『レディースアンドジェントルメンッ! そしてトーナメントで活躍を望むヒーローの皆さんッ! 只今よりッ! ヒーロートーナメント予選大会第六ブロックの開会を宣言します!』
スタジアム中に鳴り響くアナウンサーの掛け声と共に観客のボルテージが一気に加熱していく……スタジアム中央に設置された特設ステージ上に居並ぶヒーローの数はちょうど五〇名。
……五〇名?! ちょっと多くないか?! と私は改めて指を差しながら一人一人を数えていくが……私を合わせてちょうど五〇名ステージ上には立っている。
二回目を数えてもやはり私を合わせて五〇名いる……めちゃくちゃ多いじゃないか!
そんな慌てて何度も人を数えている私を見たブラス・バレットは何やってんだこいつ、と言わんばかりの視線を向けてくるが……いやいや、こんな大規模な大会になっているとは知らなかったよ!
とりあえず知り合いになったブラス・バレットは隣にいるけど、その他のヒーローは見たことも話したこともない人たちが多く、なんだか居心地の悪さを感じてしまう。
「……例年このブロックは参加者が多いんだよ」
「そうなの? 数名で競うのかと思ってた……」
「そりゃ中央の予選は数絞っているしな……でももっと地方の大会だと芋洗いみたいになったって話だぜ」
「まじか……知らなかったのは私だけ……」
確かに昨年出場した都内の予選大会では一二名でトーナメントを構成してて、その中から上位二人を選出するとかって話だったので、戦う回数もめちゃくちゃ少なく構成されていた。
その代わり一回戦から出場ヒーロー同士のガチンコバトルが楽しめるとかそういう趣向だったな……だからこそスキルを上手く使えなかった私はサクッと負けたんだけど。
それにしても地方大会ってこんなにヒーロー出てるのか、とちょっと中央優遇の運営姿勢にはなんだかな、という気分にさせられるものの、それでも五〇名しか出ていない大会なのだから私にもチャンスが回ってくる可能性が全然あるな。
だが、大会期間ってのはちゃんと決まっているので、この人数を一日で捌くのには少し無理があるな、とは思うしそうなってくるとなんらかの別のベクトルでの勝敗が決まったりするかも。
だが私は都内の事務所所属なので地方大会のノウハウは全然わからない……そこで私は隣に立つブラス・バレットに尋ねることにした、まあその方がいいだろうという判断だ。
「……ねえねえ、前回のトーナメント出てるの?」
「去年か? ああ、出たぜ……まあ俺は去年二回戦負けなんだけど……」
「私よりマシじゃない……それでこの大会で一回戦って何やるの?」
「そりゃ決まってるだろ、最初の競技は……」
『では早速だがこの人数では流石に一対一の戦闘は無理だ! そこで昨年と同じように足切りします〜!』
ブラス・バレットが答えを教えてくれる前にアナウンサーの声が会場に響き渡る……足切り? 足切りなんてあるのか?!
何をするんだろう……おそらくヒーロー同士の戦いではなかなか決着にも時間がかかるし、五〇名もいるヒーローを一人一人選別するのは問題があるだろう。
そんなことを考えていると、会場の巨大スクリーンに軽快な音楽と共に映像が流れ始める……ヒーロートーナメントの広告などでも使われている共通のものだが、それが終わると同時にアナウンサーにカメラが切り替わる。
『各予選大会では運営する会場ごとに一回戦目の競技は異なります、例として……九州地方の大会では火縄銃を使った島津家ゆかりの肝練り競技を採用したこともありましたね』
『そうですね、流石に命がかかってたヒーローは辞退してましたけど……あれはあの一回だけで終わってましたっけ』
『流石に危険ですしねえ……翌年は平和に借り物競走になってましたね』
「……それ死ぬやつやん……そして翌年との差がひどすぎる……」
前にどこかでみたぞ、肝練り……火縄銃の弾丸程度であれば反射神経の良いヒーローなら防御可能だろうけど、肉体の硬化や強化ができない人もいるからな。
ヒーロー全てが身体能力が上がるとはいえ、本質的に戦闘向きじゃないっていう人もいるからな……そんな人はトーナメントで上位に残るのは結構難しかったりもする。
まあそういうヒーローにも別のイベントが用意されてたりするのは救済措置としては正しいところだろう。
だが死人が出ていないということは、なんらかの安全対策がなされているのだと信じたい……そんなことを考えている私の前で、スクリーンには様々な競技の映像が流れている。
巨大なアスレチック施設を使ったタイムアタックや、電車をどれだけ動かせたかを競ったり、単純に持久力を計測するなどの競技もあるようだ。
速度計測するだけの競技って無いかなあ……と私が考えているとスクリーンにポップな音楽と共にカラフルな文字が浮かび上がっていく。
『無制限バトルロイヤル』
……? バトルロイヤル? えーと無制限ってことは能力をフルに生かして相手を叩きのめすってことか?
私がポカンとした顔でスクリーンを見上げていると、隣にいたブラス・バレットが肘で私の腕を軽く突いてきたため、私はなんだよと思って視線を彼に向けた。
そこで……周りの目が自分に集中していることに初めてそこで気がついた……四八名の視線が一斉に集中するという経験はあまりなかったため、私は思わずびくりと身を震わせて硬直するが、これはもしかして皆さん私を最初に叩き落とそうって思っている?
「シルバーライトニング……さっき言ったろ? アンタここじゃ部外者なんだよ」
「……そういうことか……」
私の表情が少し変わったことに周りのヒーローも気がついたのだろう、視線だけでなく表情で『最初に脱落するのはお前だ』とばかりに侮蔑に近い笑みを浮かべているものも何名かいる。
だが……つい先日までの私だったらここで竦み上がって本来の実力もぜんぜん発揮できなかったかもしれないけど、今の私はちょっと違う。
ヘラクレスのトレーニングはめちゃくちゃきつく、何度も止めたいなあとは思ったけどあのトレーニングのおかげで私はグリス・エスペスーラという強力なヴィランを倒すことに成功した。
そこから色々あったもののトレーニング自体はちゃんと続けているし、その効果なのかスキルの使いこなし方も格段に成長しているとエスパーダ所長も認めてくれている。
そういった多くの人に支えられて今の私はここにいるのだ……他に何人のヒーローが向かってこようが負ける気はない。
「……大丈夫、私都内でも割と部外者扱いなの……いつもアウェーだから同じようなものよ」
「……案外ひどい生活なんだなアンタ……」
ブラス・バレットは少し憐れみに近い目で私を見るけど……いやいやそういう目で見て欲しくないが、しかしアウェイであることにそれほど違和感がないのは確かだ。
私はゴキッと首を鳴らして自分を見ているヒーロー全員を睨み返す……ヘラクレスも言ってたけど、こういうのは引き下がったら負けだってずっと言ってた。
岩瀬さんですら『生意気なヒーローがいたら負けずに睨み返しちゃってね』って言ってたし、こういうのは強気に出た方が良いのだろう。
私が睨み返したことで数人のヒーローはそのまま目を逸らすが、それでもなお視線を外そうとしていないヒーローが数人……こいつら実力に自信があるってことだな。
私はそのまま表情を引き締めたまま、黙ってスクリーンへと視線を移す……そこにはバトルロイヤルの文字と、過去に行われていた同競技の説明が流れている。
「……絶対に負けるかよ……シルバーライトニングの実力をとことん思い知らせてやる……!」