「やっと1年、もう1年、という感じだね」
私は目線をテーブルに落としながら、感慨深げに言った。
「そうね。新しい仕事をしたいとあなたが言った時、結構心配だったのよ。今までのような飲食業だったら、たとえジャンルは違ってもこれまでの経験で少しは安心できたのに、全く違う仕事ですからね。でも、私もその選択が正解だったと今は思っている」
美津子は私とは対照的で、しっかり目を見て話していた。
その視線を感じた私は、目を合わせて答えた。
「そう思ってくれるか。ありがとう」
その手には新しく入れたお茶を持っていたので熱かったが、その言葉を言い終わるまでは何とか両手で持っていた。
だが、すぐにお茶の熱さを感じたため、慌ててテーブルに戻した。
「熱かった・・・」
思わず私の口から出た言葉だ。
「大丈夫? 飲食業もそうだけど、手に職系の仕事だから手には気を付けないと・・・」
美津子は私の手を心配し、すぐに掌や指の様子を確認した。
「そうだね、気を付けるよ」
テーブルに置いたお茶を見てみると、すでに水面は鏡のように穏やかになっていた。
「ところで、同じ学校で勉強していた川合さん、覚えている?」
私は美津子に尋ねた。
整体術の技術を学ぶためにある学校に通っていたが、その時、一緒に勉強していたのが川合という人だったのだ。
「覚えているわ。私も時々同じクラスでご一緒したことがあるから」
そう、実は私と美津子は一緒に整体院をやろうとして、同じ学校に通っていたのだ。同じことを学ぶことで復習の効率は上がるし、同じような癒し家として仕事できれば、いろいろな点でプラスになる。この部分は飲食店を経営している時からの考えと同じで、その経験から同じところで勉強した。
ただ、飲食店時代はまだ子供も小さく、夫婦で働くといっても限界がある。
でも今、私は45歳で、子供も手がかからない年齢になっている。昔とは条件が違うのだ。だからこそ同じ癒しの店をやることができるわけだが、結果的にそれが良い形になっている。
川合の話にしても、そういうところでの共通部分があるため、こういう時の話のノリは良い。勉強している時代の思い出話もできるし、その後のことにも話が広がる。
実際、話の展開はそのようになっていった。