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29 森の泉


 森の中に唐突に泉がある。


 真ん中には浮島があり一本の大木が生えている。

 浮島といっても本当に浮いているわけではなく、ちゃんと地面がある。


「わにゃにゃ、泉だああ」

「あはは」

「はい、本当、きれいだ」


 水は澄んでいて、魚がたくさん泳いでいる。

 オオオニバスの仲間だろう、丸い葉っぱが水面に浮いている。


「あの、お姉ちゃん、私ちょっとお水で体を洗いたいんだけど」

「ごめん、妹ちゃん、だめよ」

「そんなぁ」

「ここの水、きれいなんだけど、その魚がピラニアの一種でね、食べられちゃうわ。めちゃくちゃ獰猛どうもうなの」

「うわあ」


「それから、ここにもワープポータルがあるの」

「これだね」


 森の正面にちょっと空き地があってそこにポツンとワープポータルがある。

 クリスタルが上に付いてる石像だ。


「うん、でも反応しないのよね」

「本当だ」


 普通なら近づいたらメッセージが流れるけど、何も起きない。


「それで向こう側まで行くとわかるんだけど、浮島にほこらがあるのよ」

「うんうん」

「その、祠まで行ってみたいんだけど」

「島に渡りたいの? それならハスの葉を伝っていくとか」

「大丈夫かな? 沈んじゃいそうで」

「大丈夫、大丈夫、僕たち小さいから」

「本当?」

「うん……たぶん」


 ちょっとリズちゃんは消極的だけど、ここは僕が男を見せる番だ。


「じゃあ僕からやってみるね」

「でも、正面見てもハスで島まで行けそうにないわよ」

「ほらよくみて、右側、よくよく見ると斜めに交互になってて渡れそう」

「本当だ! 気が付かなかったわ」


 僕は島を右側から回り込む。

 直線距離では島までは正面が近いけど、葉っぱで渡れそうなのは右側だけだ。

 葉っぱをよく見てルートを先に決める。途中まで行って行き止まりだと困る。


「まず1つ目」

「うん」


 そっと葉っぱに乗る。


「やった! 成功だ」

「おおお」

「お姉ちゃんやったにゃ」


 2つ目、3つ目とクリアしていく、1つずつ慎重に進む。

 一見右ルートが奥まで行きそうだけど、最奥手前で行き止まりだ。

 正解はちょっと離れてて渡りにくそうだけど左だ。


 こうして僕はついに最後の葉っぱから島に飛び移った。


「やったやった」

「おおう、さすがワイちゃん」

「やったにゃ、お姉ちゃん」


 次はリズちゃん、そしてアルテと島に渡ってきた。


「お待たせ」

「お姉ちゃん、わたしもこれたよ」


 気が付いたらハリネズミのしゅーちゃんもこっち側にいた。さすがすばしっこい。


 ここは安全なのかな、とりあえず安全ということにしよう。

 ペナルティ時間も経過したので、ミミちゃんを召喚する。


「祠、あるね」

「うん」

「にゃ」


 確かに小さな祠がある。

 コケが生えていて、年季物だろう。


 僕は町で最初に採ったリンゴ、狩りの途中に採ったスズメウリ、最近採ったレモンをお供えする。


「それじゃあ、はい」


 ぱんぱん。


 日本式だけど、手を合わせる。


 水の竜巻みたいなのがいきなり現れて、それがやむと一人の12歳ぐらいの少女が空間に浮かんでいた。

 水色のロング髪に水色のバトルスーツ、ミニスカートだ。


 一瞬、ボスかと思ったもののマーカーの色は青、NPCだった。


わらわは『クリアリーウォーティー』」


「きゃああ、かわいい!」

「にゃああ、かわいい!」


「あ、うん。かわいいね」


「なんなのだ」


 かわいい子大好きなリズちゃんと妹はすぐ反応した。


「ささ、早くこっちにきてください」

「あ、ああ」


 水妖精さん、だよね。その水妖精さんが降りてくる。


 そして三人がって、あぁ僕まで巻き込まれてハグしあう。

 なんだこれ。


 なんとか治まり、ちょっと離れる。


「ごほん、妾はお金よりも、果物が好きじゃ」

「なるほど」

「それはよかった」


「妾はそれから、かわいいものが好きじゃ」

「私も」

「わたしもにゃ」

「うむ。気が合うのう。ということで子供たちには『聖水妖精の加護』を送ろう」


「「「あ、ありがとうございます」」」


「うむ」


「「「はい」」」


「それから、妾の加護者が水魔法のひとつも覚えていないとはけしからんので、初級魔法ウォーター、上位魔法エクストラハリケーンを与えよう」


「「「はい、ありがとうございます」」」


「ああそれと、妾と友誼ゆうぎを交わしたのが合計10人を超えた記念に、あそこのワープポータルは好きに使っていいぞ。ポータルは冒険者みんなで使っていい。ただし妾のことを言いふらしてはならぬ。さもなければ加護とポータル機能は失われる」


「「「ありがとうございます」」」


「では、さらばじゃ」


 そういうと消えてしまった。

 なんだか、忙しい。


「あっという間だった」

「うん」

「うにゃ」


 それから妹が目を輝かせて、いう。


「そうにゃ、ウォーター、あああ」


 ウォーターを発動し、全身で水を被る。

 妹は水浸しになったが、確かにべたべたついていた粘液と汚れがきれいに取れていた。


「ああ~やっとすっきりした」


『ほう、面白いのじゃ』


「あれ妖精さん?」

『なんじゃ。今はこのスライムを通して話しておるのじゃ』


「まさかついてくる気では」

『そ、そんなことはないぞ。たまに覗きにくる、よく冒険して励むように、では、さらばじゃ』


「あはは」

「お、おう」

「にゃんにゃ」


 なんだか怪しいが、見えないものはどうにもならないか。


 ハスをなんとか伝って島から出て、ワープポータルで戻った。


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