「おねーちゃん、わらってますね!」
「え?」
「今日もうれしそうでなによりでした」
私、いま笑ってたんだ。
最近、自分でも気づかないうちに笑っていることがあるらしく、よくわーちゃんに指摘される。
「お祭りおもしろかったですね!」
「面白かったね。わーちゃんなにが面白かった?」
「たこやき! わたあめ! みずあめ!」
「それは美味しかった、だよねわーちゃん?」
「そうともいいますか」
そうとしか言わないのだけれども、わーちゃんは真剣だ。
「じゃあ、美味しかったのは?」
「水ふーせんと花火!」
「それは楽しかったことだと思うの」
「花火は場所が……おいしかったので」
「あ、そういう」
ほんとわーちゃんは、妙なトコがかしこい。天堂くんもそこにびっくりしてたっけなぁ。
そっか、天堂くん。
私が最近よく笑うようになったのは、間違いなく天堂くんのおかげだ。
両親がいなくなって、でもわーちゃんの前だからと思って、それまでも笑ってきた。
だけど天堂くんと話すようになってから、自然と笑いが零れるようになってきてるんじゃないかなって。
「ほらまたわらってるー」
わーちゃんが、自分も嬉しいといった顔で指摘してくる。
私はしゃがみ込んで、わーちゃんの頭を撫でた。
「天堂くんの、おかげかな?」
「しってますよ! わーちゃんそれはしってます!」
「そっかー、わーちゃんもそう思うんだ」
「今日は二人とも、とくになかよしさんでした!」
「そう?」
私が首を傾げると、わーちゃんは嬉しそうに。
「花火のとき、ずっと手をつないでました!」
――あ! 私は急に恥ずかしくなってきた。
確かに私は、天堂くんの手を握っていた。
天堂くんが、『私と付き合ってる』という言葉を否定しなかったことが嬉しくて、ずっと手を握っていた。
「ふふふ。お姉ちゃん、お顔まっかっか星人ですねぇ!」
「こら、お姉ちゃんをからかわないの!」
「からかうってなんですかおねーちゃん!?」
「もー、お姉ちゃんにはわーちゃんの知識水準がわかりません!」
わーちゃんをパジャマに着替えさせて、自分も寝間着に着替える。
二人でテレビを点けていると、わーちゃんはすぐにウトウト。
当たり前だ、今日はもう普段より二時間ほど長くわーちゃんは起きている。
「わーちゃん、もう寝ないと」
「ダメです、もう少し……」
半開きの目で、眠けに耐えているのだ。
どうしてそこまでするんだろ。
私はわーちゃんの横にくっついた。
「どうしたの、わーちゃん。お姉ちゃんも一緒に寝てあげるから」
「今日は……たのしい日だから、まだ……」
ああそうか。わーちゃん、今日は本当に楽しかったんだ。
だから今日が終わっちゃうのがイヤなんだ。でも――。
私はわーちゃんに笑ってみせた。
でも、そんなことなら大丈夫。
「大丈夫だよ、わーちゃん。明日も明後日も、きっと楽しい日になるから」
「……ほんとう?」
「もちろん。だってお隣りには、いつもお兄ちゃんが居るでしょ?」
今日は楽しかった。いや、今日も楽しかった。
最近は毎日が楽しい。
天堂くんが、日々に彩りを取り戻してくれた。
「カズ……オミ……おにい……ちゃ……」
私の言葉に安心したのか、わーちゃんは力尽きたように目を閉じていく。
そう、明日も楽しいに決まってる。明後日も楽しいに決まってる。
その先だって、きっと。ずっとずっと、楽しい日が続く。続けていきたい、三人でずっと。
私はわーちゃんを寝室のベッドに運んで、自分も横になった。
今日は楽しかった。
わーちゃんにあんなことを言っておきながら、私も寝るのが惜しい気持ちになっていることに気がついた。天堂くんは、いまなにをしてるのかな?
枕もとのスマホを、ついつい手にとってしまう。
『天堂くん、いまなにをしていますか?』
メッセージを送る。
しばらくして、ポコン。天堂くんからのメッセージが戻ってきた。
『時子さんに呼ばれてトレジュアボックスに来てる。手伝い』
『え、こんな時間に? 大丈夫なんですか?』
もう夜の二十三時を回っている。
確か高校生のアルバイトは二十二時までしかダメなはずだった。
『お店は閉めてる形だからね。常連だけの内輪だから、まあ』
……いいな。天堂くんの一日はまだ続くんだ。
私もその横に居たいな、と思ったけど、お留守番のときでもないのにわーちゃんを一人家に残して外に出ることはできない。もし私が居ないときにわーちゃんが起きでもしたら、寂しい思いをさせてしまう。
少し私が消沈していると、不意にスマホが鳴った。
天堂くんからの電話だった。
「はいもしもし? 瑞希です、どうしましたか天堂くん?」
「こんばんは高嶺さん。いやね、時子さんが直接電話しろとうるさ――なに時子さん? あ、ちょっ」
「――よう瑞希ぃ! 寂しかったのかぁ?」
「時子さん!?」
天堂くんの通話から、突然の時子さん。ロレツがちょっとおかしい?
「にひひ、和臣の声を聞かせてやるから我慢しろ、もう若い女子供が出掛ける時間でもないしなーぁ。じゃあ和臣に戻す!」
「え、時子さん!? ……あー、ごめんね、時子さんだいぶ出来上がっちゃってるから」
天堂くんの背後からヒューヒューと、天堂くんを、私たちを囃し立てる声が聞こえてきた。うるさいなー! と皆さんの声を止めようとする天堂くんの声も、なんだか微笑ましい。常連さんたちと仲がいいのがわかる。
「ほんとごめん、聞こえちゃってる?」
「ふふ、いいの。楽しそうですね」
こうして天堂くんのお裾分けをもらって、私も今日という日を少しだけコンティニュー。 楽しい一日をちょっぴり延長したのでした。