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19 変異種ミミ


 そんなこんな、グリーンスライムを次々と倒して移動していたところ、変なスライムを見つけた。


「なにこの子。耳がついてる!!」

「おお、これは珍しい。私も初めて見るわ」


 そこにはマーカーに『ミミグリーンスライムLv5』とある。

 ミニグリーンスライムの誤記じゃない。小さいんじゃなくて、オオカミみたいなとんがり耳がある。


「可愛い! ミミスライムちゃんっ」

「そうだね」


「決めたっ、この子をテイムしてみせる」

「いきなり本番?」


「しょ、しょうがない」

「そうね、やってみるしかないわね」

「うん」


 ミミスライムちゃんと対峙する。


 ここのスライムはノンアクティブというタイプで攻撃しない限り、先に攻撃されたりしないのだ。


「うーん。カモンアイテム、テイムシード」


 テイムシードを片手で持つ。

 色は青ベースに赤と緑の絵の具バケツのこぼしたみたいな模様が入っている。


「ぴきゅぴきゅ」


 お、鳴いた。か、かわええ。


 僕、リズちゃん、ハリネズミちゃんが、並んでミミスライムを観察している。


「どうだい? うちの子になる気はない?」

「ぴきゅ」


「う、鳴き声は可愛いけど、はいか、いいえか、わからない……」

「ぴきゅぴきゅっ」


「可愛い」


 じっと見つめる。


 左手を下から差し出す。

 これは猫とかと一緒だ。上から手を出すと、怖いと思われてしまう。


「ちっちっちっ、ぴきゅちゃん、いい子だね」


 そっと近づく。


「テイムシード!!」


 テイムシードがぱかっと開いて、光があふれる。


「きゅぴきゅぴっ」


 光が治まったけど、相変わらずミミスライムちゃんは目の前にいる。

 そしてテイムシードは消えていた。


「残念、失敗だった」

「もう一回やってみましょ」

「うん」


 アイテムシードを出して、使う。


「テイムシード!!」


 ぴかーんと光って、風が吹く。


 再び治まると、今度は目の前のミミスライムがいなくなっていた。


「やった? やった!」

「うん、成功だね」

「やったあああ」


 こうしてミミスライムを無傷でテイムに成功した。




「ささ出ておいで、ミミスライムちゃん」


 アイテム『テイムシード:[ミミグリーンスライム]』になっているので、召喚する。

 テイムだけど、ゲームでは召喚ものらしい。

 召喚だとテイマーじゃなくてサモナーになってしまうけど、細かいことはいいの。


「きゅぴきゅぴ」


「出てきた、かあ~わいい」


 親ばかである。いいの、かわいいの。


「ミッション達成!」

「そうね、よかったわ。すごい、ワイちゃん」

「えへへへ」


 さて平原だけど、ちょっと町から離れている。

 ここからだと、すぐ戻るのは無理だ。


「戻るのには時間がかかりますが、じゃじゃーん。『シルフの息吹』をつかいませう」

「うん、そうしよっか」



「「シルフの息吹!」」


 僕とリズちゃんの声が重なって、風が吹く。




 風が強いので目をつぶって、あっと思ったら、もう噴水広場になっていた。


「も、戻ってきたああ」

「うふふ、簡単なことで、感激して、可愛い」


「ううぅ」

「ふふん」


「そうだ。ハリネズミ君とミミちゃんは?」

「え、ちゃんとそこにいるでしょ?」

「ああ、いた。後ろだった! びっくりしたあ」


 ペットとテイムモンスターは、所有者が飛ばされると一緒にくっついてくるから、心配無用なんだって。

 知らなかったし、説明もしてくれなかったもん。


 ほーら、周りの人に、生暖かい優しい目をされてるじゃん。

 絶対、おっちょこちょいで可愛いって思ってるよ。


 別にいいけど、くそお。


「あれ? よく見ると、あのスライム変異種じゃね」

「あほんとだ、何これ、見たことない」

「あマジじゃん」


 なんか人が集まりだしてしまった。

 僕たちを注目してくる。


「マーカーは『ミミグリーンスライム』になってるけど」

「名前を付ける前はモンスター名がそのまま表示されるんだっけか?」

「そんなこと知らん。すぐ名前付けちゃうし」

「そうだよねえ」


 そういえば名前はつけてなかった。不覚。


「名前は『ミミ』ちゃんです」


 名前設定をする。


「ぴきゅぴきゅ」


 名前を付けて、反応して、超進化するか! 光ったぞ!!



 ……。




「超進化とかしないの?」

「しないわね、名前付けただけだものね」

「そうなんだ」


 なーんだ。進化するのかとドキドキして損したあ。


「か、可愛い」

「ああ、可愛いよな」

「いい」

「しゃ、スクショ、とらせてください」

「あ俺も」

「俺も俺も」

「せ、拙者も、できるなら、ぜひ」


 ミミちゃんは大人気だなあ。


 みなさんは、ミミちゃん僕とリズちゃん、ハリネズミ君を1セットにして、写真を撮ってくれる。


「あーこっちピースしてください」

「こっちは目線ください」

「あはは、もうちょっと笑ってください、緊張しすぎだよ」

「大丈夫だよ、怖くない怖くないだよー」


 励ましてくれる。笑顔だ。えいえいおー。


 あれ、なんか僕単独とかの写真もなぜか撮りたいみたいで、ソロも何枚か撮影していた。


 撮影会はちょっと長くかかった。


 これで今日のプレイはおしまい、おひらきとなりました。


「じゃあまた、明日よろしく」

「うん、また明日ね、ばいばい、ワイちゃん」

「なんか、けっこう長くプレイしたけど、これで1日なんだね」

「うん、すごく濃い夏休みになりそうだね。じゃあね」

「それじゃあ」


 挨拶をしてログアウトする。

 人生で一番長い1日だったかもしれない。


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