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学校見学 11

 私は美津子の話を聞いて確認した。

「じゃあ、今日の話を聞いて俺が転職することを本気で考えて良い、ということだね?」

「そうね。でももう一つ話しておくと、私も勉強することにした。伊達先生がおっしゃっていたけれど、開業は一人からできるけれど、信頼できる人がもう一人いれば広い意味での穴埋めができるし、お互いのケアが可能になるという話、覚えている? あなた一人でやっている時、先日のようにギックリ腰にでもなったら大変じゃない。その時は奥田先生のところで何とかしてもらうこともできるでしょうが、私も勉強して2人でやれば効率良いんじゃないかと思った。最初にこういうことを話した時も選択肢の一つとして頭に浮かんでいなかったわけじゃないし、何と言っても居酒屋は2人でやってきたので、今度の仕事もそうできれば良いかなって思った」

 この話は私にとって意外だった。確かに私も最初に話した時にそういうことも考えないわけではなかったし、そういうつもりで話したこともあったかもしれない。でも、それを本気で言われれば、私としては驚くし、それ以上に嬉しかった。もし実現すれば2人で居酒屋スタッフとして働き、その上で第二の人生として居酒屋の開業した流れに続くことになるので、今回の転職は何と第三の人生になる。それに付き合ってくれるということは私にとっては美津子に感謝しかない。

「ただ、俺たちが居酒屋をスタートした時には思ってもいないことがあったり、経営的にも苦しい時があった。今はスタッフにも恵まれ、経営もコロナが無ければ順調だった。コロナの件はウチだけの問題ではないけれど、こういう時でもみんなで頑張っていることで乗り切ろうとしている。商売には波があることは知っているし、整体院を考えるにあたって今回いろいろ話を聞いたけれど、俺たちの場合、どういう展開になるかはやってみなければ分からない。もちろん、やる以上はやって良かったという結果を残せるよう頑張るけれど、現実は分からない。それでも良いか?」

「やる前からそんなことを言っていたら、うまく行くこともダメになるわ。私はやる以上は失敗することを頭の片隅に置いていてもメインは成功した時のことをイメージする。今やっている居酒屋も同じ気持ちでやっているし、今度チャレンジすることについても同じように考えたい。だから、あなたが本気でやりたいなら、私も一緒に頑張るわ」

 力強い美津子の言葉に私は心底嬉しく思った。本当ならこういう言葉は私のセリフなのだろうが、そういう迷いを払拭してくれるような美津子の言葉は私にとっては大変ありがたい。

「ありがとう。値千金の言葉だ。おそらく実際にスタートすれば居酒屋の時と同じように苦労をさせると思うけれど、2人で切り抜けよう。ただ、俺たちの間では意見が一致したけれど、矢島君や中村君にきちんと話さなくてはならない。店の様子を見て、近々話そう。定休日にすれば彼らの貴重な休日を奪うことになるので、何か理由を付けて夜の部を臨時休業にし、そこで腹を割って話す、ということではどうかな?」

 私たちの心は決まったが、もう一つのヤマを越えなければならない。その前に十分私たちで打ち合わせをし、みんなに最も負担を掛けないような感じにできるようにしようということでこの日の話は終わった。


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