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第二八話 バトル開始!

『それでわぁあああっ!!! バトルスタああああああアアアアアットゥ!!!!』


「ちょっと待て、いきなり?!」

 アナウンサーの怒号とも取れる声が響くと同時に、一気に私の方向へと向かって数人のヒーローが駆け出してくる……問答無用かよ! と私は一気に超加速を使ってその場を一旦離れる。

 稲妻のような超加速……観客にはまるで瞬間移動をしたかのように見えただろうか? 会場の十分に温まっていたボルテージが一気に加速する。

 駆け出していたヒーローは一瞬の出来事に驚いたようだが、私は移動先にいた男性ヒーローに思い切り衝突してしまい、私は思わずステージ上でひっくり返った。

「うぎゃああっ! おま……ふざけんなッ!」


「うわっ! ごめんっ!」


『中央から参加のシルバーライトニングに向かったヒーローがいたが、超加速で一気に回避したぞぉッ!』

 だが超加速で加速し切った私がぶつかったことで、その男性ヒーローは思い切り突き飛ばされたような格好となってステージ上から押し出されてしまう……あれ? これもしかして彼は失格に?

 ラッキーというべきか? いやまあ……偶然とはいえいきなりヒーローを一名倒してしまった私に向かって、現地ヒーローの殺気だった視線が集中する。

 やばい……! すぐに戦闘態勢を取らないと、と立ち上がった私の背後から別のヒーロー……それは筋骨隆々のマッチョなおじさんヒーロー……えーと名前がわからないけど、ともかくマッチョおじさんが私を思い切り羽交締めにしてきた。

 ギリギリギリ……と全身を締め付けるような凄まじい圧力を、全身の筋肉を強張らせて必死に耐えようとする私……凄まじい痛みと圧力に思わず悲鳴が漏れかける。

「うあ……ぐううううっ!」


「フーハハハ! 俺はこの県で最強の筋肉ヒーロー……マスター・マッスル!! シルバーライトニング討ち取ったりいいっ!」


「ふ……ふざけんなああっ! 負けるかああああっ!」


『これはすごい! シルバーライトニングがマスター・マッスルの羽交締めを解こうとしているぞ!!』

 だがマスター・マッスルという大層な名前の割にパワーでいけば、ヘラクレスの足元にも及ばない……メリメリメリという軋むような音を立てながら私は彼の拘束を無理矢理に剥がすことに成功する。

 そのまま胸の辺りを蹴り飛ばして一気に数メートル近く跳躍すると、自慢の筋肉を破られ拘束を解かれたことで驚いた表情を浮かべるマスター・マッスルに向かって超加速を使って飛び蹴りを放った。

 ズドオオンッ! という音とともに大柄なマスター・マッスルの体が大きく跳ね飛ばされる……今の一撃で完全に意識を飛ばした彼は、そのままステージ外に飛び出すとそこでぴくりとも動かなくなる。

『マスター・マッスル失格ううっ! 昨年予選上位に食い込んだ実力者がなんと一回戦で敗退だあッ!』


『うおおおおおおっ! シルバーライトニングが案外つええぞ!』

『案外スタイルが良くてエロいのがまた唆るぞッ!』

『もっと露出増やしてエロい格好しろ! ポンコツヒーローッ!』


「うるせえええッ! 黙ってファ⚪︎ザでも見てろッ!」


『ふざけんなてめえ応援しねえぞ!!』

『さっさとヒーローやめてヌード写真集出せコラぁ!』

『お姉様ッ! 好きです! 付き合ってください!』


『おっと! シルバーライトニングこれはいけません、観客に向かって何か吠えていますよ』

 飛んできたヤジに思わず反応して観客に向かって中指を立てた私に向かって大ブーイングが巻き起こる。

 思わずカッとなって全力で叫んでしまったが、これでも花も恥じらう乙女なんだから、下世話なヤジはやめてほしい、ほんと……というか最後の何なんだ?

