そんなこんな、グリーンスライムを次々と倒して移動していたところ、変なスライムを見つけた。
「なにこの子。耳がついてる!!」
「おお、これは珍しい。私も初めて見るわ」
そこにはマーカーに『ミミグリーンスライムLv5』とある。
ミニグリーンスライムの誤記じゃない。小さいんじゃなくて、オオカミみたいなとんがり耳がある。
「可愛い! ミミスライムちゃんっ」
「そうだね」
「決めたっ、この子をテイムしてみせる」
「いきなり本番?」
「しょ、しょうがない」
「そうね、やってみるしかないわね」
「うん」
ミミスライムちゃんと対峙する。
ここのスライムはノンアクティブというタイプで攻撃しない限り、先に攻撃されたりしないのだ。
「うーん。カモンアイテム、テイムシード」
テイムシードを片手で持つ。
色は青ベースに赤と緑の絵の具バケツのこぼしたみたいな模様が入っている。
「ぴきゅぴきゅ」
お、鳴いた。か、かわええ。
僕、リズちゃん、ハリネズミちゃんが、並んでミミスライムを観察している。
「どうだい? うちの子になる気はない?」
「ぴきゅ」
「う、鳴き声は可愛いけど、はいか、いいえか、わからない……」
「ぴきゅぴきゅっ」
「可愛い」
じっと見つめる。
左手を下から差し出す。
これは猫とかと一緒だ。上から手を出すと、怖いと思われてしまう。
「ちっちっちっ、ぴきゅちゃん、いい子だね」
そっと近づく。
「テイムシード!!」
テイムシードがぱかっと開いて、光があふれる。
「きゅぴきゅぴっ」
光が治まったけど、相変わらずミミスライムちゃんは目の前にいる。
そしてテイムシードは消えていた。
「残念、失敗だった」
「もう一回やってみましょ」
「うん」
アイテムシードを出して、使う。
「テイムシード!!」
ぴかーんと光って、風が吹く。
再び治まると、今度は目の前のミミスライムがいなくなっていた。
「やった? やった!」
「うん、成功だね」
「やったあああ」
こうしてミミスライムを無傷でテイムに成功した。
「ささ出ておいで、ミミスライムちゃん」
アイテム『テイムシード:[ミミグリーンスライム]』になっているので、召喚する。
テイムだけど、ゲームでは召喚ものらしい。
召喚だとテイマーじゃなくてサモナーになってしまうけど、細かいことはいいの。
「きゅぴきゅぴ」
「出てきた、かあ~わいい」
親ばかである。いいの、かわいいの。
「ミッション達成!」
「そうね、よかったわ。すごい、ワイちゃん」
「えへへへ」
さて平原だけど、ちょっと町から離れている。
ここからだと、すぐ戻るのは無理だ。
「戻るのには時間がかかりますが、じゃじゃーん。『シルフの息吹』をつかいませう」
「うん、そうしよっか」
「「シルフの息吹!」」
僕とリズちゃんの声が重なって、風が吹く。
風が強いので目をつぶって、あっと思ったら、もう噴水広場になっていた。
「も、戻ってきたああ」
「うふふ、簡単なことで、感激して、可愛い」
「ううぅ」
「ふふん」
「そうだ。ハリネズミ君とミミちゃんは?」
「え、ちゃんとそこにいるでしょ?」
「ああ、いた。後ろだった! びっくりしたあ」
ペットとテイムモンスターは、所有者が飛ばされると一緒にくっついてくるから、心配無用なんだって。
知らなかったし、説明もしてくれなかったもん。
ほーら、周りの人に、生暖かい優しい目をされてるじゃん。
絶対、おっちょこちょいで可愛いって思ってるよ。
別にいいけど、くそお。
「あれ? よく見ると、あのスライム変異種じゃね」
「あほんとだ、何これ、見たことない」
「あマジじゃん」
なんか人が集まりだしてしまった。
僕たちを注目してくる。
「マーカーは『ミミグリーンスライム』になってるけど」
「名前を付ける前はモンスター名がそのまま表示されるんだっけか?」
「そんなこと知らん。すぐ名前付けちゃうし」
「そうだよねえ」
そういえば名前はつけてなかった。不覚。
「名前は『ミミ』ちゃんです」
名前設定をする。
「ぴきゅぴきゅ」
名前を付けて、反応して、超進化するか! 光ったぞ!!
……。
「超進化とかしないの?」
「しないわね、名前付けただけだものね」
「そうなんだ」
なーんだ。進化するのかとドキドキして損したあ。
「か、可愛い」
「ああ、可愛いよな」
「いい」
「しゃ、スクショ、とらせてください」
「あ俺も」
「俺も俺も」
「せ、拙者も、できるなら、ぜひ」
ミミちゃんは大人気だなあ。
みなさんは、ミミちゃん僕とリズちゃん、ハリネズミ君を1セットにして、写真を撮ってくれる。
「あーこっちピースしてください」
「こっちは目線ください」
「あはは、もうちょっと笑ってください、緊張しすぎだよ」
「大丈夫だよ、怖くない怖くないだよー」
励ましてくれる。笑顔だ。えいえいおー。
あれ、なんか僕単独とかの写真もなぜか撮りたいみたいで、ソロも何枚か撮影していた。
撮影会はちょっと長くかかった。
これで今日のプレイはおしまい、おひらきとなりました。
「じゃあまた、明日よろしく」
「うん、また明日ね、ばいばい、ワイちゃん」
「なんか、けっこう長くプレイしたけど、これで1日なんだね」
「うん、すごく濃い夏休みになりそうだね。じゃあね」
「それじゃあ」
挨拶をしてログアウトする。
人生で一番長い1日だったかもしれない。