夜、私と美津子はいつも通りの時間に帰宅した。簡単に夕食を済ませた後、ビールを持ってリビングに移動した。食事中は世間話程度の会話だったが、リビングに移動するといつものように互いの店の様子を話し合った。そこでは、私たちの今後についてのことをみんなに伝えるためということは話さず、私と美津子、そして矢島と中村の4人でミーティングの場を設けるということまで告げたことを確認した。2号店の予定と合わせ、最も都合が良さそうなのが来週の月曜日になったので、事前にこの日の夜の部の休業を店内で告知するようにし、午後6時に1号店に集合することにした。いつも通り、夕食については店内でということにし、1号店ではその準備をしておく、ということになった。
「ところで、休みの間の矢島君、あなたと直接話してどうだった? 私も電話で様子を聞いたり時々顔も出したけれど、しっかりやっているようだった」
美津子が矢島の様子を話した。店で聞いた話からも矢島の頑張りは私も理解していたのでそのことを美津子にも話した。
「それならあなたが1号店から抜けても大丈夫そうね。中村君の場合、まだそういうことが無いので分からないところもあるけれど、矢島君とは良い意味のライバル心があるようだから、何とかなるのではと思っている。一応後継者候補がいるという前提で話すことになりそうだけど、今度の話は新メニューの話のような次元じゃないから、おそらくみんなびっくりするでしょうね」
ちょっと前までは私たちの転職については慎重だったが、今では私よりも積極的になっている美津子の言葉だった。それはそれで有難いのだが、私の中ではみんなの気持ちが気になる。ここに至っても私の気持ちのふらつきがあるが、決めた以上はやり抜く意識でなければ成功することだって失敗する。美津子と話している中で、私は改めて自分の心に言い聞かせた。
「それでミーティングで話すことだけど、基本的な方針としては店の経営については矢島君たちに譲り、俺たちは例えば会長・副会長といった立場になり、経営からは退く。しかし、みんなの相談には乗り、会社の発展に寄与するというスタンスで、一定の報酬ももらう、ということで良いね」
「そうね、以前話した通りよね。それからこれも話したと思うけれど、私たちが開業したら、お店の福利厚生の一環として、矢島君や中村君たちの健康管理として施術を受けてもらう、というのもあったわね。そういう時はもちろん無料だったよね」
私が忘れていたことを美津子が思い出してくれた。自分の経験から身体のメンテナンスは必要と考えていたので、こういうことについては外からきちんと応援しようと思っていたのだ。
実際に話すと他にいろいろ出てくることも予想されるが、その時は誠意をもって対応したいと考えている。
ただ、矢島たちとしては、今後も一緒に仕事できると思っているだろうから、そういうメンタル面の対応のほうが難しいかもしれない。
もっとも、みんな大人なので、きちんと説明すれば理解してくれるものと信じ、当日を迎えようということで話は落ち着いた。