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学校見学 8

 私たちは説明会用の部屋を出て、受付のところまでやってきた。その時、誰からともなくちょっとお茶でもしませんか、という話が出てきた。時節柄、あまり長時間にならないようにということを暗黙の内に確認しつつ、近くの喫茶店に入った。

 目的は説明会の後、それぞれがどう思ったかを確認するためだった。

 テーブルにつき、それぞれオーダーすることになったが、結果的にみんなコーヒーになった。

 まずは自己紹介になったが、年齢的には大体同じで、一人は桜井、もう一人は工藤と名乗った。桜井は勤めていた会社がコロナで業績不振になり、現在は会社に在籍しているものの自分で何かやることの必要性を感じて、ということからの参加だったという。工藤は先日会社を辞め、次の仕事の選択肢の一つとして癒しを考えているという。私と美津子は夫婦であることを話し、今回参加するに至った経緯を簡単に説明した。改めてそれぞれの事情があることを理解したが、話は今日の説明会のことと、説明会に参加した上での今後の動向だった。

「桜井さんと工藤さんは他の学校の説明会にも参加されたと伺いましたが、今日の説明会と比べてどうでした?」

 私が2人に訊ねたが、答えたのは工藤だった。

「私は他に3校参加しましたが、いずれも事務的な話で、今日みたいに深い話はありませんでした。その代わりに授業見学があったところもありましたが、今日、伊達先生の話を伺って確かにその通りだと思いました。もし自分が授業を受けている時、知らない人が入ってきたら落ち着かないでしょうし、何か新入生獲得のためのことをやらされているような感じですね」

 その言葉に対して、桜井が言った。

「それも分かるけれど、生の授業の様子を見ることは必要なような気がする。何か商品を購入しようとするとは、実際に使ってみたりすることがあるし、食品であれば試食することもある。それで気に入れば買う、ということになるので、ちょっと見学するくらいなら良いかな、って思うところがあります」

 桜井の話も理解できる。だが、工藤がその話に対してまた自分の考え方について話した。

「その話も理解できますし、僕も何か買う時にはおっしゃったような感じで確認することがあります。でも、それはその商品自体がよく分からない場合で、伊達先生の『整体術』の場合、関連書籍やDVDがたくさん出ています。僕が今回参加したのはそういった本を読んでいたからで、中途半端に授業に参加して分かったような感じになるより技術や考え方の全体像が分かるので、この学校に限って言えば見なくても良かったと思っています。それよりも先生が受講生のことを考えてくれていることの方が驚きました。学校だって仕事でしょうし、ならば一人でも入学者を増やそうというのは経営者としては考えることですよね。それがあえてマイナスになるほうを選び、教授される技術については公開されている技法を参照してください、というのは潔いじゃないですか。僕は今回、伊達先生の考え方が直接聞けたことが大きな収穫でした」

 工藤は嬉しそうな表情で話した。


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