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開店1周年前日 10

「開業したのはどういうところでした?」

 東京とは異なる環境では、どういうところが場所探しのポイントになるのか、大変興味があったのだ。私の場合、個別に開業指導を受け、東京の場合はという設定でアドバイスを受けたが、地方だと他の要素も必要になるはずだ。

「北海道は車社会だからね。東京みたいに駅のそばといった立地よりも、車で移動する時の利便性を考えるんですよ。だから車で来店されることを想定しました。そうしたら条件にぴったりの物件があったんですよ。以前塾をやっていたところで、四つ角にありました。斜め前がスーパーという位置関係になります。店舗には2台分の駐車場がありますし、そのスーパーにはあちこちから買い物される方が来店されるので、看板効果は抜群でした」

 村上から店舗の様子を聞いて、私はその光景を頭に浮かべた。そういう位置関係がどのような効果を生むのかは、そこに住んでいるわけではないので本当には分からないが、看板が目立つであろうことは容易に想像できる。

「じゃあ、看板だけで結構お越しになる方も多かったのでは?」

 わたしはちょっと興奮しながら訪ねた。もちろん、そういう地域での仕事の様子にも興味があったのは事実だ。

「いやいや、そんな甘くはありませんよ。やはりきちんと広告をやりました。最初、地元の友人知人にきちんと告知し、そこから広げていこうかとも思いましたが、それは止めました」

 意外な言葉だった。せっかく昔からの知り合いがいるのだから、そういった人脈を活用したほうが効果的なのでは、と思っていたからだ。開業指導の場合でも、口コミの大切さと効果については聞いていたので、なんでそういったことを活用しないのか、ということを疑問に思った。

「そうですか。でも、開業指導の時、口コミのこと、聞きましたよね」

 私は授業で聞いていたことをあえてしなかった理由を聞きたかった。

「ええ、聞きました。でも、私はその後、先生にそのことについて個別に質問したんです。僕も雨宮さんが疑問に思っていらっしゃるように、口コミを活用したいと思っていましたので、もう少し実戦的な意味で聞きたかったんです」

 私は口コミの話の続きがあったことを初めて知った。

「そこでの話は口コミには2つのベクトルがあって、良いほうに広がっていけば広告効果は絶大です、そしてそれは東京よりも地方のほうが効果的です、ということでした。そしてその逆の場合、悪評となって広がることになり、そうなるといくら広告をしてもなかなか数字につながりにくい、ということを聞いたんです」

 私にとっては初めて聞く内容だった。村上の場合、卒業後すぐに開業することを考えていたが、私はまず業界を体験してということを考えていたので、突っ込んだ質問をしなかったのだ。

「だから、私は友人知人のルートは全く使わず、通常の広告で告知しました。まずはオーソドックスなチラシです。基本的な作り方は講座で聞いていたので、それを参考に作りました。撒いた枚数は1万枚です。こういうことでどれくらいの反応があるかは分かりませんでしたが、それでも数名の方がお越しになりました。それが多いか少ないかは、その当時の私には分かりませんでした。地域性もありますからね、どれくらいの数字になれば効果があったかの判断は難しかったですね。もちろん、チラシの内容も関係しますから、単純に枚数だけでは判断できない、というのはその後に分かりました」

 村上の話は続いたが、この辺りになると、私にも似たような経験があるのでよく理解できた。

「その後、学校のほうに集客のことで何度かご相談しました。その際、作ったチラシについてアドバイスしていただいたり、他の広告方法についても実戦的な立場から助言をいただきました。中でも効果的だったのは、先生のことを載せた時でした。これは新聞の地域版に先生の本のことなどを載せたんですが、それが信用につながったようです。先生は本を出されていたりテレビにも出演されていますね。そういうことが分かるような内容にしたんです。最初はそういうことを載せませんでしたが、載せたら数字がアップしました。ただ、クライアントの方はお越しになっても、自分が下手だったら2度目はないですよね。だから、結果が出るように教わったことを忠実に再現し、一生懸命やりました。そういうところを評価していただいたのか、リピーター、ご紹介の方が少しずつ増えてきて今に至るという状況です」

 村上の話を聞き、やっぱり基本は上手くなければと、ということが改めて理解できた気がした。もちろん、その前提としてきちんと来院されるクライアントの方を確保することが必要になるが、その時にブランド力が関係するのかということ話が新鮮だった。開業指導の時に聞いたことは記憶にあるが、こうやって実例を耳にすることでますます自分の将来は明るいものと感じていた。


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