「ショウさん、大丈夫ですか!?」
ミコトさんが、心配そうな顔を向けてきた。再び無様な姿をさらした俺を見て焦っているのが伝わってくる。
「ショウへの追撃はない。回復は私がやる」
メイはヒール・中を使った
ショウの体力が120回復
失われた体力の半分ほどが回復した。
今はこれで十分だ。オーバーヒールになるともったいないので全快する必要もない。
俺は片手を上げ、メイに感謝の意を示す。
メイとミコトさんは、すでに最初の位置と同じようなところへ戻っていた。少し違うのは、二人が多少距離を開けているところだ。先ほどのように横に並んでいては、またブレスの対象にされた時、二人ともがダメージを受けかねない。戦いの中で臨機応変に立ち回る柔軟さは、強敵相手に勝つためには必要なことだ。一つの戦術に凝り固まっていては、このインフェルノには勝てない。
「……俺も考えを変えないとな」
ダウン状態から回復し、起き上がった俺は、インフェルノの尻尾ではなく、後ろ脚に向かって走り出した。
このまま尻尾に固執して狙い続けては、再び尻尾の一撃を食らい吹き飛ばされるだけだろう。俺が無駄にダメージを負えば、メイだけでなくミコトさんのSPにまで負担をかけることになる。それは俺達の戦闘継続時間を縮めることに繋がってしまう。インフェルノの体力を削り切るまでにヒーラーのSPが尽きれば、俺達の負け確定だ。タンクではない俺は、極力ダメージを受けないようにしなければならない。
そのためには、多少与えるダメージが落ちても安全策を取るのが、この場合に必要なことだった。
「スキル、輪切り!」
ショウの攻撃 インフェルノに178ダメージ
与えるダメージの減少は痛いが、これは仕方ない。インフェルノの体力が減るほど、尻尾攻撃の頻度が増している気がする。ここで無理をすれば、それこそ命取りになりかねない。
「ショウ、後ろ脚を狙うのか!?」
メイが魔法スクロールを使いながら、訝しげに声をかけてきた。
「尻尾の動きに集中していたが、予備動作が全く読めなかった。あれは回避不能の攻撃だ。これ以上、無駄にダメージを受けるわけにはいかない」
「そうか。了解だ」
接触発動型の魔法でない限り、魔法攻撃において敵の向きや部位は関係がない。メイにとって、本来なら俺がどこを狙おうが、気にする必要はないはずだった。しかし、今は事情が違う。彼女が俺の回復を担ってくれている以上、俺達の動きや立ち位置は連携していなければならない。状況を共有しておくことは重要だった。
「俺の体力は気にせず、メイは自分の仕事を――ぐひっ!」
不意に鋭い痛みが背中を襲い、俺は無防備に目の前の太い脚に叩きつけられた。
インフェルノの巨大な尻尾が、容赦なく振り回され、俺の背中に直撃したのだ。
俺はその場に倒れ込む。
インフェルノのテイルスマッシュ ショウにダメージ201
インフェルノの尻尾攻撃には、強制ダウンの効果がついている。これでもう三度目だが、この状態になると短時間ながら行動不能に陥り、起き上がることすらできない。
メイはヒール・大を使った
ショウの体力が240回復
即座に回復してくれるメイに、感謝の気持ちが込み上げる。同時に、申し訳なさが胸を刺す。俺の体力を気にするなと言ったそばからこのザマだ。さっきの自分を思い返し、倒れ込んだまま恥ずかしさを感じる。
とはいえ、今は恥じている場合じゃない。
それよりもまず対策を考えなければならなかった。このままでは、俺はダメージを食らうだけのお荷物になりかねない。
動けるようになった俺は、立ち上がりながら頭をフル回転させる。
「尻尾攻撃はノーモーション。尻尾を攻撃していたら、見てかわす余裕はない。でも、この位置なら尻尾が届くまでには多少時間があるはず……」
そう考えた俺は、そこに回避のチャンスを見つけた。
だけど、この位置からでは尻尾の動きがよく見えない。後ろを見続ければ、背後からの攻撃には気づけるかもしれないが、肝心の攻撃ができない。
俺一人なら、そこで詰みだっただろう。でも、今の俺は一人じゃない。自分の目で見えないのなら、仲間の目を借りればいいんだ。
「メイ! 尻尾攻撃が来たら教えてくれ!」
「――――!? ――わかった!」
詳しい説明は不要だった。メイは俺の意図を即座に理解してくれた。同レベルで戦術を理解し合える仲間というのは本当に頼もしい。
メイにさらに俺にヒールをかけてくれて、俺の体力はほぼ全快に近くなる。
「さっきから何度もダウンさせやがって! 食らえ! スキル、みじん切り!」
ショウの攻撃 インフェルノに482ダメージ
俺の怒りの一撃がインフェルノに炸裂する。
これだけダメージを与え続けても、敵のターゲットは微動だにせず、依然としてクマサンを捉えたままだ。俺がダメージを受けることでヘイトが減っているにしても、クマサンのタンクとしての確かな働きには、ただ感謝するしかない。クマサンがいるからこそ、俺は攻撃に専念できる。
仲間の頼もしさを感じながら、俺はさらに料理スキルを重ねる。
インフェルノの体力ゲージは確実に減っていくが、それでも油断はできない。敵は尻尾の強烈な一撃を放つタイミングを伺っているはずだ。
「……そろそろまた尻尾攻撃が来てもいい頃だな」
戦闘を続けていると、不思議とそんな直感が働くようになってくる。これが意外と当たるもので――
「ショウ! 尻尾だ!」
きたっ!
俺の鋭い叫びが響いた瞬間、俺の全身が反射的に動いた。
目の前にはインフェルノの太い脚、後ろには尻尾、逃げ道は左にしかない。
俺は力強く一歩を踏み出し――
「ふぎゃっ!」
また尻尾の強烈な一撃を食い、後ろ脚に叩きつけられた。
インフェルノのテイルスマッシュ ショウにダメージ203
地面に倒れ込んだまま、しばし動けずにいる。
尻尾には強制ダウン効果があるとはいえ、その速さに俺は茫然とし、呻くように呟いた。
「尻尾の動き、速すぎるって……」
やってみてわかった。
インフェルノの尻尾攻撃は、仲間の声を聞いてから反応しようとしたところで、回避できるような甘い攻撃ではなかったのだ。