次の週の土曜日、私たちは予定通りそれぞれの店をチーフに任せ、伊達が主宰する学校の説明会に向かっていた。その道すがら、急いで読んだ伊達の本の話をしていた。
今回2冊購入したが、1冊は在庫切れだったので、それはネットで注文していた。店頭で買えたのは整体術というよりも伊達が目指す整体術についての考えを示す本で、ネットで注文したのは具体的な技術を紹介したものだった。技術のベースになる考え方を表わす本と、その具体的な結果となる技術解説書の2冊に目を通しておけば、おそらく今日の説明会の話も頭に入るだろうと思っていた。
「美津子、本を読んでどうだった? 俺は整体術に対する考え方にはついては理解できたけれど、技術解説書については難しくて分からなかった。単純なハウツーだけならともかく、奥田先生も言っていた表に見えるだけではないところまで考えると、行間を読まなくてはならない、ということなんだろう。そう思うと、なかなか進まなかった。俺は最初に読んだのが技術解説書じゃなかったので、一通り読めたが、2冊目は読破できなかった。美津子の場合はその逆だったので余計に難しかったんじゃないか?」
「そうね、あなたの言う通りよ。でも、今日に備えて少しでもたくさん読んでおかなければということで頑張ったわ。結果的にはあなたと同じように全部読めてはいないけれど、興味のあるところは読んだつもりよ。何かのベースがあればもう少し分かったかもしれないけれど、勉強するとなるときちんと習得できるか心配になるわ。今日はそういうところを質問してみようかしら。質問に答えられるように参加人数を絞ってあるということだけど、特に関心のあるところはきちんと聞いておきたいわね」
美津子の話を聞いていると、今日の説明会に対する意識はきちんと持っている感じだ。もちろん、私もそのつもりだが、それぞれの考え方で違った視点もあるだろうし、私の足りないところを補ってくれそうな気がしている。やはり今日は2人で出席するということで正解だったように思えた。
伊達の学校は駅から少し離れている。いわゆる駅前ではない。徒歩でもギリギリ歩けるが、駅前からバスに乗るとバス停のすぐ前、というところにある。その分、駅前特有のザワザワした感じが無く、学校の周囲は落ち着いた感じになっている。こじんまりとした戸建てで、1階が付属整体院、2階が教室になっている。
私たちは1階で受付を済ませ、2階に通された。すでに2名の参加者が席に座っており、私たちは部屋に入るなり挨拶をした。教室は思ったよりも狭く、これでは授業も1クラスあたりの定員も少ないであろうことは容易に想像できた。その印象は美津子も同じだったようで、周囲をキョロキョロ見回していた。しかし私はあまりこういうことは気にならず、教えてもらう内容のほうに期待が膨らむが、そこが視点の違いなのだろう。
予定時間よりも少し早かったので、他の出席者と少々話すことができた。その人たちはいずれも複数の学校を見学したという。いろいろ比較して考えたいということだが、これまでの説明会の様子を話してくれた。
2人の話は似たり寄ったりで、説明会は形式な感じで、説明は事務系のスタッフが担当したとのことだった。カリキュラムのことや設備、卒後の進路などがメインで、中には実際の授業の見学をさせてくれたところもあったという。
ただ、肝心の技術のことやそのこだわりなどについての説明はほとんどなく、ある学校では割引特典のような話に終始していた、ということも聞いた。私たちはここが初めてと話したが、他校見学の経験者の話としては比較したほうが良い、ということだった。
だが、今聞いたことから大体想像できたので、私はあまりそういう気が起きなかった。これからここでの説明会が始まるが、伊達が直接話すということは分かっていたので、私の心の中はワクワクしていた。