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第十二話

 そんな、彼との日々は続く。


「この辺は温泉も湧くくらいだし、南に寄ってるからあんまり雪が積もらない! でも、多少は積もるし多少の積雪でも救急搬送を困難にすることもある! なので村から診療所までの導線を雪かきをします!」


 私は厚着でモコモコ姿に片手でスコップを握って、高らかに宣言をする。


 めっきり冬になり、季節通りの降雪によって雪が積もった。と、いっても三十センチないくらいの積雪量。

 このくらいなら前世で、青森の祖父母の家で子供の頃にお小遣い欲しさに雪かきを手伝った時よりも楽なくらいだ。


「……重要な仕事だ。わかった、僕も全力で雪をかこう」


 彼もまた厚着でモコモコ状態のスコップ装備で真剣な顔付きして返した。


 そこから雪かきをして、疲れてるのに積んだ雪にダイブして、雪合戦に発展して、雪でドロドロになって帰ったらアキ先生に割とマジにお叱りを受けて。


 その日の温泉は溶けるほど気持ちが良かった。


「冬越しは基本的に保存食で過ごして、まきで暖をとって暮らすの。まあ正直年越してしばらくもすればこの辺は農業以外は通常通りになるしこの診療所は年中無休だし冬は体調を崩す人も多いからひたすら調剤してる感じよ」


