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学校見学 4

 定刻の午後4時になった。伊達が教室の中に入ってきたが、奥田の話から想像していた雰囲気とは少し異なる。本やHPには写真があったので顔は知っていたが、実際に会うと印象が違う。だが、そういうケースはよくある。私の伊達の印象も同様で、武道もやっているということだったので、もう少し強面の印象があると思っていたが、大変柔和な感じだ。もっとも、今はコロナの関係でマスク姿であり、本当の表情は分からない。でも目から分かることは多いので、そこから口元も柔らかいのだろうということは容易に想像できた。先日の電話対応でも感じたが、こだわりの部分には強いものがありつつも、全体的には柔らかく、やはり癒しの世界の先生なのだということがよく分かった。美津子に目配せすると、やはり同じような印象らしく、小さく頷いていた。

 私たちは事前に他の参加者の人たちから説明会というのはこういう感じ、ということを訊いていたため、最初は同じようにカリキュラムなどのことだと思っていた。

 でも、その予想が簡単に覆された。

「初めまして、伊達です。これから講座の説明会を始めますが、これまで他校の説明会に参加された方はいらっしゃいますか?」

 最初に出てきた言葉は説明会参加の経験の有無だった。私たち以外の2人は手を挙げた。

「今日ご参加の方の場合、お2人が説明会経験者ですね。では、その様子をお話しいただけますか?」

 伊達からこのような質問が出るのは意外だった。もちろん、同じ業界なのでどのようなことが行なわれているかについては理解しているだろうし、毎回の説明会でも同様に尋ねているだろうからそこからの情報もあるだろう。だから、ここでは他校の様子をリサーチするという意図が無いことはすぐに分かる。おそらく、具体的な説明に入る前フリのようなことなのだろう。

 手を挙げた2人は、先ほど私たちに話してくれた内容を口々に話した。

「分かりました。ありがとうございました。挙手されなかったお2人は今回が初めてということですね。ではもう一つ、私から質問させていただきます。皆さんは『整体』と『整体術』という言葉についてどうお考えになりますか? ここでの説明会はここからスタートさせていただきますが、言葉だけが独り歩きし、基本的なところが曖昧なままであれば、皆さんが現場に立ってクライアントの方に施術しようとする時、何を念頭に行なわれるかとても心配になります。自分がやっていることに対してきちんとした認識を持っているかどうか、ということですが、そんな曖昧なままで手を動かし、施術したような気になることが心配なのです。単なる健康法的な学びであれば多少曖昧でも構わないかもしれませんが、ここで学ぶことは他人の心身の好転を意識するわけですから、自分の行為についてきちんと認識しておく必要があるのです。だからこそ、ここでの説明会というのは一種の授業であり、まずは基本的なところの認識を固めておいて、その上で講座の内容についてお話ししていこうと思っています」

 私たち以外の2人は顔を見合わせていた。そして小声で「今まで行ったところと全然違う」とか「難しそうだな」といったことを言っている。私たちは奥田の施術を受けているので、クライアントの立場として伊達が言っている意味がよく分かった。


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