ウェンディの後もアリサ、オーロラとパフォーマンスが続き、残りの吟遊詩人達も順に、この日のために磨き上げてきたそれぞれの音楽を披露していった。
そして、すべてのパフォーマンスが終わると、投票の時間が訪れる。投票権を持つのは、この街に住む13歳以上の住民達だ。俺達プロデューサーに投票権はなく、ただ結果を待つことしかできない。
彼女達の運命は、ここで暮らす人々一人ひとりの手に握られているのだ。
これが現実ならば、投票が終わるまで相当な時間がかかるだろうが、これはゲーム。
時の流れは一気に進み、あたりはすでに夜の帳に包まれていた。
ステージではこれから結果発表が行われる。
俺達は吟遊詩人の女の子達と共に、ステージでその時を待っている。
結果発表を自分の女の子と共に受けるのは、プロデューサーの権利であり、同時に義務でもある。そして、彼女達の結果は、俺達自身への評価でもある。共に発表を受けるのは当然のことだった。
「ショウさん、私、なんだか緊張しちゃって……」
ステージであれほど自信に満ちたダンスを見せていたエルシーが、主人を待つ子犬のように震えている。俺はそっと彼女の手を握りしめる。
「大丈夫、俺達がやってきたことを信じよう」
「……はい」
握っている彼女の細い手に、力がこもるのを感じた。
「お待たせしました! いよいよ結果発表の時間です!」
姿の見えない司会の声が会場に響き、観客達がざわめき立つ。
俺は思わず唾を飲み込んだ。
「それではまず、第20位――トーニャ」
驚くほど簡単に20位の女の子の名前が読み上げられた。
俺達にはシステムメッセージとして順位と名前が見えるが、吟遊詩人の女の子達や観客には単に名前を呼ばれただけでしかない。ほには演出もなにもない。
30日間頑張ってきて、こんなあっさり20位として発表されたら、俺なら泣く。
「第19位 テオドラ」
「第18位 ツィーナ」
「第17位 チェルシー」
「第16位 タチアナ」
「第15位 ソフィーリア」
発表が続いていく。
正直、このあたりでエルシーの名前が呼ばれるとは思っていない。
緊張感はあるものの、心理的にはまだ余裕を持って聞いていられる。
「第14位 セレナ」
「第13位 スカーレット」
「第12位 シェリー」
「第11位 サンドラ」
発表はここからトップ10に入っていく。
さすがに緊張感が高まってきた。
「第10位 コニー」
「第9位 ケイト」
「第8位 クリス」
握り合った手に汗を感じる。
これは俺の汗だろうか、それともエルシーの汗だろうか――そんなことさえもわからなくなってくる。
「第7位 オーロラ」
六姉妹のうち最初に名前が呼ばれたのは、五女のオーロラだった。
もし俺達の誰かがオーロラを選んでいたら、きっと彼女はこの順位ではなかっただろう。
「第6位 アリサ」
長女でありながら彼女は六姉妹の中では5番目の順位となった。そのことを慮ると、どこか申し訳ない気持ちになってしまう。アリサとともに過ごす30日間、それもあり得たかもしれない――そんなことをふと思ってしまう。
だが、俺はエルシーを選んだ。
隣を見れば、彼女の表情は複雑そうだった。
それはそうかもしれない。
自分の名前がまだ呼ばれていないのは嬉しいだろうが、姉や妹の優勝の可能性はここで消えたのだ。彼女にしかわからない気持ちが、そこにはあるだろう。
だけど、いつまでも感傷に浸っててもらうわけにはいかない。
「エルシー、いよいよここからベスト5の発表だぞ」
「はい」
エルシーの返事にも緊張の色が見える。
だが、まだこんなとこで名前を呼ばれるつもりはない。
残りは、パーティメンバー4人がプロデュースした、エルシー、イングリッド、ウェンディ、カレンとキャサリンの5人。正直、この5人が残るのは、予想通りの展開だ。
そして、問題はここから。
俺達4人がプロデュースした女の子の誰かが呼ばれれば、そのプレイヤーはキャサリンに負けたことになる。それはこのクエストの最初の目的を達成できなかったということだ。
俺は同じようにステージに上がっている、ミコトさん、メイ、クマサンと順番に視線を向けた。
彼女達もそのことは理解しているようで、緊張の色がはっきり表情に出ていた。
さぁ、ここで名前を呼ばれるのは誰だ?
「第5位――キャサリン」
呼ばれたのは、前回の予想順位2位のキャサリンだった。キャサリンより順位が低かったエルシー、イングリッド、ウェンディの全員がそこから逆転したことになる。
ミコトさん達の表情に一瞬安堵が浮かび、すぐに緊張感あるものに戻った。
きっと俺も彼女達と同じような顔をしていたことだろう。
キャサリンに勝つ――その最低限の目的を達成したのだから。
「……負けたわ」
ふと視線を向けると、キャサリンがこちらに歩いてきていた。
悔しさが浮かぶその顔には、どこか清々しさも混じって見える。
「……君の歌も演奏も踊りも、全部素晴らしかったよ。今もまだ、俺のまぶたに焼き付いている」
「ふふ、ありがとう」
キャサリンが右手を差し出してきた。
俺は握手に応えようと右手を出そうとしたが、その右手はまだエルシーとしっかり繋がっている。
仕方なく俺は左手を差し出す。
キャサリンは一瞬拗ねたような顔を見せたが、すぐに表情を戻し、改めて左を出してきた。
俺達は互いの手をしっかりと握り合う。
「君はエルシーにとって最高のライバルであり、最高の友人だよ」
俺の言葉にキャサリンは屈託のない笑顔を見せてくれた。
そして、順位発表は第4位への発表へと移っていく。
ここからは、俺、クマサン、ミコトさん、メイ――ギルド三つ星食堂の4人による争いだ。