 私はアキ先生から聞いた冬越しについて、まるで冬越しのベテランかのようにそのまま彼に伝える。


「……重要な仕事だ。僕も何か手伝おう」


 彼は真剣な表情で、手伝いを申し出る。


 でも調剤に関しては彼に出来ることはないので、基本的に私の話し相手になってもらった。


「…………思ったより暇ね」


「ああ、でも良い事だ。医者と軍人は暇な方が良い」


 規定量の調剤を終えた私のぼやきに、彼は素直に返す。


 いやまあその通りではあるんだけど…………。

 ここに来てからずっと思っていたけどこの辺境の地の村は病におかされたり怪我する人がかなり少ない。

 老若男女問わず誰も彼もが合気道を習うので、どうにも変に転んだりして痛めたりすることが少ないらしい。

 怪我をするのは無理をした子供か無理な鍛錬をしている師範代を目指す黒帯の若い人とかくらいだ。

 日常的に運動をしていて代謝も良くて免疫力高くて温泉も湧いているので身体も冷えず、あまり風邪も引かない。


 つまり暇なのだ。


 どうしよっかな、冬越し前に近くの町で仕入れてきた本でも読もうか……。


「なあメリィベル……、時間があるなら人形の作り方を教えてくれないか?」


 私が暇つぶしの方法を巡らしていたところで、彼はそんな提案をしてくる。


 あーそういえば興味もってたっけ、フィギュア作り。最近は彼とのデートばかりであまり触ってなかった。


「うん、全然いいけど作りたいものでも出来たの?」


 私は最初に興味を持った時のことを思い出して聞いてみる。


「ああ、だがとりあえず練習で馬を作ろうと思う」


 彼はスケッチブックを開いて牧場で描いたデッサンを見せながら答える。


 上手い。流石にコンクールに出そうと考えるだけあってデッサン力がある。一応高校時代は美術部の私より全然ちゃんと描いてる人の絵だ。


「あれ、馬はそれほど好きじゃないんじゃなかったっけ」


 私は彼の写実的な馬を見ながら、そんな感想を述べると。


「今は好きだ。君を後ろに乗せて、好きになった」


 彼は私に目を見て、優しく甘い声と表情で当然のように返す。


 心がざわつく。

 だが、これは混乱や恐怖ではなくときめき。


 正直にいってしまえば私は彼にかれつつある。

 淡々とここ最近の出来事を語っていたけど最近は結構当たり前のように手を繋いでいることが多かったり、わりと普通に身体が密着する距離感で一緒にいることが多い。


 実は雪かきの後のじゃれあいの時もほぼ抱きついたりしていたし、調剤作業の時も休憩の時に何回か膝枕をしてもらったりした。

 ギリギリでチューはしてないくらいの距離感、というかチューしてないだけでわりとがっつりイチャイチャはしている。


 完全にイケメンを交えたドタバタラブコメ生活になっている。


 常に私の中の乙女メリィベルと私の中の理性三十路女子がせめぎ合ってはいるけれど。

 情けなくてどうしようもないほどに、私はティーンエイジャーで恋愛体質乙女ゲーヒロインなんだと痛感する。


「……………………………………っ、…………さっ…………始めましょうか」


 私はせめぎ合いの末に、落ち着いて彼の言葉を受け流す。


 今回は理性三十路女子の勝ち。

 私は自分の鼓動を感じながら、針金と石粉粘土を用意した。


 その夜。


 私は乾燥待ちの馬フィギュアを見ながら、私は一人考える。


 デッサンも良かったけど造形も上手いな、ここから細かいディテールを彫り込んだり削ったりして調整するけどこの時点でかなり良い出来だ。

 初造形でこれか……、やっぱり彼は天才の類いなんだろう。


 フルカラ王国第一王子ステルラ・カラリア。

 偽名はネモ。


 年齢は私の一つ年下の十六歳。

 身長は百七十四センチ、出会った時より一センチ以上は伸びたしまだ成長中。

 体重は六十キロ、合気道道場や乗馬などで身体が引き締まり筋量が増えて健康的な体付き。

 性格は素直で好奇心旺盛だが穏やか。

 行動力があるがちゃんと引き際がわかっているというか、年齢の割に大人びている。

 行動には品があり、箸の持ち方置き方一つとっても所作が美しい。

 でも時折、楽しい時や嬉しい時に見せる笑顔は年相応で可愛い。


 運動神経抜群で頭脳明晰、体動かすのも得意だし一度覚えたことはすぐに実践して応用もしてしまう。色々出来てしまう、天才のたぐい。


 そして、人の心の機微に敏感で勘が良い。

 なんというか言葉の裏に潜む温度や、人の視線だけじゃなくてその焦点がどこに定まっているか……何を目的としているのか。


 まあこれは簡単にいってしまえば物分りが良いということだ。


 例えば何かを「やめておいたほうがいいよ」と言われたら、その一言で意図を組んで素直にやめることが出来るみたいな。


 でもこれが彼の心を苦しめた。


 国王と王妃……、父と母からの話から大事な弟と妹を脅威から遠ざけるための囮だと気付いてしまった。見限られたんだと理解してしまった。


 焦って何をしようにも、外には出られない。

 自己を形成する為の成功体験が何もない。

 何も出来ない何にもなれない、そんな焦りから無自覚にストレスが募って過呼吸を起こすようになった。


 過呼吸がさらにストレスを募らせて、さらに悪化させる悪循環が起こって。


 この辺境の地での療養が開始されて――――。


「……


 私は一人、ベッドに仰向けになって呟く。


 生まれて初めて出会った同年代の女子。

 しかも、メリィベルは美少女だ。これは私が言うとあれだけど単純に柿山しぶたろう氏のキャラデザによるものなので事実だし仕方ない。

 話を聞いて積極的に問題の解決へと導いてくれて。

 何度もデートをして色んな経験をさせてくれた、一つ上の女子。


 まあ客観的に見て、好きにならない方がおかしい。


 じゃあ私はどうなのかっていうと。

 可愛いくて人懐っこくて才能があるのに儚げで、美しい少年に健気な好意をストレートに向けられて。


 まあ好きにならない方がおかしい。


 でも…………、いやこれはマジに大変なんだ。

 だって彼は十六歳……言ってしまえば子供だ。

 いや前世の私はそりゃあノンプリだけでなく他の作品でもティーンエイジャーの美少年を好きだったし推したりもしていた。


 でも、


 例えば日本のおじさんが好きな女性のタイプを聞かれて、青春時代に憧れた名作双子高校野球漫画の女子マネージャーを挙げたとしても実際に女子高生に手を出すようなおじさんはあまり居ない。

 単純に犯罪だし、流石に高校生は子供すぎるからだ。


 前世の私だって好きな男性のタイプに、もれなくティーンエイジャーのキャラを挙げたりしたかもしれないけど実際にお付き合いをしたのは流石に大人だった。

 まあそりゃあティーンエイジャーの時はティーンエイジャーの男子と付き合っていたけど…………。


 いやこれが厄介なのは、私は今ティーンエイジャーだってことだ。

 じゃあ別にいいじゃんって私と、いや流石に子供と恋愛ってヤバすぎるでしょって私が混在している。


 この世界での結婚や出産は早い、貴族令嬢なら早い段階で婚約をして十八歳で嫁ぐことも珍しくないし同時に出産みたいな時系列的に十七歳の頃に何かないと計算が合わないみたいなこともわりとある。


 でも……いや…………。


 なんてことをうだうだと考えてしまう。

 これがもし私が、客観的に外から私のことを見ていたら絶対にうだうだしてないでさっさとくっつけよって思うけど。


 逆に三十歳から十七歳に若返ってストレートに十六歳の男の子からの好意を受け取って、チューとか出来る奴っているのか……? いやいるか……、普通に若い子とイチャイチャできてラッキーと思う人間もいるだろうし私もまんざらじゃあない。


 でもこの……、私は倫理観を問われている。

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