「はぁ…はぁ…」
息が上がっている…この娘の拘束をとくのに随分と魔力を使わされたせいで体が重い。だが追ってきている気配が2つ…人間だ。私を殺しに来たんだろう。返り討ちにして魔力を補充したい…私一人なら…だが。
「ここまでか…」
森に入れはしたが2つの気配は確実にこちらに向かってきている。補足されているのだろう。この娘を取り込めばまだ逃げれるんだ…もともとそのつもりでこの娘を拾ったのだ。あの赤子を…
数年前、人間と魔女の力の天秤が人間側に傾き始めたころ、魔力を求め隠れて人間を殺していた。人間が生きるために動物を殺すのと同じように魔女も人間を殺す。だが…その路地で偶然その声を聴いた。
「~”~”~”!!」
鳴き声だった。声の主は布にくるめられた赤子だった。近くに親らしい人間はいなかったし、殺した人間のなかにもそれらしい人間はいなかったはずだ。
好都合だった。命がけの狩りをするのにも限度がある。なら、何も知らない子供をさらい育て多くの魔力が取れる20歳になれば刈り取ればいい。そう思っていた。
だがヘマをした…この町に長居しすぎたのだ。小指の切り落とし…指切りを行われている町に長居するべきではなかった。
「まだ成長しきってないけれど…仕方ないか…」
私は娘に手をかざす。気を失っている娘から魔力を取るのは動作もない…だが…
「なんで私は迷っている…!」
小刻みに震える自分の指を見て己に問いかける。今まで多くの人間を殺してきた…人間を殺すのは慣れているのに…思い通りにいかない。
「はやくしないと…追手が……」
そう考えていた時、首筋に悪寒が走った。
(よけきれない…!)
痛みが全身に走るその刹那視界が反転する。
「やはり首を切り落としても死なんか…」
鎧を着こみ大剣を構える男がそう話す。
「お前の心
男はその大剣を振りかぶる。その矛先は、私が持ち出した娘だった。
「やめろー!!」
首を切断された私はもはや叫ぶしかなかった。目の前で娘が殺されるのを見届けることしかできなかった…はずだ。だが…
予想していた結果にはならなかった。
金属がぶつかる音が響く。男の大剣が弾かれたのだ。
「魔女…か?」
突如現れたローブの正体をそう考察した。だが…そんな私の予想はすぐに裏切られた。
「ふん!」
男がもう1度大剣を振り抜くとローブは体制をかがめて回避した。その拍子にそいつが羽織っていたローブが外れる。
「男…!?」
魔女はその名の通り女しかその力を覚醒させない。つまり目の前の男は人間だ。魔女とその共謀者として認定されたその娘をかばう理由はないはずだ。そんなことを考えていると男はさらに驚くべきことをした。
手を掲げるとその手から黒い霧が噴出したのだ。
「あれは…魔力!?」
魔女の自分が見間違えるはずもない。その霧は間違いなく魔力だ。魔女しか保有しない魔女の生命力を今、目の前で男が…魔女ではないただの人間が使っている。
理解ができなかった。ただ、その人間は私のそばに一瞬だけ移動するとその言葉を発した。
「安心しろ」
そこで私の意識は途切れてしまった。