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第三話

 ここから、私とアキ先生に加えてネモ氏との生活が始まった。


 イケメンを交えたドタバタラブコメ……みたいな展開は特にない。

 もしこれがノンプリの攻略対象キャラが相手なら、ならない方が難しいのだけれど。


 私のノンプリは既にバッドエンドという最高のかたちで完結している。


 メリィベルを辺境の地へ追放し。

 どの攻略対象キャラとも結ばれなかった。


 私はそれを自ら選んだ。

 


 私の愛するこのノンプリの世界が、このまま辿り着く未来に。


 この世界が、へと繋がらないようにしなくてはならなかったんだ。


 全年齢対象、恋愛バトルアドベンチャーゲーム【ノンプリンス★ノンプリンセスⅡ~新しい世界の恋~】というに。

 私はこの世界を、辿たどり着かせるわけにはいかなかった。


 前作から約八年の時を経て発売された待望の正真正銘ナンバリング通りの続編。

 本当に、本当に待ち望んだ。


 八年の間にメーカーであるパラレルデザインが倒産し、ノンプリの版権は大手メーカーのトランスが引き継いだのだけれど正直硬派な西洋風世界観はトレンドではなかったし。ファンタジー系の作品も残ってはいたけれどそれほど熱はなかった為、続編は絶望的だと言われていた。

 それが突然、新作が発表された。


 私は膝から崩れるほどの衝撃だった。歓喜を超えて狂喜、いやもう狂気だった。


 しかし。

 すぐさま私は、私たちは絶望に叩き落とされた。


 プロデューサーの変更。

 キャラデザ担当の変更。

 シナリオ担当の変更。

 前作キャラの声優陣の変更。

 ゲームシステムの変更。


 タイトルだけを残して、全く別の物が出来上がった。

 これだけで私は三キロ痩せるくらい絶望したのだけれど。


 たった一つだけ、キャラクター設定の原案だけ無印のシナリオライターであるYuKiCo氏がたずさわったという話があった。

 だからこれだけを希望として、私はノンプリⅡを予約して購入した。


 でも、出来上がったのは必然。

 これ以上ないほどの駄作。

 クソゲーもクソゲー、最悪が出来上がった。


 まずプロデューサーが変わったことによって世界観が華美なものへと変更となり、魔法やスチームパンク的なサイエンスフィクションが多大に盛り込まれた世界観へと変貌をげた。

 しかもSF考証が甘くて、かなり無理がある感じで……ファンタジーに甘え過ぎている感がいなめない。

 前作から二十年後という設定ではあるものの、二十年で到達出来る発展度ではない。


 かなりカオスな世界観で、さらにシナリオ担当が変わったことで前作からの繋がりもないがしろにされている。肝心なストーリー自体もツッコミどころ満載で支離滅裂な展開。各キャラのエンディングも無茶苦茶な理論展開を美談風にまとめようとしていてモヤる。

 さらにさらに、SFやファンタジーを活かすために追加されたバトルパート的なシステムも作業感が強すぎて苦痛でしかないわりに長い、△ボタンを押しすぎて指が痛くなるし、バグで特定の動きをするとゲームが落ちて最初からになる。本当に要らなかったと思う。

