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[完全版]テンショク! ーコロナで苦悩し、癒し家になった飲食店経営者の物語ー
藤堂慎人
文芸・その他純文学
2024年09月11日
公開日
15,517文字
連載中
世界中が困惑したコロナ問題。主人公、雨宮雅夫が経営する飲食店も例外ではなかった。雅夫は家族・従業員を守るため、いろいろな知恵を集積し、経営の維持に努めた。それに伴い心身のストレスを感じたが、体調維持のために癒しを活用する。何とか経営を続けるめどが付いた時、雅夫は体調を崩す。コロナ感染かと心配した。症状が治まった後、今度はギックリ腰になる。続けての体調不良を経験したことで健康の重要性を考え始めた雅夫。そこからこれまで天職と思っていたことに疑問が生じ、健康の大切さとそれに関する仕事に関心が高まった。だが、抱えているものが大きい。雅夫の次なる苦悩が始まった。その時の心情を現実のコロナ問題に時系列に沿って克明に綴っていく。
どう従業員・家族に理解してもらうか、人生の一大決心までのプロセスまでを全27万字の長編で記される。
物語はコロナ問題が落ち着き、新しい仕事が順調に推移していることろから始まり、転職まで経緯を詳細に表現。

開店1周年前日 1 

 202X年のある日、私、雨宮雅夫は自宅でゆっくりしていた。

 私は現在、整体院「希望サロン」を営んでいるが、明日で1周年を迎える。今日はその前日ということで休店とし、これまでのことをゆっくり思い出していた。

 開業前、これまで経験したことがない出来事があり、それまでの価値観や社会の様子が一変した。

 新型コロナウイルス騒動が世界的に起こり、パンデミックを引き起こしたのだ。

 感染拡大のために外出自粛が全国に要請され、当然それは仕事にも影響し、私がやっていた飲食店はそのことが経営を直撃した。

 その詳細は今は語るまい。

 だが、家族や子供がいる立場上、何とかしなければならない。そういう思いから行きついたのが癒しという仕事だが、結果的に今は天職だと思っている。

 毎日が充実し、前職とは違ったやりがいを感じている。

 今、そういう思いでスタートした今の仕事を静かに回想し、これからの頑張りの礎にしたいと思っている私がそこにいた。


 いつもより遅い朝食を済ませ、リビングでお茶を飲みながら何気に新聞を読んでいると、妻の美津子が声をかけてきた。

「お茶、いかがですか?」

 変わらぬ笑顔だ。私は転職を考えた時から何度もその笑顔に救われた。今朝も変わらぬその様子に、私も思わず笑顔になった。

「あら、いい笑顔。 何か良いことでも書いてありました?」

「いや、記事には何も・・・。でも、この1年のことを思い出していたんだ」

 新聞をたたみながら答えた。

「そう、いろいろあったものね。でも1年になるわね。新しい仕事を始めて・・・」

 美津子も私の話に相槌を打つように言った。そのすぐ後、私は美津子の問いに答えた。

「あっ、お茶だったね。新しいのをお願いするよ。良かったらお前もお茶を持ってきて、ちょっと話さないか」

 私は人指し指を立て、お茶を1杯というサインを出しつつ、美津子を誘った。

「分かったわ。ちょっと待って」

 そう言って美津子は台所に戻った。

 美津子は1~2分くらいで戻ってきて、私と自分の分のお茶をテーブルに置き、隣に座った。

 ソファは3人掛けで、端のほうは空いている。

「おいおい、これはウイルス騒動の時に問題になった3密状態じゃないか」

 私は冗談交じりに言った。

「そうね。でもいいじゃない。もうコロナ騒動は落ち着いているし、思い出話はこういう感じがいいと思うわ」

 ちょっといたずらっぽい表情で私を見つめながら言った。

「それもそうだね。今さらコロナウイルスもないからね」

 私も美津子の言葉に答えた。


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