 数人のヒーローがじりじりと距離を詰めるように周囲を包囲していく……まずいな一対一での戦闘ならともかく、多対一での戦闘では超加速もうまく活かし切れるかわからない。

 身構えたまま相手の出方を伺っていた私だが、そこへ一人のヒーローが突然乱入してくる……周囲を取り囲もうとしていた長髪ヒーローがドガン! という音と共にいきなり横っ飛びに吹き飛んでいく。

「な、なに……!?」


「共闘するぞシルバーライトニングッ!」


『シルバーライトニングの危機に先ほどまで一緒にいたブラス・バレットが乱入だッ!』

 そう、その長髪ヒーローを薙ぎ倒したのは先ほどまで隣にいたブラス・バレット……彼の右腕はまるで真鍮のバットのように硬化しており、その一撃で先ほどのヒーローを殴り倒したのだ。

 先ほど話しかけられた時に能力を開示されたが、ヒーロー「ブラス・バレット」……その名の通り肉体や体液などを真鍮のように硬化させられる、さらには塊として打ち出すことでまるで飛び道具のように血液を打ち出せる。

 血液は打ち続けると貧血になるし命の危険もあるからあまり数多くは打ち出せない、牽制程度に数発使うようにしており、肉体を真鍮化して格闘戦をするのが得意……らしい。

 私の隣に来るとブラス・バレットは軽くウインクしてから周囲のヒーローを威嚇するように指で銃の形を作ると私に話しかけてきた。

「共闘するぞ、足切りは一六名……個別に戦うよりも一緒に戦った方が勝率高そうだ」


「あ、ああ……そうね、アンタが一緒なら心強いわ」


「一時的だが、呼ばせてもらうぜ相棒ッ!」

 私シルバーライトニングとブラス・バレットが共闘したのを見て、周囲を取り囲んでいたヒーロー達の表情が驚きと、そして怒りに変わる。

 地元ヒーローとしてブラス・バレットはそれなりに活躍していたらしい……さっきスマホでローカルニュース見たら案外ちゃんとしたヒーローをやってて、尊敬を集めているようだった。

 それがいきなり地元ヒーローの味方をせずに、中央から来た私を援護し始めたのでそりゃあ面白いわけがないだろう。

 彼らはじりじりと距離を詰めて一気に襲いかかってくる……私とブラス・バレットはお互い顔を見合わせて頷くと目の前にいたヒーローに向かって殴りかかっていく。

「オラあああッ! 一回戦負けなんかしてたまるかああっ!」




「……雷華ちゃん……頑張っているかな……」

 東京の予選大会会場の一つ、国立競技アリーナの解説室でヘラクレスこと、高津 一郎は盛り上がる会場を横目にポケットの中に入れたスマホに手を触れる。

 この会場は世界的なスポーツ大会だけでなく、国内の主要なイベントなどが行われる都内でも最大規模の会場であり、今年のヒーロートーナメント予選大会では、注目選手のみを集めたトーナメントが開催されている。

 本大会では注目選手としてカウント・ファイアフライ所属のスパークや、個人事務所で活動する人気ヒーロー「シルバー・マスク」、三人組のヒーローユニット「ユニオン・グラヴィティ」などが参加している。

「ところでヘラクレスさんはスパークと個人的にお付き合いがあるとか?」


「ファイアフライさんに紹介されましてね、時折相談に乗ったりしてますよ……もちろんヒーローとしてですけど」


「えー? そうなんですか? あれだけ綺麗な女性ヒーローだと気になっちゃう人も多いと思いますが」


「あはは、ヒーローは正義を守るのが仕事ですので」

 高津は苦笑いを浮かべながらアナウンサーの質問に返答するが……実際にスパークは高津に対しての好意を隠そうともしていないし、インタビューなどで憧れのヒーローとして高津を推している。

 だが……高津からすればスパークはとても苦手なタイプの女性であり、かろうじて妹のような存在にしか見えていない。

 それを自覚しているからこそ、どうしても彼女に対して辛く当たってしまうのだが……ため息をついた高津はポケットに忍ばせていた手を戻すと解説に戻るために試合会場へと視線を戻した。


「……おっと今スパークが炎を溜め込んでますね……ちょっと危険な行動ですよこれは」

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