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第十八話

 ここからは普通にブラウに説教したり、ブラウの実家の問題もだいぶ解決を見た話を聞いたりして。


 馬車は王都へと到着。


 到着次第、実家にも戻らずそのまま再審が行われた。


「――――以上を持って、被告人メリィベル・サンブライトの判決は無罪とする。これにて、閉廷」


 裁判長であるローグ侯爵はひとしきり主文を読んで、私への判決を出して裁判を締めくくった。


 思った以上にあっさりしていた。


 まあなんか裁判ってドラマやゲームみたいに法廷で喧々諤々するってより、事前の証拠提出や打ち合わせみたいなところが重要って聞いたことあるし今回はイザベラの用意した証拠ってのがよっぽど強力だったのだろう。


 私はこの時点で、追放令嬢でも毒殺令嬢でもなくただの伯爵令嬢へと戻ったのだった。


「いやー滞りなく終わって良かったですね。やっと旦那様と奥様へご報告を――――」


 と、裁判所から出たところでブラウが何かを話し出すが。


 

 いや、必然か。


 ずっと期待していたし。

 ブラウたちが迎えに来てから、むしろこれしか考えられなくなるので他のことを考えるようにしていたくらいだ。


 ああ。


 一瞬で世界から音が消える。

 ブラウの声も雑踏も静寂すらも消えた。


 景色も真っ白に溶けて。

 私の視線の先には、世界には、私ともう一人だけ。


 彼も同時に私を見つける。


 お互いに驚いた顔から真っ直ぐ。

 星が万有引力で引かれ合うように。

 いやかれ合うように近づいて。


 私が飛びつくように抱きつくと、彼はふわりと柔らかく回すように受け止めて。


「ステルラ様っ⁉」

「お、お嬢様……⁉」


 遅れて互いの連れが声を上げる。


 私たちは完全に無視して、お互いの顔を見合う。


 彼は私の頬を優しく撫でてから、口をへの字に曲げたり少し開いたり、言葉を探したんだろうけど何も言わず。


 力強く私を抱きしめる。

 私も返すように、彼に身体を預ける。


「…………嬉しい……嬉しすぎる。笑みが止まらない……だがこんなの、格好がつかんだろう……私が迎えに行くはずだったのに――」


「――あんまり可愛いと、これじゃ済まなくなるわ。それくらいにして」


 笑みを浮かべながら早すぎる再開に照れる彼が可愛すぎて、私もぐにゃぐにゃに溶けたにやけ顔で返す。


 ああ、私がメリィベルでよかった。

 凄すぎる親友や様々なシナリオがこの時の為の伏線だったと思わせるほどの奇跡。


 メインヒロインによる幸運と奇跡補正……いや、


 でも私にとってはガチの人生なんだから、私だって幸せになりたいのよ。


「構わないさ」


 彼はそう言って。


 本当に何にも構わず、止まらない思いをそのままに。

 私に唇を重ねる。


 私もまた、止まらない思いをそのままに受け入れる。


 このまま時間が止まればいいと思ったりもするけど、これからもっと彼を好きになって幸せになるのに止まっていたらもったいない。


 何者になったとか、なれたとか、そんなノンプリ的なことはどうでもいい。


 何者だろうと私たちは、幸せなる。

 何者かと問われればということだ。


 この唇を離したところで、幸せはずっと続くんだけど。


 それでも私たちは、離れられずにキスをした。


 fin。


 ……なんて。

 実際これがエンディングってわけじゃあない。


 むしろ私の人生はここからの方がずっと長い、終わりどころか全然導入部分と言っても過言じゃあない。ティーンエイジャーだからね、多分まだ五十年は生きるわけで。


 原作改変したところでエンディングなんてことはない、彼に出会って私がこうなってしまうくらいに物語はつむがれていく。


 どうしようもないほどに、世界は続く。


 そして、の月日が経ち。


 時代はノンプリⅡが始まる直前。

 悪夢を断ち切る最後の大詰め。


 とうに私の手を離れた物語は。


 乙女たちとその恋によって、さらに原作から大きく改変され続けることになる。


 つまり、まだまだ続くって話。


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