「川合さんの話をしたのは数日前、電話をもらったからなんだ」
私は突然川合の話をした理由を話した。
川合も現在、開業しているが、私からすれば開業についてはちょっと先輩になる。店は私のところからは電車で1時間少々のところだが、お互いに仕事の関係でなかなか会えない。
だが、勉強中はいろいろと交流し、互いに情報交換をしていた。前職は異なるものの、やはり私と同じような理由から癒しの道を選んでいた。考え方が似ていたので、話が合うことが多く、刺激を受けていた。
当然、開業した時には川合にも知らせ、お祝いの花もいただいた。私も川合が開店した時には同じように送っていたので、互いに開業日を知っており、先日の電話は1周年おめでとう、という意味だったのだ。開業の苦労は同じようなことをやった者にしか分からない。
私は前職が飲食店だったのでお店をオープンするということには多少理解しているつもりだったが、業種が違えばその内容は異なる。癒しの店にはこの業種特有の苦労はあるものだ。
川合が開業する時には、自営の先輩として話をさせてもらったが、私がオープンする時には逆にこの業界のオープン時のことについてアドバイスをもらっていた。
それだけにお互いに気になっていた存在になっていたが、それが私の店の1周年ということで電話をもらい、昔話から近況まで話をした。
先日、美津子は私から川合から電話があったということは聞いていたが、詳しくは話していなかった。だからこそ今日、川合からの話ということに美津子は興味を持った。
「ねえ、川合さん、今どうなの?」
川合のことを聞いた美津子の眼はキラキラ光っている。興味津々ということが眼にも現われていたのだ。
「うん、川合さんも順調らしい。でも、ウチと違って1人でやっているだろう。だからどうしても予約を取り逃してしまうこともあるらしい。だから、そのうち求人を考えたいと、ということだったよ」
私は川合の近況を自分のことのように楽しそうに話した。
「そう、それは良かったわね」
美津子も喜んでいる様子だった。口元が緩み、良い笑顔になっていた。
「でも、ウチの場合は2人でスタートしたから、途中でスタッフを増やすということは考えなくて済んだし、同じ技術を学んだから施術内容のばらつきも出さずに済んでいるから、クライアントの方からのクレームも出ない。やっぱり同じ学校で勉強して良かったと思っているよ」
私は美津子のほうを向いて自信を持った口調で話した。
「そうね、私が受ける立場としたら、人によってやっている技術が違っていたら変な感じがするもの。そうなるとお店のコンセプトが守れないじゃない。それじゃ定着しないわよ」
美津子は自分の考えをしっかり話した。
「俺も同感だ。飲食の世界もそうだけど、料理する人によって味が違っていたら店の信用がなくなる。こういうところに以前店をやっていた時のことが役立ったわけだが、こうやって振り返ってみると、やっぱりあの時考えていたことは正解だったと、改めて思うよ」
私も美津子の考え方と同じだった。
「それから、こういうことも言っていたよ。最近は紹介が増えたってことだったよ。結果を出したクライアントの方がお友達を連れてきてくれるって言っていた」
川合の現況について聞いていると、開業当初とは様子が違ってきているということが分かったのだ。
私の店もそういうケースがあるが、比較すると川合の店の紹介者に数字的には及ばない。私の店よりは3割以上多いのだ。
だがウチの場合、それでも予約を逃がすことがある。対応のまずさが原因なのだろうが、川合の場合、一人でやっていることで予約受付ができないことがあるという。そして、それがスタッフ増員を考えている理由らしい。美津子にもそういう話をしたが、すぐに返しがあった。
「でもあなた、ウチの場合もそういうケースが増えているけれど、最初から2人でやっているから、クライアントの方が増えてもまだそれなりにと対応できているわね」
川合の状況と比べ、自分の店の場合のメリットを強調していた。
美津子は自分の話に興奮したのか、お茶を一気に飲み干した。
「もう1回、お茶を入れてくるわ。あなたは?」
キッチンに行こうとする美津子が私にも確認した。
私も一気に飲み、お願いした。