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第69話 1位

 クマサンの思いもよらぬ告白に、俺だけでなく、ミコトさんとメイも驚いた顔をしてクマサンを見つめた。


「デートに誘われてないってことは、昨日はイベントなしで普通の一日を過ごしたのか?」

「いや、そういうわけじゃない。朝からキャサリンが部屋に押しかけてきたんだ」

「――――!? キャサリンが!?」


 クマサンだけイベントなしかと思いきや、逆にクマサンだけ特殊イベントだったのか?


「それでキャサリンは何をしに? 俺の時みたいに本心を話してくれたとか?」

「いや……怒られた」

「怒られたって、どういうこと?」

「人気順位が低すぎる、何をしているんだ、って」


 ああ、そういえばイングリッドは3位、カレンは8位、エルシーも11位と順位を順調に上げてきている。それに対してクマサンのウェンディは16位。一人だけいまだに低迷していたっけ。


「それで、どうなったの?」

「午前中はキャサリンから鬼のような指導を受け、午後はキャサリンと路上ライブ。さらに夜にはキャサリンのコンサートに強引に出演させられた……」

「な、なるほど……」


 話を聞く限り、クマサンだけは選択肢なしの強制イベントだったようだ。

 一人だけキャサリンと会っていないことを気にしたのか、メイがまず反応する。


「もしかして、その結果、能力アップしたり、特技を覚えたりしたとか?」

「能力は上がったけど、特技は覚えてないな」


 その答えに、メイはどこかほっとした顔をした。


「じゃあ、応援技を覚えたりとかですか?」

「いや、それもない」


 ミコトさんの問いに、クマサンは首を振る。

 俺はしばし考え込む。

 これは、ウェンディの順位が低いことによる罰ゲーム的なものだろうか?

 ……いや、違うな。

 キャサリンの本心を知る前なら、そんなふうに思ったかもしれない。でも、今なら俺は彼女のことを理解している。キャサリンならウェンディの邪魔になるようなことは間違ってもやらない。


「クマサン、きっとそれは能力と知名度を上げるためのイベントだったんだよ。ウェンディの順位が低いから、キャサリンがそれを見かねて手助けに来てくれたに違いない。あの子はそういう女の子だからね」

「……なるほど、そういうことか。ショウからキャサリンのことを聞いた今なら、確かにそう思える」


 どうやら、みんな昨日のイベントで吟遊詩人総選挙に向けて大きな力を得ていたようだ。

 ……あれ? もしかして、俺だけ何もパワーアップしてなくね?

 冷静になって考えると、急に焦りがこみ上げてきた。

 これで最終的にキャサリンに負けたりしたら、彼女に合わせる顔がないぞ……。


「おしゃべりはここまでだ。予想順位発表がきたぞ」


 メイの声で我に返る。気づけば、目の前には「15日目終了時点の吟遊詩人総選挙予想順位」の文字が浮かんでいた。

 俺達は静かに順位発表を見守った。


 今回のそれぞれの順位は、

『10位 ウェンディ』

『8位 エルシー』

『5位 カレン』

『2位 イングリッド』

と、全員トップ10入りを果たした。

 ウェンディが大きく順位を上げたのは、俺が想像した通り、キャサリンとのイベトンとの影響があってのことだろう。きっと、つき合ったキャサリンも喜んでいるに違いない。

 なお、1位は言うまでもなくキャサリンだった。


 翌16日目、俺はミコトさんとのジョイントライブを中音楽劇場で開催した。初めての中音楽劇場だったが、二人の知名度が相まって客席は満席となった。

 19日目には、エルシー単独で中音楽劇場でライブを行い、エルシー一人でも中音楽劇場の客席を埋め尽くすほどの成長を見せていた。

 彼女のステージを見ていても、確かに成長を感じ、胸が熱くなった。

 特技も応援技も覚えられなかったが、エルシーは確実に強くなっている。


 一方、クマサンは、相変わらず公園で子供達相手の無料パフォーマンスを続けながら、貴族達のパーティにもたびたび顔を出しているようだった。独自路線の戦い方だが、貴族との繋がりはちょっと羨ましい。

 俺とエルシーはそっち方面にはあまり手を伸ばせていない。そのため、コネクションが必要な大音楽劇場をエルシーは、普通のやり方では使えない。保有している無料チケットを使えば可能だが、それを使えるのは1回だけ。使いどころは考えなければならない。


 だけど、そんな大音楽劇場をすでに使える者がいた。

 メイのイングリッドだ。

 貴族達にもしっかり売り込み、確かなコネクションを築いていた。メイの動きを見ていると、貴族達だけでなく、裏社会とまで繋がりを作っているようで、その手腕にはただ驚かされる。

 実際、メイのイングリッドは20日目に、大音楽劇場で単独ライブを開催するまでに至っていた。

 いまだ中音楽劇場しか使えないエルシーと、すでに大音楽劇場でのライブを成功させているイングリッド。その差に、悔しさが湧き上がってくる。


 そして、20日目の夜。4回目の順位発表が行われた。


『7位 ウェンディ』

『5位 エルシー』

『3位 カレン』


 みんな確実に順位を上げてきていた。俺はトップ5、ミコトさんはトップ3入りと、総選挙当日に向けて順調な伸びを見せ、ジョイントライブなどで協力してきた俺とミコトさんはグータッチを交わして互いの健闘をたたえ合った。

 だが、驚きはすぐにきた。


『2位 キャサリン』


 絶対王者だったキャサリンがその座からついに陥落したのだ。

 そしてすぐに新たな暫定王者の名が表示される。


『1位 イングリッド』


 20日目終了時点で、早くもメイはトップに立った


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