私たちはその雰囲気に熱いものを感じていたが、こういう展開になれば現実的な話もきちんとしなければならない。
「矢島君からの話は正式な返事として受け取ったけれど、現実にはいろいろ取り決めが必要になる。俺たちの今後の予定などもきちんと話しておかなければならないし、この件についてはまた4人で話し合おう。今の話、美津子は知らないわけだし、良い話であれば早くみんなに知らせ、次のステップに移行しなければならない。ただ、今日はこういう話になるとは思っていなかったので、何の準備もない。でも話の性格上、俺が今日家に戻り、そこで美津子に話すというよりも4名揃って話した方が良いと思うけれどどう?」
「はい、実は中村君にも今日俺が店長に確認すると言ってあります。その場合、今、店長がおっしゃったようなこともあり得るだろうと今晩の予定も空けてもらってあります。もしよろしければ今晩ではどうでしょう」
矢島は今後の流れも念頭に置いて中村と話していたようだ。事前に打ち合わせを済ませているというところなど、調整力もあるようでなかなか頼もしいと思った。
「もちろん俺はOKだ。ただ、美津子にそのことを知らせないといけないし、話の時間も読めない。一番大きなところがクリアしているので時間はかからないだろうが、念のため今晩は少し早めに店を閉めよう。先日時短の要請の話が出たばかりなので、早仕舞いしてもお客様からは何かの対策だろうと思っていただけると思う。でも、そのお知らせはすぐに作って、店頭に張り出さなければいけない。まだ朝の準備の最中なので2号店に電話して、すぐに対応してもらおう。君が提案を了承したくれたことを簡単に話し、その上で今晩こちらに集まることにしよう。・・・それでいいですね、新社長?」
私は笑みを浮かべながら矢島に言った。とても照れ臭そうな様子だったが、その表情はまんざらでもないような感じだった。
「店長、何を言っているんですか。そういうことを言われると恥ずかしいですよ。いつも通り、名前で呼んでください。俺にとっての社長は店長しかいないんですから・・・」
矢島は照れながら言った。その様子はとても微笑ましく、また気持ちが表れたものとして私の目に映った。
そういうところを見た後、私は2号店に電話した。電話に出たのは美津子だった。
「もしもし、今日、8時に閉店して1号店に中村君と来てもらえないか。先日の返事を今、矢島君から聞いた。OKだったので、今後のことを話し合いたいんだ。中村君も矢島君と話し合っているそうで、今晩の予定は大丈夫らしい」
私からの電話に美津子も驚き、そして喜んだ。もちろん今晩の予定については二つ返事だった。近くに中村もいるようで受話器の口を塞ぎ、確認している。その後、続きは1号店でということになった。