色々と属性を盛っていたメイの話がひと段落すると、皆の視線は四人目のミコトさんへと自然と集まった。
「最後は私ですね。……でも、声優さんやバンドしているミュージシャンの後って、やりにくいですね」
確かに、あの二人に続くのは大変かもしれない。でも、ミコトさんにはJKという、ある意味最強クラスの属性がある。彼女自身は気づいていないかもしれないが、属性勝負ならミコトさんは決して負けていないと思う。
むしろ、容姿も含めて、この中で圧倒的に劣っているのは俺だろう。
俺は一人で劣等感に苛まれながら、ミコトさんの話に耳を傾けた。
「私は一応高校生なんですけど、実は不登校中なんです。勉強についていけないとかじゃなくて、色々ありまして……」
ミコトさんの言葉と表情で色々と察する。いくらゲームの中とはいえ、今のVR環境だと相手の本質の部分が見える瞬間がある。そうやって見えたものから考えれば、ミコトさんが学力や素行が原因で不登校になるとは思えない。
ならば考えられる理由は一つだった。
なまじ可愛い子はターゲットになりやすいという話も聞く……。
だけど、敢えてそこを詳しく聞く気はないし、その必要もないだろう。
俺の話の時にミコトさん達がそうしてくれたように、俺は何も変わらず彼女の話を聞くだけだ。
「いつかは学校に戻らないといけない――そんなことを悶々と考えながら、ゲームに逃げてました。でも、そこでみなさんと出会って、色々な世界、色々な生き方があるんだって気づかされたんです。だから、私、もう高校には拘らず、高卒認定試験を受けて、大学を目指そうって思ってます。そんなわけで、今はまだ高校生ですけど、そのうち”元”高校生になるかもです」
ミコトさんは顔を上げてしっかり前を向いていた。その姿勢、その表情から、決してその決断が後ろ向きなものではないことが伝わってくる。
正直、俺達との出会いがミコトさんにどんな影響を与えたのか、俺にはよくわからない。きっと、俺ではなく、ほかの誰かから大きな刺激を受けることがあったのだろう。
けれど、この先を切り拓こうとしている彼女に、少しでも俺が影響を与えていたのなら――それがどれだけ小さなものでも、少しでも背中を押す力になれたのなら、それだけで本当に嬉しい。
…………。
……ミコトさん? なぜ意味ありげにそんなに真っすぐ俺を見ているんだ?
……何か言った方がいいのかな?
「……えっと、ギルドマスターとして、フレンドとして、ミコトさんを応援するよ」
「はい!」
ミコトさんは満面の笑みを返してくれた。
ちょうどそのタイミングで、注文していた料理が運ばれてきた。
自己紹介を切り上げ、クマーヤの話に移るにはちょうど良かったかもしれない。
全員の前に料理が並んだところで、俺が切り出す。
「お互いのことが分かったところで、次はクマーヤのことについて話をしようか。まずは年齢あたりから固めていく? 俺としてはクマーヤということで98歳とかいいんじゃないかと思うんだけど?」
「……却下」
「それはないですよ、ショウさん」
「おばあちゃんキャラにする気かよ」
俺の案は一瞬で否定された。
「小学生くらいが可愛いと思わない?」
「でも、それだと知識や言動のレベルを下げないといけなくなるよ? 今までの配信では、さすがに小学生を想定しては喋ってなかったし。私としては、成人してるほうが、今の私と同じくらいの年齢でやりやすいかも」
「でも、やっぱり十代の方が見ている方としては共感しやすいんじゃないですか?」
「それじゃあ、高校生くらいにしとく? 16とか?」
「それくらいなら私も許容範囲かな」
…………。
おかしい。
ギルドマスターは俺で、話を振ったのも俺なのに、気づけば意見が俺抜きでまとまっていく……。
「じゃあ、誕生日も決めとく?」
いつの間にか、俺じゃなくメイが話を振り出していた。
「でも、それだと誕生日迎えるたびに年を取っていっちゃうんですよね。外見は変わらないのに、違和感があるかもです」
「それは……まあ、仕方ないんじゃないのか?」
ミコトさんの意見にメイが困ったように言葉を返す。
ここが、俺が主導権を取り戻すチャンスだと思った。存在感を取り戻すためにも、俺は思い切って話に割って入る。
「いや、甘いぞ、メイ。声優業界には、俺が子供の頃から声優をしているのに、いまだに17歳の人がいる。いわば永遠の17歳ってやつだ」
「……なんだそりゃ? 妖精か何か?」
「嘘じゃないよな、クマサン」
「……そうだね。私より年上の17歳の大先輩声優がいらっしゃったよ」
俺の言葉にクマサンが少し困った顔で頷いてくれた。言葉だけ見れば矛盾の塊に見えるが、そこに嘘はない。
「というわけで、クマーヤが永遠の16歳でも問題はないんだ」
「……よくわからない理屈だが、そうだとすると、下手に生年月日とか決めない方がいいのか?」
「そうですね。生年月日不詳の永遠の16歳。その方が可愛い感じがします!」
それが可愛いのかどうか俺には疑問だったが、どうやらミコトさんの賛同も得られたようだ。
「じゃあ、次は血液型でも決めようか。俺は血液型占いとか信じないから、別に何型でもいいんだけど、O型とかにしておく?」
イニシアティブを取り返した俺は、次の話題を提案する。言葉の通り、俺は血液型占いなんてあてにしていないので、この設定は正直重要視していなかった。
だが、三人の女の子の雰囲気が微妙に変化したことに俺は気づく。
「そうですね。私も血液型占いとかあまり気にしないんですけど、クマーヤは真面目で几帳面なA型がよくないですか?」
「ははは、ミコトはおもしろいことを言うなぁ。私も血液型とかどうでもいいんだけど、好奇心旺盛で情熱的なB型がクマーヤにピッタリじゃないか?」
「うーん、そうかなぁ? 私も血液型占いとか迷信だと思うけど、想像力豊かで感受性の高いAB型がクマーヤのイメージに合ってると思うんだけど?」
ミコトさん、メイ、クマサン、それぞれが異なる意見を出しつつ、互いに譲らない雰囲気を漂わせていた。口では「気にしない」と言いつつも、なぜか血液型のイメージに対しての拘りは強そうだ。三人とも顔は笑っているのに、その笑顔がちょっとピリついている気がする。
結局、血液型問題は大激論の末、一つの答えにはまとまらず、ジャンケンによりA型に決定したのだった。
それ以降も話し合いはさらに続き、クマーヤの性格から好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな芸能人、スポーツまで、次々と新しい設定が生み出されていった。
そんな中、俺は彼女達の熱量に圧倒されつつも、徐々に一体感を感じるようになっていた。
クマーヤの好きなブランドやファッションについての議論は、俺にとって未知の領域でついていけない部分もあったが、三人の拘りや個性が垣間見えるようで、楽しく見守らせてもらった。
正直、会って話すまでは、これほどまでに深く語り合うなんて思っていなかった。
ミコトさんがオフ会を提案してくれた時、正直に言うと「困ったな」と思ってしまった自分がいた。でも、今こうしてみんなと笑いながら話し合っていると、あの時のミコトさんに感謝してしまう。
俺はこの時間を通して、みんなのことが前よりももっと好きになっていた。