 YuKiCo氏がたずさわったというキャラクター設定も活かしきれているとは思えない。


 なんというか、全体的に愛がない。


 既存ファンからは拒絶され新規ファンの獲得も出来ず、クソゲーとしてその名をとどろかせた。

 ぞくにいう黒歴史ってやつ。


 クソゲーすぎて単純にノンプリⅡが好きじゃないってのもあるけど、問題はそれだけじゃあない。


 ノンプリⅡは冒頭で。

 このフルカラ王国が内戦により、国民の半分が犠牲になったところから始まる。


 しかも、超名作宇宙ロボットアニメの冒頭のようにコロニーが落とされたみたいな宇宙育ちと地球育ちにある長年の確執がきわまった結果の話とかじゃなくて。


 なんか結果的に必要があったのかわからないくらいに。

 なんとなく、なんか国民の半分が死ぬ。

 ルートによっては国が亡びることもあるし、さらに多くの人々が死ぬ。


 そんなこと、私が許さない。


 絶対にさせない。

 ノンプリの世界を壊させないし、私はこの国を、世界を守りたい。

 だから私はノンプリⅡのストーリーに、この世界を辿り着かせないように。

 前世の記憶、この世界の攻略情報を持ったメインヒロインとして。


 全力でをすることにした。


 ノンプリ無印でどのルートを通ったとしても二十年後に当たるノンプリⅡはおとずれるように、繋がり方はかなりファジーに設定されていた。

 ヒロインも変わるしメリィベルは存在を匂わせる程度にしか出てこないものの、メリィベルが辿り着いたエンディングを起点にはしていた。


 メリィベルがロートを選ぼうとジョーヌを選ぼうとアダムスキーを選ぼうとブラウを選ぼうと、ノンプリⅡにはいたってしまう。


 そこで私が目をつけたのが。

 本作における完全無欠の悪役令嬢。


 イザベラ・ムーンライトである。


 眉目秀麗、容姿端麗、才色兼備、品行方正、文武両道、頭脳明晰、質実剛健、そして


 悲劇と狂気を美しくまとった、冷たく燃える野心を瞳に宿したうるわしの令嬢。

 相棒というか、半身ともいえる執事のヴァイオレット・キッドマンと共に。ただ、安寧と幸せを手にする為だけに。くわだてて暗躍しておとしいれて奪い取る。


 座右のめいは、私は私を生きている。


 なんでもありの、超優秀で有能な悪役令嬢だ。


 イザベラはどのルートを選んでもメリィベルを計略によって貶めて、その幸せを奪おうと画策する。

 どのルートでもイザベラの策略を乗り越えて、グッドエンディングにいたるのがパターンだ。


 イザベラが勝利するグッドエンディングは存在しない。

 基本的にイザベラが出てきてからのシナリオ進行は一方通行気味になるので、一部ルートの特殊バッドエンド以外でメリィベルが敗北することはない。


 つまり。

 私、メインヒロインのメリィベルが悪役令嬢イザベラに敗けることにより、ノンプリ無印からグッドエンディングのみを想定されて作られたノンプリⅡへの繋がり断つことが出来ると考えた。


 だから私は前世の記憶を思い出した十二の頃から、徹底的にノンプリのシナリオを原作であるゲームから番外編や各キャラifルートノベライズやドラマCDに、設定資料集など。

 私の中にある、あらゆるノンプリ知識を総動員させてノンプリ無印からノンプリⅡを含む詳細なイベントを年表をノートにまとめた。


 生前私は似たようなものを自主製作してファンサイトにまとめていたりしていたので、年表作り自体は問題なく行えた。

 実際に起こっている出来事と照らし合わせ、やはりこの世界はノンプリのシナリオ通りに進行していることを確信した。

 そこから私はノートにまとめた情報をもとに、ノンプリⅡへの繋がりを断てるルートを探した。


 私がノンプリ本編に突入する前に死ぬとか失踪するとかも考えたけど、それはそれで影響が読めない。

 メリィベルが各攻略対象キャラに出会わないことによって、この世界がどう進んでいくかわからないし普通にそのままノンプリⅡシナリオに突入することも考えられたからね。


 そもそもノンプリにはメリィベルが誰とも出会わないと起こるバッドエンディングとか選択肢を間違えて死亡するゲームオーバーみたいなものも存在するので、そこからもノンプリⅡに繋がるってことは全然有り得る。


 重要なのは、であること。


 それに影響力だ。


 例えばブラウルートで、私がイザベラに敗北したとしてもメリィベルが手に入れるはずだったブラウの実家の酒蔵をイザベラが手に入れて酒造業として富を得るだけでノンプリⅡとの繋がりを断つほどの影響は起こらない。

 ジョーヌルートでも、私が敗北したところで最後美術館に飾られる絵が私からイザベラに変わるくらいだし。

 アダムスキールートでは、男爵夫人にはなるけどこのフルカラ王国における男爵家の地位は国政に大きな影響を持つようなものではない。


 だから私が軸に置くことにしたのは、悩める公爵子息ロート・ローゼンバーグルートだった。


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