202X年のある日、私、雨宮雅夫は自宅でゆっくりしていた。
私は現在、整体院「希望サロン」を営んでいるが、明日で1周年を迎える。今日はその前日ということで休店とし、これまでのことをゆっくり思い出していた。
開業前、これまで経験したことがない出来事があり、それまでの価値観や社会の様子が一変した。
新型コロナウイルス騒動が世界的に起こり、パンデミックを引き起こしたのだ。
感染拡大のために外出自粛が全国に要請され、当然それは仕事にも影響し、私がやっていた飲食店はそのことが経営を直撃した。
その詳細は今は語るまい。
だが、家族や子供がいる立場上、何とかしなければならない。そういう思いから行きついたのが癒しという仕事だが、結果的に今は天職だと思っている。
毎日が充実し、前職とは違ったやりがいを感じている。
今、そういう思いでスタートした今の仕事を静かに回想し、これからの頑張りの礎にしたいと思っている私がそこにいた。
いつもより遅い朝食を済ませ、リビングでお茶を飲みながら何気に新聞を読んでいると、妻の美津子が声をかけてきた。
「お茶、いかがですか?」
変わらぬ笑顔だ。私は転職を考えた時から何度もその笑顔に救われた。今朝も変わらぬその様子に、私も思わず笑顔になった。
「あら、いい笑顔。 何か良いことでも書いてありました?」
「いや、記事には何も・・・。でも、この1年のことを思い出していたんだ」
新聞をたたみながら答えた。
「そう、いろいろあったものね。でも1年になるわね。新しい仕事を始めて・・・」
美津子も私の話に相槌を打つように言った。そのすぐ後、私は美津子の問いに答えた。
「あっ、お茶だったね。新しいのをお願いするよ。良かったらお前もお茶を持ってきて、ちょっと話さないか」
私は人指し指を立て、お茶を1杯というサインを出しつつ、美津子を誘った。
「分かったわ。ちょっと待って」
そう言って美津子は台所に戻った。
美津子は1~2分くらいで戻ってきて、私と自分の分のお茶をテーブルに置き、隣に座った。
ソファは3人掛けで、端のほうは空いている。
「おいおい、これはウイルス騒動の時に問題になった3密状態じゃないか」
私は冗談交じりに言った。
「そうね。でもいいじゃない。もうコロナ騒動は落ち着いているし、思い出話はこういう感じがいいと思うわ」
ちょっといたずらっぽい表情で私を見つめながら言った。
「それもそうだね。今さらコロナウイルスもないからね」
私も美津子の言葉に答えた。