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第一九話 港湾施設の戦い 〇四

「……ん……もうッ! なんだこれ……ッ!」


 私の視界を埋め尽くす緑の植物……足元からいきなり出現して私を絡め取ったけど……これはヴィランのスキルに起因するものか。

 油断をしていたわけじゃないけど反応ができなかった……瞬時に植物が成長して伸びたところを見るとアスファルトだろうがなんだろうがお構いなく植物を生やすことができるって能力か。

 それってめちゃくちゃチートくさい能力なんだけど、制限はあるのだろうか? スキル使用に伴って私たちスキル発現者には一定の制限がある。

 クールタイムとか、制限とかって名前で呼んでいるけどスキルを使用した後一定時間……そのスキルが強力であればあるほど再使用には時間がかかる。

 イチローさんの「ヘラクレス」は現代ではかなりチートくさい能力ではあるのだけど、その強力さ故にどーやら再使用にはかなりの時間がかかるのだという。

 そのため彼はほとんどスキルを使用せず、ここぞという場面での活用しかしていないのだ、とトレーニング中に話していた。


「……よいしょっと……」

 全身に力を込めて体を締め付けようとする少しザラザラした感触の植物を押し上げていく……少し太くて力強いけど、強度はそれほどじゃない。

 引き剥がすのに従ってブチブチブチッ! という音を立てて植物は引きちぎれていくが、少し青臭い匂いとベトベトした感触の液体がこぼれ落ちていく。

 もし植物を使って毒ガスを発生させたりする能力だったらどうしようと思っていたが、どうやらそうではないようで植物を発生させて自由に操るとか、感覚を共有して視覚を飛ばしたりとかそういう使い方に特化しているヴィランらしい。

 なので……超加速できる美少女腕力系ヒーローである私、シルバーライトニング的にはこの突然発生する植物にさえ気をつけていれば対応できる相手だと認識した。

「ふんっ!」


「シルバーライトニング……ッ!」


「ヴィランさん、お名前を教えてもらっていいです……かッ!」

 一気にスキルを使って超加速とともに、蔦をぶち破って上空にジャンプする……少し勢いがつきすぎて空中で滞空しているような格好になったがこれで現場の様子がよく見えるようになった。

 ヴィランと思しき男性……少し光沢のない灰色の髪をした年齢的には私より少し上に見えるが、変わっているのは医者とか研究者が来ているような白衣をこの場所でも着用しているところだろうか?

 少し驚いたような表情で私を見ているのがわかる……そのほかの作業服を着ていたマフィアの皆さんはすでに逃げ出した後のようで、少し離れた場所を走っているのが見えた。

 追いかけるのは難しいだろうな……と私はこちらを見て手のひらを向けようとしているヴィランを見て判断する……ちょうど二秒間、クールタイムが終了した私は、一気に空中を蹴るように彼に向かって加速する。

「……空中を蹴るだと……ッ!」


「できますよっ!」

 少し遅れて彼の立っている地面から先ほどまで私がいた場所に向かって凄まじい勢いで蔦状の植物が伸びる……凄まじい勢いで伸びる植物はまるで巨大なハンマーのように何もない空間を振り払った。

 ぶち当たったらタダじゃ済まないな……私は一気にヴィランの懐に入り込むと、右拳に力を込めて思い切り振り抜いた。

 ズドンッ! という鈍い音と感触が拳に伝わるが、少し浅い?! 拳の先……相手の腹部を狙って叩き込んだパンチはぐしゃぐしゃに潰れた植物によって防御されている。

 まずい……大きく背後に飛んで距離を取ろうとした私に地面からうねるように伸びた蔦状の植物が鞭のように撓って叩きつけられる。 

「ぐうううッ!」


「……くそっ、速いなッ! 畜生ッ!!」

 空中へと吹き飛ばされた私だが、自分の中の冷静な部分が宙を舞いながらも相手との戦い方について計算を始める……これもイチローさんとのトレーニングで口酸っぱく言われたことだ。

