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25 チャット勢


 噴水広場の隅にて。


 料理、なのだろうか。

 手動操作で、水筒のお水にレモンを絞ってはい、完成。


「レモン水でーす」


 シンプルだけど、さっぱりして美味しい。


 この水筒、実はマジックアイテムで無限に普通の水が出る。


「レモン水いかがですか~」


 そうすると周りの人が集まってきた。


 みんな初期装備セットの中のひとつ、コップを持って並んでくれる。


「レモン水、1杯、100Gです」


 生レモンをその場で絞っているから、ちょっと高級に見えるといえば見える。


 そうして買ったうちの何人かが、噴水広場の横のほうで輪になって座りだした。


「レモン水もいいよね。こうしてたまに飲むとおいしい」

「そうそう。しかも美少女の手作りなのが最高」

「彼女たちのものは、なんでも最高でござる」


 冒険にもいかないで、レモン水片手に談笑している。


「あのね、ワイちゃん。こういう人たちを、昔のゲームになぞらえて『チャット勢』っていうの」

「ほーん。チャット勢ね」

「そうそう」


 なるほど。今は普通に仮想対面で会話をするシステムだけど、昔のゲームはキーボードから文字を打って、文字だけで会話をしていたという。

 だから会話勢じゃなくてチャット勢。


 今でも、リアルでは文字を送るチャットアプリは人気だ。

 会話が簡単になったといっても、場所と時間、色々な理由で文字で会話を好む人もいる。


 女の子たちがワイワイはしゃいで、お話をしている。

 隣では男性陣が陣取って、その会話を聞いたり、自分たちだけで盛り上がったりしていた。


 僕は……ぜんぜんついていけないので、ちょっと離れた場所から寂しく眺めるだけだ。


「ワイリスちゃんとリズエラちゃんは天使でござる」

「そうだそうだ天使ちゃんだ」

「翡竜オンラインに咲く可憐な二輪の花ではなかったっけ」

「もちろんでござるよ」

「俺もあんな彼女欲しいよ」

「それなら拙者だってほしいでござるよ、にんにん」

「だよなあ」


 なんだか僕たちのことが話題だ。

 うぅ。恥ずかしい。


「あのねワイちゃん」

「なあに」

「チャット勢といっても、ログインしたらほぼまったくチャットしかしないチャットオンリーの人と、普通に狩りとかもする人もいるんだ」

「ほーん」


 ここの人はチャット勢といっても、正真正銘のチャット勢ではないのだろう。


 面白い。でもチャットしかしない人ってすごいな。

 ゲームにチャットだけをしに来ているんだ。


 世の中変わった人もいるんだなぁ。


「前、写真いっぱい撮られたじゃない」

「うん」

「ああいうの専門にしてる人はSS勢っていうのよ」

「SS勢にゃん」


 なるほどSS勢。

 スクリーンショット、スクショを略してSSというからSS勢。覚えた。


 そういえば、妹も暇さえれば『僕の』スクショを撮ってる時がある。

 なにがそんなにいいんだか、ちょっと理解に苦しむ。

 まあ嫌なほどではないし、そういう趣味なら別にいいんだけど。


「ワイリスちゃんたちも、こっちきて一緒に話そ?」

「そうだそうだ」


 女性陣に引っ張られていく僕たち。

 わいのわいの。


 あーだこーだ。


 なんだかが美味しい。


 なんだかがかわいい。


 きゃーのにゃーの。


 うう、僕ついていけない。



 しばらくして、やっと大雑談大会を終わらせた。

 僕は疲れたよ。


 ずっとハリネズミちゃんとミミちゃんを抱っこして、なんとか過ごした。


 そうそうハリネズミちゃんの名前を考えたんだ。


「ハリネズミちゃんにも名前を考えよう」

「にゃん?」

「ぷぅぷぅ」


「シュークリームのしゅーちゃん」

「ぷぅぷぅ」


 はい、パチパチパチ。


 心の中で拍手を送る。ハリネズミちゃんはしゅーちゃんになりました。


 ミミちゃんだけ名前があるのは不公平だからね。


「はいしゅーちゃん」

「ぷぅぷぅ」

「おて」

「ぷぅ、ぷぅぷぅ!」


 おー。芸もできるのか、えらいぞお。


 ちょっとしゅーちゃんと遊んだ。

 周りではミミちゃんも飛び跳ねている。


 みんなかわいい。


 いやあ、楽しいなぁ。


「さて、妹ちゃんもレベル5になったし」

「うんにゃ」


「川のセーフティーエリアまで行こっか」

「おおう」

「はいにゃ」

「ぴきゅぴきゅ」

「ぷぅぷぅ」


 メンバーも増えてにぎやかになってきた。


 町を通って城門に向かう。

 今日も兵士さんにニコニコ顔で見送られた。


 ラングデス平原を道沿いに進んでいく。

 道上は敵がほとんど出てこないみたいで、らくちんだ。


 グリーンスライムLv5。

 ブルースライムLv8。

 ラージラットLv8。

 ホーンラビットLv10。


 ホーンラビットはチュートリアルで出てきたテイムモンスターだった子だ。

 ラビットは白い毛で頭に角がある。大きさはカピバラのサイズでちょっと大きい。


「角による突進が大ダメージを与えてくるけど、よく見て避ければ大丈夫」

「できるかな」

「できるよ、大丈夫だわ」

「はいにゃ」


「ラビットちゃん、えいやあ」


「きゅぷ」


 ラビットに攻撃、ダメージを与えて討伐する。


「にゃ、お姉ちゃん、お肉!」

「うんっ」


 ドロップは『ラビットの肉』。お肉である。

 ラットよりサシが入っていて、おいしそう。


 そうこうしているうちに橋の手前に到着した。


「はい、ここが『ミランダ橋』でーす」


 リズちゃんが案内してくれる。


 橋の手前には、木の柵で囲われた簡易陣地ができていて、セーフティーエリアを形成している。


 入口すぐの横に、クリスタルを掲げているオブジェクトがあるので、近づくとアナウンスが。


『ワープポイント:[ミランダ橋]を登録しました』

『復帰地点を[ミランダ橋]に設定します』


 ほーん?


「復帰地点?」

「うん。いわゆる『リスポーン地点』っていうやつね。死んだときにここで死に戻りするのよ。変えたくないときは、この像に近づかないままにすればいいんだよ」

「ふーん」

「例えば、アスタータウンに設定したまま、ここを避けて進めば、死んだときはアスタータウンで復活するの」

「あーうん、わかった」

「よしよし、えらい子は好きだわ」

「えへへ」


 僕たちは、ミランダ橋に到着しました。


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