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第一一話 ヒーロートーナメント

 ——ヒーロートーナメント、それはサッカー・ワールドカップ、オリンピック、ツール・ド・フランスなどの世界三大スポーツに劣らない人気を持つ大会である。


 スキルと言う未知の力が確認された当初はその力をどう使うのかを巡って議論の的となったが、最終的にヒーロー自体の価値を押し上げるために、興行と言う形を取るのが望ましいという結論に達したそうだ。

 特に戦闘能力の高いヒーローには価値があると考えられたため、ヒーロー同士による戦闘訓練が最初に考案された。

 その後自衛隊の総合火力演習のように、一部の観客のみを招待して開催されていたが……近年このトーナメント大会が興行として収益になると考えたプロモーターの提案により、各国政府による国内大会と国際大会の二つのレギュレーションが考案され、現在では毎年開催されている人気のイベントと化している。

「禁止事項は殺すことだけ……って随分テキトーなルールだわ」


「でもその分迫力ある戦いが見られるって話題だからねえ」

 今私は岩瀬さんとお昼に出ており……私の前には馬鹿でかい野菜マシマシのラーメンが置かれており、岩瀬さんの前には焼き豚大盛りチャーハンがある。

 彼女も元ヒーローであり既に引退を宣言して時間が立っているにも関わらず、現役時代と変わらず普通の女性が食べる量よりもはるかに多くのカロリーを消費している、らしい。

 なので基本私達の昼食はフードファイトでもしているのか、と周りが引くくらいの量を食べているわけだ。

「……それにしたって、いきなりトーナメントに出ろってのも……」


「ああ、一郎君がそう言ったのね……ちなみに雷華ちゃんって前回出てなかった?」


「恥ずかしながら……一回戦負けです……」


「そうだったね」

 ヒーロートーナメントは国内大会と国際大会があり、日本国に在住して住民票のある私は日本で開催されている国内大会への出場権を保有している。

 ヒーローである限り、生涯何度でも参加することができるが条件があって五回連続で一回戦負けとなったヒーローはトーナメントへの出場資格を失ってしまう。

 これは戦闘能力の低いヒーローが毎回負けるのを見ていると、治安維持の面でもあまりイメージが良くないことと、戦闘能力は低くても能力を使って戦いを有利に進める者もいるため一概にトーナメントでの成績がヒーローの価値を決めるとは言い難いからだ。

 例えば……目の前にいる岩瀬さん……ヒーロー「クレアボイヤンス」として活動していた時は、彼女はその名の通り視界を拡張して千里眼のように使ったり、透視能力を使った捜査などを得意としていたヒーローである。

「大丈夫、私も現役時代は一回戦負けの常連で最後は出禁だったしね」


「でも岩瀬さんは能力高かったじゃないですか」

 クレアボイヤンスの現役時代は……それはもうすごかったそうだ。

 視界を拡張してヴィランが事件を起こす予兆を感知して未然に防いだり、逃走しているヴィランを最も簡単に捕捉して捕まえたりと……とにかく戦闘能力はそれほど高くなかったそうだがそれでも優秀なヒーローとしてランキング上位に君臨していたのだ。

 所長である井出さん……エスパーダも個人としての戦闘能力は非常に高く、引退宣言をしていないため今でも現役だ。

 とはいえ年齢のこともあってランキングはそれほど高くない、とはいえ新人ヒーローである私よりも遥か遠くにいるのは間違いないのだけど。

「まあ、貴女のスキルなら十分上位目指せると思うけどねえ……」


「そんな自信ないですよ……」

 目の前にあった大きめのラーメンを食べながら岩瀬さんと話をしているが……前回私がトーナメントに出場した時は、ほぼ自滅に近い形で負けてるんだよね。

 試合が開始されてすぐ、私は全力でスキルを行使した……その瞬間、相手は軌道を読んでいたのか加速する私の足を引っ掛けて、バランスを崩した私はそのまま場外へと放り出されて……思い出すだけで恥ずかしくなる黒歴史である。

 あの時に対戦したヒーローは既に引退している……と言うのもトーナメントでは三回戦まで進出していたが、そこで別のヒーローに負け、そのヒーローも次で別のヒーローに負け……最終的に別のグループで活躍していたヒーローが優勝者となった。

「そういえばあの時優勝したなんだっけ……ああ、スパークって今カウント・ファイアフライ所属なんですよね」


「ええ、今若手でも注目株って言われてメディアにも引っ張りだこよねえ」


「やっぱトーナメントでの活躍って注目されるんですねえ……」

 スパーク……昨年のヒーロートーナメントで優勝した女性ヒーローであり、女の私からでもハッとなるくらいの可愛らしい外見と少し気の強そうな印象に惹かれるファンが多くて、モデルやアイドル活動なんかもやってると紹介されてた。

 この間見たファッション誌にも出てて自分との差を大きく痛感したのは確かだ……彼女の能力は何もないところから炎を発することができる発火能力。

 戦闘能力は非常に高く、私が取り逃したパフアダーもカウント・ファイアフライとの連携により彼女が取り押さえたって言うし、本当に戦闘能力が高いんだなって思った。

「発火能力かあ……」


「スキルとしては結構平凡なのよね……発火能力も人によって千差万別だし」

 ヒーロー登場以前より超能力としてのパイロキネシスは人類の間で存在が囁かれていた能力であり、実際に起きた事件でその関与が疑われているのは間違いない。

 人によって能力の差が激しいため、ヒーローとして大成するには大型のそれも人を一人巻き込むくらいの炎を空間に発生させることができると良いとされている。

 もちろんそのコントロール能力なども重視されていて、発火ができてもダメ、コントロールができないともっとダメ、と言われる扱いが難しいスキルである。

 スキル所持者は非常に多く過去にはヒーロー、ヴィラン双方に同程度の能力者が生まれていたくらいメジャーな能力でもある。

「うちのお爺ちゃんも小さい炎出せたって言ってましたよ」


「履歴書に書いてあったわねえ……」

 岩瀬さんはペロリと大盛りのチャーハンを平らげると、食後のお茶をコップに注いで飲んでいるが今ここで見てもあの細い体のどこに一キログラム近いご飯が入ったのかいまだに不思議な気分になるな。

 話を戻すと、発火能力だけではなかなかヒーローとして活躍するのは難しいので、写真や映像でしか見たことのないヒーロー「スパーク」は相当に努力を重ねているのだろうと勝手に想像している。

 年齢も確か同じくらい……憧れのヒーローはって聞かれて少し恥ずかしそうに「ヘラクレス」って答えてたのはめちゃくちゃ可愛かった。

 ……あれ? スパークの憧れのヒーローはヘラクレスで、今ヘラクレスは私のメンターとして上司になっている……つまりヘラクレスは私の上司であり、上司であるヘラクレスはスパークの憧れである。

「……会ってもいないスパークから恨まれることなんかないですよね……」


「どうだろ……憧れがどの程度かによるんじゃないかな……」

 岩瀬さんがお茶を飲み込むと同時に、私もラーメンを平らげスープを飲み干し終わった……大盛り専門店にいる女子は私たちだけなのでなんだか視線がちょこちょこ突き刺さっている気がするけど、気のせいだろう。

 どちらにせよ会ってもいないスパークと今後任務で顔を合わせる機会なんか大してないだろうし……大丈夫だよね。

 私はコップの水をぐいっと飲み干すと、岩瀬さんと共に椅子を立ち上がって店を出ていく……今日も訓練が続くのだから栄養補給は重要だからね。


「……さて、今日も一日頑張りますねー!」



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