がご来店されます」



「わかっているわ」



 そう云って、8等分にカットされたオレンジとブルベリーを口に放り込んだリリアンローゼは、もう一度、最初から記事に目を通した。




**********************



昨日、未明。


中央市場の路地裏で、


高利貸しを営む男の遺体が発見される。


上半身に複数の刺し傷があり、


貸付金の集金後に襲われた模様。


現場には、被害者の鞄が残されており、


集金されたおよそ5万ゴールドは持ち去られていた。


王都では1週間前にも、


同様の手口による殺人事件が起きており、


事件を捜査する治安維持隊は、


関連を調べている。



**********************




 それから1時間後——



 リリアンローゼは経営する宝石店の2階で、本日の依頼者が持参した首飾りの鑑定をしていた。



 王国で唯一の宝石眼が、ルーペを通して、琥珀色の宝石の真贋を見極めていく。その様子を、真向いに座る貴婦人は、固唾を飲んで見守っていた。



「ベルナルド侯爵夫人、お待たせしました。こちらの琥珀石は本物です」



 リリアンローゼの言葉に、ホッと胸をなでおろした侯爵夫人に、



「ただし、魔力はありませんね。宝石の価値だけでいえば、10万ゴールドが妥当かと」



 ガッカリなお知らせが付け加えられた。



「ああ、やっぱりダマされたわ。魔石だって云うから、なけなしの現金はそのままにしてやって、琥珀石を慰謝料代わりに手を打ってやったというのに。あの男ときたら……」



 侯爵夫人の云う「あの男」とは、先月、ついに侯爵邸から追い出された夫のことだろう。



 侯爵家に婿入りした夫は、数年前から若い女たちと浮気を繰り返し、いくつもの決定的な証拠を突き付けられたうえ離婚となった。



 その離婚の証拠集めと浮気夫の素行調査をしたのは、何を隠そうリリアンローゼだ。



 貴族の離婚には、国王と神殿の了承がいるため、現在、離婚請求書を提出しているが、書類が受理され、正式に離婚が成立するには、あと1カ月はかかる。



 それまでは、侯爵夫人という立場であるが、夫から爵位を取り戻したあとは、ベルナルド侯爵家の当主となる夫人に、リリアンローゼは訊ねた。



「どうしますか? 追加で慰謝料を請求されますか?」



「やめとくわ。それをすれば財産分与のいざこざで、離婚請求の受理も遅れてしまうでしょうから。それに、あの男から取れるものなんて、もうほとんどないでしょう。なにせ、わたしが裸一貫でたたき出してやったのだから」



 夫との結婚生活に終止符を打った夫人は、晴れやかな顔で云った。



「この離婚で、あの男の名誉を失墜させて、社交界から追放するという目的は達成されたわ。リリアンローゼ様には感謝でいっぱいよ。その琥珀石だけど、今日の鑑定料と相談料として受け取ってちょうだい」



「さすがに、10万ゴールドはいただけません」



「まあそう、おっしゃらずに。また依頼をさせて頂くことになると思うから。次はしっかりと素行調査をしてから、殿方とお付き合いしないとね」



 未来の女侯爵が上機嫌で帰ったあと。



「メルケル、この間、オークションで手に入れた『日長石サンストーン』があったわね」



「はい、お嬢様」



「あれなら魔力が宿っているから、守護石になるわ。ベルナルド侯爵家の新しい門出にぴったり。離婚が成立したタイミングで贈っておいてね」



「かしこまりました。ところでお嬢様、さきほど屋敷の方から、こちらが届きました」



 メルケルから差し出された封書を見て、ギョッとしたリリアンローゼ。



「ちょっと待ってよ。この封蝋シーリングってもしかして……」



「カール国王陛下の紋章ですね」



「わたし宛で間違いない? もしかしたら、お父様宛ての封書ってことは……」



「ないですね」



 往生際が悪いな、という目で、リリアンローゼを見たメルケルは、男性の姿から、魔法で侍女の姿になる。



「陛下の側近として日々登城しているご主人様に、なぜ、わざわざ封書を送る必要が? そもそも、急ぎでなければ、お嬢様への伝言も、ご主人様に言付けするはずです。それにもかかわらず、王城から早馬で当家に届けられたということは、よほど緊急性のある——最後までご説明した方がよろしいですか? わたしくしとしては、急いだ方がよろしいかと」



「わかってるわよっ!」







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