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スタッフへの思い 4

「そんなことを言われるとは思わなかったわ。でも、嬉しかった。今やっている居酒屋も2人でやってきたけど、あなただけ違う仕事になるとちょっと寂しい感じがしていた。なんだか取り残されるような感じがして・・・。でも、その言葉を聞いて、今まで私の中のモヤモヤが少し晴れたみたい。矢島君たちの話をして私があなたの提案について渋っているような感じだったけれど、私もスタート時の不確かさは知っているつもりだし、本当にその仕事が好きならば何かあってもやり抜こうとするでしょう。お店の方のいろいろなアイデア作りや実行する時の様子を見ていたら昔の私たちのような雰囲気だったし、だからこそこれからもきちんとやっていけると思った。でも、少しは心配なところもあり、せっかく2人で作ってきた店だからつぶしたくはない。だからさっきあなたが言ったように、肩書は何でもいいけど、お店に関係するようなところで残り、みんなのサポートをしたいというところには賛成だわ」

 私は美津子の賛意をきちんと聞けてやっとホッとした。こういうことは周囲の納得・理解・フォローが無ければうまく行かない。一番身近なのが家族の協力であり、これまで一緒にやってきた美津子の賛意は何よりの援護射撃だ。

「もう一つ話しておくけれど、これは本音の一つと理解してほしい。会社の役員として残るというのはその報酬を意識してのこともある。新しく仕事を始めるとなると、収入の点が不安になる。もちろん、給料については半額くらいで良い、と思っている。2人分が1人分になるといった感じになるが、全くの無収入になるわけじゃない。俺たちにも実際の生活があるし、その点はきちんと確保していなければ家長としての立場が無い。現実的なことだけど、良い顔だけをしているわけにはいかないからな。この前話した弁当のデリバリーなど、うまく軌道に乗れば売り上げにもプラスになるだろうし、そういった彼らが頑張った分についてはみんなで分配すれば良いと思っている。あくまでも役員報酬的な部分はこれまで俺たちが作ってきた店の分からのこととして考えたいんだ。まだみんなには何も話していないけれど、基本的な考えとしてはこんなところかな。今晩、ここまで話せるとは思っていなかったけれど、今考えていることを伝えられて良かった。何か付け加えることがあるかな? あれば聞かせてほしい」

 思いの丈を話せたからか、私の気持ちはずいぶん軽くなった。再びビールを持ち、今度は空にするくらいの勢いで飲んだ。話に夢中になり、用意していたおつまみには手を付けていなかったので、飲みながらそれも口にした。大きな仕事を終えたような気持になっていた私は、いつもよりもおいしく感じていた。

「あなたの考えはよく分かったわ。でも、それは私までのこと。矢島君たちに何も話していないんだし、受け止め方も違うと思う。言い方を間違えると今、飲食業は大変だからということで敵前逃亡したようにも受け止められかねない。・・・ちょっと言い方は悪かったかもしれないけれど話す時は十分注意しないといけないわね。でも、その前にもう一つやっておくことがあるわ」

「何?」

「奥田先生から伺った先生の話よ。そこで勉強するかどうかということも考えなければいけないし、実際に足を運んでみる必要があるわね。奥田先生の話は分かったけれど、実際に話を聞くと違うところもあるかもしれない。みんなに話す前、こういうところはきちんとしておかなければならいないと思うわ。私たちのこれからがかかっているわけだから、この点はちゃんとやりましょう」

 確かにその通りだ。ただ、そうは言ってもどうやって時間を作るかは問題だった。


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