さて、探すのを手伝うと言ったものの、正直俺にはカレンがどこに行ったのか見当がつかない。ここはやはり、一緒に行動してきたミコトさんの方が詳しいだろう。
「ミコトさん、カレンが行きそうなところって心当たりがある? よく一緒に行動していた場所とか」
「そうですね……。音楽学校や街頭パフォーマンスをよくやってましたけど……」
「わかった。だったら音楽学校には俺が行くから、ミコトさんは街頭パフォーマンスしていた場所を探してみて」
「わかりました!」
こうして俺達は手分けしてカレンを探すことにし、俺は音楽学校へ向かったわけだが――
「……休みか。そりゃ街中でライブイベントをやってるわけだし、当然だよな」
冷静に考えればわかりそうなことだっただけに情けない。
「ミコトさんの方が当たりだといいんだけど……」
喧嘩したとはいえ、カレンのことを一番理解しているのはミコトさんだ。俺が色々考えるより、彼女に任せた方がいいのではないかとさえ思えてきた。
「もし相手がエルシーだったら、俺はどこを探しただろうな……」
ふいにそんなことを考えてしまう。
ミコトさんと違って、俺とエルシーは私室での練習が多かったから、音楽学校なんて選択肢はまず出てこなかったな。だいたい、毎日最初に顔を合わすのだってあの部屋なんだし……。
……ん、そうか! よく考えたらみんなだってそれは同じか!
当たり前すぎてつい忘れてしまっていたけど、俺達と六姉妹とで一番関わり深い場所なんてよく考えたらあの屋敷しかないじゃないか!
俺がその考えに至った時、ミコトさんから音声チャットの申請が飛んできた。俺はすぐに許可する。
『ショウさん、そちらはどうでしたか? こちらには見当たりませんでした』
「こっちはそもそも学校が休みだった。誰もいなくて静かなものだ」
『そうですか……』
「でも、諦めるのはまだ早いぞ。屋敷に戻ってみよう。カレンにとって、一番ミコトさんとの思い出深い場所は、あの屋敷に違いない。喧嘩をしてもカレンがちゃんとミコトさんのことを想っているのなら、きっとそこにいるはずだ!」
『カレンが私のことを想ってくれているのなら……。わかりました! すぐに屋敷に向かいます』
「ああ! 俺も行くよ」
そうして俺は音楽学校を離れ、屋敷へと走り出した。
俺が屋敷に着くのとほぼ同時にミコトさんも到着した。
だが、彼女の顔には不安の色が浮かんでいる。
「ショウさん、もしカレンがここにもいなかったら、私……」
ミコトさんの声は小さく、まるで迷子の子供のように震えていた。そんな彼女を見て、俺は自然と彼女の頭にポンと手を置いた。
「きっと大丈夫だよ」
ミコトさんは一瞬驚いたように俺も見上げたが、すぐに安心したように微笑む。
「行こう」
「はい」
二人で屋敷に入ると、俺が予想した通り、応接室のソファでカレンが膝を抱えてうずくまっていた。こっちの方がより深刻な迷子に見える。
「……カレン」
ミコトさんの呼びかけでようやく俺達の存在に気づいたカレンが顔を上げる。
「……ミコト」
たとえNPCだとしても、今のカレンの顔を見れば、ミコトさんと喧嘩してその場から飛び出した後、カレンがひどく後悔しているのがわかる。
「ミコトさんが思ってること全部ぶつけてくればいいよ」
俺がミコトさんの背中を押すと、ミコトさんはそのまま勢いよくカレンに飛びついていった。
ここからは二人だけの世界だ。
俺が立ち聞きするのはスマートじゃない。
俺はそっと扉を閉めて応接室を出ると、そのまま屋敷を離れた。
心配はしていない。
ミコトさんならきっとすぐに仲直りをする。そして、今からでも二人でライブを再開する。
俺はそう信じて疑っていない。
「ずいぶんと時間を取ってしまったな。エルシーを長い時間一人にしていて、戻ったら怒られそうだ」
俺はエルシーのいるライブ会場へと急いで向かった。
俺がいない間に何かトラブルが起こって、ライブが中止にでもなっていたら目も当てられない。今までのイベントを見ていると、そういうことが本当にありそうなだけに少し不安にもなる。
「待ってろ、エルシー! すぐに君のもとへ行くからな!」
そして、会場へと戻った俺の目に、ステージで今まで見た中でも一番高く飛び上がり、眩しい輝きを放つエルシーの姿が飛び込んできた。
「……心配無用ってわけか。さすがエルシーだよ」
俺は残り時間、ステージ脇でエルシーを見守り、色々あったが27日目の20箇所同時ライブイベントは終了した。
ミコトさんは無事カレンと仲直りしたようで、途中からだがライブを開催し、それなりの観客を集めたらしい。続く28日目、29日目も、カレンは精力的にライブイベントを行っていた。二人の仲は以前よりも深まっていたようにさえ見える。
メイとイングリッドは、例の黒い噂のせいで大音楽劇場を使えるコネクションを失ってしまったらしく、28日目と29日目は中音楽劇場でのライブを精力的にこなしていた。20箇所同時ライブで懸命に演奏するイングリッドの姿に多くの人が心を打たれたようで、中音楽劇場での彼女のイベントはどれも満員だったらしい。
意外なのはクマサンとウェンディで、孤児院の件が発端でできた貴族との繋がりをいつの間にかうまく広げていたようで、彼女達は大音楽劇場を使うコネクションを得ていた。そのおかげで、28日目、29日目の両日ともに大音楽劇場でライブ開催と、この終盤にきてスパートをかけていた。なかなかに油断できない。
そして、俺とエルシーだが、俺達は29日目に7日のイベントで手に入れた無料使用チケットを使い、最初で最後の大音楽劇場でのライブを開催した。クマサンもラストの夜のライブを狙っていたようだが、チケットのおかげで俺達が夜の使用権を得て、クマサン達は午後の方へと回った。
何千人もの人がエルシーのライブを見るためだけに集まり、彼女のパフォーマンスに心を奪われ、熱狂していた。
ここまでの苦労が報われた、そう思えるようなライブだった。
これで俺達ができる行動はすべて終わった。
そして、運命の30日目が訪れる――