 必ず相手を観察して弱点を探れ……と、そして観察することで的確なタイミングとチャンスを活かして相手を仕留めれば良いのだと。

 ヴィランは表情を歪めながら叫ぶが……厄介だな、植物の発生にはほんの少しだけタイムラグ、成長させるのに必要な時間があるようだが、手慣れているのか常に植物を足元に生やしていて、隙をできるだけ少なくしている。

 戦い慣れをしているという点でははるかに私の方に分がありそうだ、先ほどの反応速度は確かに早かったけどイチローさん達みたいに実戦慣れをしている人であれば懐に入ることすらできないだろう。

 つまり……このヴィランは能力は凄まじいが戦闘訓練などを受けているわけじゃない、動きは素人のそれなのだから。

「勝てるッ……!」


「クソクソクソクソクソクソクソッ!」

 ヴィランは両手を広げて一気に蔦状の植物を発生させていく……それはまるで巨大な八岐大蛇のように私を威嚇するように蠢き、そして自らの間合いに侵入させることを拒むようにうなりをあげている。

 感情の動きが植物の動作を活性化させているのか……怒りの表情を浮かべるヴィランに呼応するように、生き物のように蠢く植物がうなりをあげて私へと迫る。

 速度はそれほどではないが、当たるとまた大きく跳ね飛ばされそうだ……スキルを使って超加速すると、一気にコンテナの上へと飛び上がり、距離を積めるために跳躍する。

「……はぇえなあッ!」


「くっ……!」

 空中で姿勢を制御して槍のように突き出された植物を体を回転させながらギリギリで避ける……体の真横を掠めた植物がゴオオオオオッ! という轟音と共に通過していくのと同時に、その植物自体を蹴ってもう一段加速して相手の間合いへと入っていく。

 クールタイムの二秒間が永遠に思えるほど長い……だが一度感性をつけて仕舞えば、私は常人よりはるかに走行速度が速いし、そう簡単に植物に捕まることはないだろう。

 そう思って一気に距離を詰めた私の前に、まるで壁のように生い茂った藪状の茶色い植物がなんの前触れもなく生えると垣根のように聳え立つ。

 うおおっ! 目を見開いて思わず地面に足を踏ん張って急停止しようとするが、勢いのついた体はそう簡単に止まらない。

 ブーツの底がすり減る可能性もあるが、なんとか踏みとどまるために地面を滑りながらブレーキをかけていく……垣根のギリギリ前で急停止した私がため息をつく暇もなく、垣根が瞬間的に消滅すると同時に左右から植物が私へと襲いかかってきた。

「……ちょっとおおおッ!」


「死ねええッ! やったか? ……チッ!」

 クールタイムがギリギリで解消された私は超加速……一気に後方へと飛びすさり、その致命的な一撃をなんとか回避した私を見て舌打ちをする白衣のヴィラン。

 接近戦に持ち込ませない腹だな……戦闘経験が少ないとか馬鹿にしてごめんよ、思ったより防御に徹されると基本的に超加速と格闘戦に頼るしかない私にとってはかなりの難敵であると言える。

 一応ここまでの相手の手札を整理するか……あの蔓状の蛇みたいに動く植物、他の植物を出していても消滅もしくは枯れないということは、能力使用中には効果がなくならない。

 ついでに鞭のようにしならせるのと、槍のように迫る攻撃、そして左右同時の攻撃は威力も非常に高い……そして防御に使っていた藪のような茶色い垣根は緑色の植物が攻撃を繰り出す前に消滅した、ということはあれは同時には行使できないんだな。

 スキル使用に関するクールタイムはちょっとわからないが、二つの植物を同時に操っているのがヴィランの能力なんだろう。

 じっと自分を見つめる私に気がついたのか、灰色髪のヴィランはフン、と軽く鼻を鳴らして語りかけてきた。


「名前を教えてやる……俺はグリス・エスペスーラ……ご覧の通り植物を操るスキルを持っている……だがここでお前を倒して逃げ切ってやるぜッ!」


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