ポメ
お姉ちゃんは、『シナリオ』にそってさされたらしい。きたない言葉をはきたかったけれど、残念ながらぼくはそういう言葉を知らない。
元々ぼくは『ゲーム』なんかはどうでも良くて、ただお姉ちゃんが幸せになるのを見たいんだ。それがこうして『シナリオ』とかいうものがじゃましてきて、とても頭にきている。
とりあえずお姉ちゃんは助かったけれど、回復にはまだ時間がかかる。領地からあわててやってきたパパとママは、ぼくをかわりばんこにぎゅっとだきしめたあと、すぐに病院へ向かった。
ママはもちろん、パパも病院に仕事を持ちこんでまでずっと付きそっているし、どの家人もどことなく不安げだ。
ぼくも学校を休んでいる。こんなときに行きたくない。だからといって家にいても、もやもやとした気持ちだけがふくらんで、居ても立ってもいられなくなる。
お姉ちゃんが第二皇子のこと好きなのは、知ってたけど、お花の件で本当によくわかった。だから、お姉ちゃんを幸せにしてくれるなら、第二皇子とお姉ちゃんが
そう思っていたときに、あんな事件が起きて、ぼくはどうしたら良いのかわからない。これが『ゲーム』だなんて言われて、なっとくできるわけがないけど、でも、そうなのもわかっている。全力でムシしてやろうと思っていたのに、あっちからかかってこられたら、さけようがないじゃないか。
『ヒロイン』のポメ
ポメ
でも、バッドエンディングであるポメ
これはだれが悪いわけでもないから、ぼくははげまし方がわからなかった。
ほとんど『ゲーム』の内容を覚えていない自分に、お姉ちゃんをさした犯人と同じくらい頭にきている。なにか覚えていたら、ぼくだっていろいろ動けたかもしれないのに。どうしたらいいのかわからない。
『シナリオ』に負けないために、どうしたらいいのかわからない。
ポメ
それと、ポメ
ぼくにとって『前』は『前』で、もう終わってしまっていたし、『おねえちゃん』のことは思い出して悲しくなるけれど、よくわからない。
ポメ
大好きだったら、『前』のこともっとたくさん覚えていられたかな、そしたらお姉ちゃんはさされないですんだかな、と思って、ぼくはちょっと泣いた。
そんなことをいろいろ考えていたら、あっという間に夜になった。夜ごはんをひとりで食べて、いつもならお姉ちゃんがすわっている席にお姉ちゃんが居ないのにぜんぜんなれなくて、ずっとあんまり味がわからない。
ナイフでさされるのってどれくらい痛いのかな、『前』でママにぶたれたときより痛いかな、と思って、ちょっとだけ手を切ってみようとしたら、あわてて給仕に止められた。
ごめんね、と言って、ちょっとつかれていたんだ、とぼくはごまかした。
ベッドにもぐっておやすみを言って、心配そうな顔の侍女を下がらせてから、ぼくはねむれなくてまどから町の方向を見ていた。
そしたら十時くらいに、とつぜん光のばく
それで、ぼくは思い出した。
これ、たぶん『イベント』だ。
『ヒロイン』が『聖女』になるときの動画が、光の柱みたいのだったはずだ。
家の中からもざわざわと声が聞こえて、みんながまどに集まっている。ぼくはもう一度侍女をよんで、着がえて光の元へ行くと言った。